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講師で参加していた憧れのマイケル・ディーズとの出会いから、アメリカへの留学を決意

Interview

講師で参加していた憧れのマイケル・ディーズとの出会いから、アメリカへの留学を決意

2019 参加者 / トロンボーン 治田 七海

Profile

  • 治田 七海(ハルタ ナナミ)

    治田 七海(ハルタ ナナミ)

    治田 七海(ハルタ ナナミ)

    北海道出身の18歳。8歳のとき、通っていた小学校の金管バンドでトロンボーンに出会う。中学生になると札幌を中心にライブ活動をスタート。
    17歳で「Seiko Summer Jazz Camp(以下ジャズキャンプ) 2019」に参加し、Most Outstanding Student Award(最優秀賞)を受賞する。
    2020年の9月からミシガン州立大学に留学予定。

現在、18歳の治田さんは、17歳のときに「Seiko Summer Jazz Camp 2019」に参加。
見事 Most Outstanding Student Award(最優秀賞)を受賞した。
その後、Jazzの本場・アメリカのミシガン州立大学にJazz留学を決める。
そんな新しい人生を切り開く大きなきっかけになったのは、このジャズキャンプに講師として参加していた、現代の最高のジャズトロンボーン奏者のひとりマイケル・ディーズに出会えたからだ。

「自分だけの唯一無二のサウンドを、生きていくすべてのことから求めていくことが、この人生で死ぬまでやっていくことなんじゃないかなと、ずっと感じています」と語る彼女は、幼いころから自身が思い描いていた未来へ、今まっすぐに向かっている。

トロンボーンは「相棒みたいな感じ。人々の心に呼びかけるような。自分の気持ちを伝えやすい楽器」

治田さんとトロンボーンとの出会いは、8歳のときに小学校の金管バンドに入ったことから。「枯葉」などジャズナンバーを演奏する30名ほどのバンドだったという。
「当時は、トロンボーンって不思議な名前の楽器だなぁと思ったくらい。特にこだわりもなく決めました」というが、先に習っていたピアノより熱心にトロンボーンを毎日練習していた。そして「今は相棒みたいな感じになっている」という。

トロンボーンという楽器は、“大きなトランペット”という意味がある。音域も男性の声域に近いので、聴き続けるととても親しみが持てる音を奏でる楽器だ。
彼女もそんなところに魅力を感じているようだ。「そんなに目立つ楽器でもないし、ピアノやベース、ドラムよりもライブでセッションできる機会などは少ないとは思うのですよね、でも渋さとか・・・。また人間の声に近い、人々の心に呼びかけるような感じがあるので、自分の気持ちを伝えやすい楽器かと思います」。

ジャズは即興でメロディを演奏することができる。 自由な音楽を作っていきたい。

小学校の卒業と共に所属するバンドがなくなったので、中学に入り札幌のジャズトロンボーン奏者の方から個人レッスンを受け始め、その先生と一緒にライブ活動をスタートする。
初めてライブハウスのステージに立ったのは13歳のときだった。そんな活動を通して、札幌の様々なミュージシャンから声をかけてもらって、多くのライブに参加するようなった。

「ちゃんとジャズを聴き始め、今のようなアドリブを入れたプレイをするようになったのは、中学に入って個人レッスンを受け始めてからです。最初のレッスンのときに、先生から大量のアルバムリストを頂いて、その中から好きな曲を選んで吹いていたら、どんどん好んでジャズを聴くようなりました」。

そして特に好きになったミュージシャンが、カーティス・フラーとJ・J・ジョンソン。
ともに、ソロ作はもちろんのこと、1950年代から移り変わるジャズ史のなかで、変化を遂げながら輝きを放ってきたジョン・コルトレーンやチャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピーたちとセッションを行ってきた、偉大なるトロンボーン奏者だ。
「ふたりともトロンボーンという楽器に捕らわれず、ピアノやサックスなども取り込んでいて。かつトロンボーンの柔らかい音をふんだんに使っている。無限大の力を感じたんですよね。私が吹いてるトロンボーンでもできるんだと勇気をもらったんです」。

治田さんは音楽に自由な表現を求めているという。そんな彼女がジャズという、ある意味フリーな音楽と出会ったことに必然性を感じる。
「ジャズの魅力は楽譜がなく、即興でメロディを演奏することができる。そういう面はクラシックにないので、自由な音楽を作っていきたい」。ただ、幼いころから自由さを求めすぎたせいか、高校1年のときに師事していた先生から離れてしまった。

