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Interview
経験豊富な教育者としても名高いトロンボーン奏者、マイケル・ディーズが語るSeiko Summer Jazz Camp
トロンボーン奏者 マイケル・ディーズ
- 2020/09/24
- 2024/07/12
Profile
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Michael Dease(マイケル・ディーズ)
Michael Dease(マイケル・ディーズ)
米ジョージア州オーガスタで生まれ、17歳でトロンボーンをスタート。ジュリアード音楽院で学士と修士を取得。2002年のイリノイ・ジャケーを振り出しに、ロイ・ハーグローブ、ニコラス・ペイトン、クリスチャン・マクブライドらのビッグ・バンドやリンカーン・センター・ジャズ・オーケストラのメンバーを歴任。現在ミシガン州立大学准教授。第1回Seiko Summer Jazz Camp 2016から講師を、第4回から主任講師を務める。
ユリシスは私の教育活動の経験を知っていたので、講師陣に推薦してくれました
トロンボーン奏者のマイケル・ディーズは第1回のSeiko Summer Jazz Camp 2016から講師に招かれて、このイベントを発展させてきた功労者だ。その前年に日本デビュー作『Let's Get Real』(Spice of Life)をリリースし、こちらでもようやく知名度を広げようとしたタイミングだった。
「ジャズキャンプの講師を打診されたのは、佐々プロデューサーとユリシス・オーエンスJr.(DR)からです。講師陣でもあるニュー・センチュリー・ジャズ・クインテットを生み出したチームです。私はそのデビュー作『Time Is Now』(2014年)にスペシャル・ゲストとして参加。ユリシスと私はジュリアード音楽院時代からの知り合いで、長い間共演関係にあります。彼は私の教育活動の経験を知っていたので、講師陣に推薦してくれました」。
学ぶことの愛情と教えることの愛情が、ジャズキャンプを特別なものにしている
5年目を迎えた2020年のSeiko Summer Jazz Campは「Web Jazz Camp」として、特別レッスンを期間限定で配信。9名の講師陣は新参加のベーシスト、ロドニー・ウィテカーを除いて前年と同じ顔ぶれが揃った。指導者としてのキャリアが豊かな主任講師のマイケル・ディーズにとって、このようなスタイルのジャズキャンプは初めてだったという。
「講師陣にはジャズの演奏に関して、基本レベルから中級、そして上級レベルまで、4つのビデオの制作を依頼。ジャズ演奏の様々な考え方を示し、世界中の人々と音楽的に繋がって、より良いミュージシャンになる方法を伝えました。レッスンはリアルな学生ではなくカメラを前にする違いはありますが、情熱を持って教えることは同じ。オンライン授業は過去の音楽教育が培ってきたものとは異なる点で、チャレンジであり、効果的だとも思っています」。
対面スタイルではなくビデオ・レッスンとなると、講師と受講者がその場で直接的なやり取りはできず、送り手からの一方的な形になることが想像できる。ディーズはその懸念もあらかじめ認識した上で動画を作成したようだ。
「ビデオを視聴した日本の多くの人々からフィードバックをいただきました。とてもポジティブな内容が多かった。ビデオを繰り返して見たことが、深い理解に繋がったようです。音楽を活気があって力強いものにし続けてくれた講師陣にとても感謝しています。同じことが学生側にも言えて、良い相互作用が生まれたと思います。彼らの学ぶ姿勢が素晴らしく、音楽に対して貪欲でした。ジミー・ヒース(TS)、ジェームス・ムーディー(TS)、クラウディオ・ロディティ(FLH)が私に教えてくれた1940~60年代のことを思い起こしました。人々は常にジャズに耳を傾けて、愛していたこと。日本の学生はこの感覚を持っています。それは講師陣に対する刺激になり、学ぶことの愛情と教えることの愛情が一つになり、ジャズキャンプを特別なものにしているのだと思います」。
ジャズはとりわけアメリカ人と日本人を結び付けた
ジャズで結びつくアメリカと日本の関係を近しいものと感じるディーズは、両国の間に長く続いているレガシーを拡張することが重要だと考える。ジャズには苦難を負い、過去の教訓を学んだ特別な“魂”がある。いい時と悪い時、悲観と楽観のすべてがあるのがジャズの歴史。「過去100年間、2国間の間には様々なことがありました。ジャズは世界中の人々、とりわけアメリカ人と日本人を結び付けたのです」。
Seiko Summer Jazz Camp2019は“If You Can Sing It, You Can Play It”をスローガンに掲げて開催された。その真意を尋ねると、「これはジャズが始まった時から言われている言葉。初期のジャズ・ミュージシャンは多くが歌手でした――ベッシー・スミス、ルイ・アームストロング、レッド・アレン。伝統は声で伝承されるもの。我々の先祖が行ったことを考えるのが重要です」。
オーディション制はジャズキャンプで最も良い点です
5年間の講師陣での体験は、Seiko Summer Jazz Campがディーズのキャリアを発揮する場所であるばかりでなく、自身が学びを得る場所にもなった。
「オーディション制はジャズキャンプで最も良い点です。講師陣がいっしょに応募者のビデオを見る。信じられないくらい高いレベルの演奏です。回を重ねるごとにレベル・アップしています。毎年、17~18歳の素晴らしい人材が出現。ジャズキャンプに参加することは競争なのですが、私は学生に参加するための申し込みを続けるべきだと励ましたい。一対一のトロンボーン・レッスンばかりでなく、アンサンブルを指揮するので、私はトロンボーン以外の参加者も指導することになります。様々な楽器で構成されたアンサンブルがいかに調和するかを学びます。また私は他の講師たちからも学んでいて、私自身が学生のようにも感じます。だから高いレベルの講師陣を構成することが重要なのです」。
Seiko Summer Jazz Campでの経験を重ねるにしたがって、ディーズの思い入れと期待は高まっている。その点を本人に尋ねると、饒舌に語ってくれた。
「毎年参加者のレベルが上がっているので、彼らに期待するものは大きいです。5年間、講師陣のメンバーを務めてきて、参加者に対して失望したことは一度もありません。彼らはしっかりと準備してキャンプに臨みます。キャンプの素晴らしさの一つはビッグ・バンド。2018年ではスタンダード曲ではなく、デビッド・サンボーンのために書かれた難しい譜面を用意しました。初日のメンバーは不安そうだったが、2日目には良くなり、最終日にはレコーディングの準備ができてスタジオに入れるレベルまで到達。参加者がどれだけ真剣に取り組んでいるかの証です。参加者は、講師陣の指導で大きく成長できることを期待していいと思います」
世界的に見ても唯一の個性的なジャズキャンプ
日常的に教育活動に従事するディーズが、Seiko Summer Jazz Campを特別なものに位置づける理由に誰もが興味を抱くだろう。その特別な魅力とは何だろうか。
「講師陣の多様性。それは重要なことだと考えています。私自身は黒人の母親と白人の父親から生まれ、二つの異なる文化の中で育ちました。講師陣の人種が偏っていたり、女性がいないジャズキャンプがありますが、Seiko Summer Jazz Camp にはそのようなことがなく、20代から50代まで年代も多様。多様性こそがジャズ。世界的に見ても唯一の個性的なジャズキャンプです」。インタビューの中でこちらが思いがけない印象的な発言があった。「多くの話し合いやお互いに協力し合うことを通じて、以前に比べて人間として相手の話をよく聞くスキルが高くなったと思います。このポジションにいることを感謝しています」。
SSJCが今後成長するためのアイデアも尋ねた。「レコーディングですね。これに関しては今や個人が自宅で録音できる時代になっているので、参加者と講師陣の共演も可能だと思います。他の教育機関との提携も重要。例えばヤマハ。ネットワークの構築とアイデアのギブ&テイクで協力し合えます。最優秀賞受賞者に贈られるJazz Institute at Brevardへの奨学金は今年受ける予定だった治田七海(TB)が、来年実現します。MSUへの留学も決まっています。5年前にSeiko Summer Jazz Campの講師になってから、日本人学生のレベルの高さを知り、七海は私が見た中で最も強力なトロンボーン奏者です」。
Seiko Summer Jazz Campはアメリカと日本の架け橋
2021年は2019年と同じ東京での対面スタイルのジャズキャンプが期待される中、ディーズに抱負を語ってもらった。
「ようこそ。Seiko Summer Jazz Campは家族であり、音楽の故郷です。講師はみなさんを手助けします。私たちのコミュニティの中で、皆さんのスキルをより力強く向上させます。参加すれば、人生に有益な指導者や友人、サポーターを得ることができます。応募して、私たちの仲間になってください。来年、私は日本に行きます。今年の分を含めて2倍のエネルギーを持って行きたい。来年はこれまでで最高のジャズキャンプになるでしょう。この5年間でカリキュラムがとても充実してきています。Seiko Summer Jazz Campは参加者の得意な部分を伸ばし、欠けている部分をサポートできる、アメリカと日本の架け橋。10年以内に音楽シーンで大きな花を咲かせるはずです」。