そんな中で参加したのが、「Seiko Summer Jazz Camp」だ。

ともかく音楽を愛しているひとが集まって、音楽を楽しもうとしていた

ジャズキャンプは治田さんが参加前に期待していたという雰囲気にあふれていた。
「参加している人も、講師の皆さんも、ともかく音楽を愛している人が集まっていて、音楽を楽しもうとしていた。一流の講師陣から多くのことを学べ、またちょっとした緊張感みたいなものを感じて、すごく楽しい雰囲気」だったという。

憧れていた講師陣に出会い、治田さんはひとつのことに気付く。
「教わるってことがそんなに好きじゃなかった気がしていて高校1年生のときにレッスンを辞めてしまった。でも自分の無知さをこのレッスンで痛感しました。もっと私は学ぶことがたくさんあるし、人から吸収しないといけないんだと」。特に「知りたかったこと、質問がたくさん生まれた」という。楽器別授業では「講師のマイケル・ディーズから“知ってるトロンボーン奏者いますか?”という質問があったんですね。時代を問わず昔のでも最近の人でもいいと。ジャズが始まったときの人から最近の人まで、何人か名前が出たんですが、彼は全部精通していて、彼らのプレイをまねることができたんです。私は絶対そういうことはできないし、マイケルはトロンボーンの歴史を知ったうえで、新しい音を生み出して時代を作っていることを知った」。そういう部分が自分に欠けていると思い知ったのだ。

また日本全国から集まった音楽を愛する新しい仲間と食事を共にしたり、休憩時間に買い物に行ったり。これまで年上のプレイヤーと演奏を共にすることが多かった治田さんは、同年代の仲間との交流で刺激を受けた。「自分の音楽の考えを同世代だと伝えやすくて、相手もどう考えてるかも聞くことができて。そういった交流を通して切磋琢磨できた」。

ひとりひとりのプレイを聴いて的確なアドバイスをくれる。 みんなが十分に満足するまで教えてくれました

楽器別授業は5人で受けた。参加前に不安に思っていた講師との英語でのコミュニケーションは、トロンボーン奏者である方が音楽の専門用語もきちんと通訳してくれスムーズに行えたという。またこれまで参加した他のキャンプに比べ、ここまでの少数精鋭での授業は初めてだった。「生徒数に対して講師の方の人数が多い。だから、ひとりひとりの生徒の質問を聞いてくれますし、ひとりひとりのプレイを聴いて的確なアドバイスをくれる。みんなが十分に満足するまで教えてくれました」。

そんな環境で、治田さんには特に嬉しい出来事があった。憧れのマイケルとのセッションだ。
これぞ音楽の魅力。グレートな時間だ。「マイケルに楽器別授業とアンサンブルの授業の両方を教わることができたので、授業と授業の間の休憩時間に話をしました。私はジャズキャンプに参加する前からマイケルの演奏がとても好きで、彼のオリジナルの中で特に好きな曲を伝えると、彼はたくさんオリジナル曲を作っているからか“それどんな曲だっけ?”って質問をされて。私がそのメロディを吹いたら彼も思い出して一緒に吹き始めてくれたんです。短かったですけど、ふたりでセッションができたのがすごく嬉しかった」。

そんな貴重な経験の数々は、治田さんの向上心を大きく突き動かした。

新しい音楽を、先人たちの音楽を学びながら切り開いて作っていきたいと思っています

昨年のジャズキャンプの後、治田さんはマイケル・ディーズが教鞭を取っているアメリカのミシガン州立大学に留学することを決める。「こんな風にトロンボーンを操っている人の演奏は、それまで生で聴いたことがなかった」から、練習法などを彼からたくさん教わりたいと思った。「自分の無知を知ったので、ちゃんと学んでいこう」と強く思ったようだ。
アメリカにいくのは「一段上の世界を見られるような気がしている」と語る。

子供の頃から思い描いていたプレイスタイルがある。「だれかのコピーでなくて、唯一無二の音楽家になりたいと、私の中に漠然とありました。同じようなプレイをする人は世界にふたりはいらない。自分だけの唯一無二のサウンドを、生きていくすべてのことから求めていくことが、この人生で死ぬまでやっていくことなんじゃないかなと、ずっと感じています」。
ジャズは歴史のある音楽だ。過去の偉人に学ぶことは山ほどある。彼女はそれをこれからどん欲に学びつつ、誰も体験したことのない新しい音楽を作っていく・・・「新しい音楽を、先人たちの音楽を学びながら切り開いて作っていきたいと思っています」そんな果てしなく大きな覚悟を最後に誓ってくれた。

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