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Seiko Summer Jazz Campの特別顧問を務める守屋純子が指導者としての自身を語る

Interview

Seiko Summer Jazz Campの特別顧問を務める守屋純子が指導者としての自身を語る

Piano・編曲 / 特別顧問 守屋純子

Profile

  • 守屋純子(もりや・じゅんこ)

    守屋純子(もりや・じゅんこ)

    守屋純子(もりや・じゅんこ)

    ピアニスト、作編曲家、守屋純子オーケストラのリーダー。Seiko Summer Jazz Camp特別顧問。
    2005年『Points Of Departure』が、第18回ミュージック・ペンクラブ賞を受賞。同年、米国セロニアス・モンク・コンペティション作曲部門で、東洋人として、また女性として初の優勝に輝く。
    海外での演奏活動も多く、2008年 “モントレー・ジャズ・フェスティバル”を始めとした米国ツアーを、同年と2009年にフランス・ツアーを、2014年より毎年、7回のロシア公演を行う。
    また “山野ビッグバンドコンテスト”、“浅草ジャズコンテスト”、“ヤマハ・エレクトーン・コンクール”等の審査員を務める。
    昭和音楽大学、尚美学園大学、早稲田大学エクステンションセンター講師。

転機となったアメリカ録音作とモンク・コンペ優勝

2016年に発足したSeiko Summer Jazz Camp(以下SSJC)で第1回から特別顧問を務める守屋純子は、日本を代表するオーケストラのリーダーとして20年以上にわたって本邦ジャズ界のトップランナーであり続けている。そんな守屋にジャズとの出会いと自身のキャリアについて語ってもらった。

「4歳からクラシック・ピアノを続け、高校時代はニュー・ミュージックが好きだったので、軽音楽部に所属してユーミン(松任谷由実)を真似して作詞・作曲。バンドでギターとボーカルを担当しました。この時の経験が今の私にとって重要だと思っています。
というのも私が作曲したビッグ・バンドの曲がユーミンに似ていると言われることがあって、自分でもそう感じるからです。作曲というものはあまりジャンルとは関係ないと思っています。
高校生まではジャズを聴いたことがなかったのですが、早稲田大学に入学してハイソサエティ・オーケストラに出会い、ジャズをあまり知らないままに参加しました。当時の自分を思えば、SSJCに参加する18歳からの受講者は私には羨ましいですね」。
「97年に米ニュージャージーのバン・ゲルダー・スタジオでデビュー作『マイ・フェイバリット・カラーズ』を録音。プロデューサーはドン・シックラーです。オリジナル6曲とスタンダード3曲で、全曲自分でアレンジしました(再発盤ではスタンダード1曲を追加収録)。
ライアン・カイザーやクリス・ポッターのような当時はまだ若手だった現在の著名人を含めて、ニューヨークの一流のミュージシャンとオクテットでレコーディングしたことは、私のターニングポイントになりました。
その時に、『これくらい書けるのなら、セロニアス・モンク・コンペティションにチャレンジした方がいい』と、ドン・シックラーに勧められたのです。2000年に再びドンのプロデュースで初めてのビッグ・バンド作『シフティング・イメージズ』を制作した時にも、モンク・コンペに参加した方がいいと言われました。そして初参加した2005年のモンク・コンペ作曲部門で優勝。ドンの勧めがなければ、応募していなかったと思います」。

SSJCの講師を務めて学んだこと

教育活動にも情熱を注ぐ守屋は、昭和音楽大学、尚美学園大学、早稲田大学エクステンションセンターの講師に従事し、全国の小中高生のためのビッグ・バンドの指導や講演を行なっている。2013年以降は、米国・モントレー、オーストラリア・パースなど、海外でも学生を指導。“山野ビッグバンドコンテスト”、“浅草ジャズコンテスト”、“ヤマハ・エレクトーン・コンクール”等の審査員を務めている。

「SSJCの講師になったきっかけは、佐々智樹プロデューサーからお声がけをいただいたからです。佐々さんとは、それ以前から私のアルバム・プロデューサーとしてお付き合いがあり、毎年のコンサートでもお世話になっています。
SSJCに限らないことですが、指導者としてはまず生徒の良いところを見つけて、そこを褒めて伸ばすように心がけています。それぞれの人には必ずいいところがあるものなので。悪いところを指摘するのも大事ですが、昔の日本の教育のようにあら探しをするやり方は、今の時代に合いません。
音楽は楽しいものであり、自分が留学した時に先生からまず褒められる経験をしたので、それは自分の指導法にも生かしています。SSJCに携わって得たものはたくさんありますね。最も大きいのはニューヨークの超一流のミュージシャンの指導法を見ることができたこと。本当に勉強になりました。アメリカの指導者は教え方が具体的なので、とても分かりやすい。
日本人同士だとお互い<このくらいはわかっているだろう>と前提を省略しがちですが、実は省略した部分がわかり合っていなかったりします。アメリカ人講師の指導法はとても参考になるし、学生もそのような指導から得るものがあるはずだと思います」。

コロナ禍の時代だからこそ有効な指導法

SSJCの魅力は講師陣が異口同音に語るように、日米のトップ・ミュージシャンから自分の楽器だけでなく、コンボやビッグ・バンド、作曲といった充実したカリキュラムを無料で受講できることにある。
2020年度は初めてオンラインで開催され、2021年度も前年の実績を踏まえて同様に開催。大学での指導もオンラインになった守屋は、コロナ禍の時代における音楽教育のあり方を次のように考えている。

「オンラインが対面式レッスンよりも制約が大きいのは明らかですが、それでも工夫すれば色々とやり方はあります。SSJCはコロナ禍だからといって中止するのではなく、オンラインで実施しました。本当にありがたいことで、意義があったと思います。
各講師のレッスンは期間限定で公開されました。対面式の時の受講者にはできなかった、他の講師の授業がすべて見られたのは大きな利点です。英語指導で聞き逃した部分を再視聴できることと、アーカイブが年齢制限なしに誰でも見られることもメリット。
オンライン・レッスンでは、対面だと以心伝心で何となく伝わってしまうような部分も、曖昧にできません。事前に話す内容をまとめて資料を作ったりすることは大変ですが、とても勉強になりました。2021年度は前年と同じように各講師が15分程度のビデオを4本ずつ作成。わたしも<アレンジ編>を担当させていただきました。
今回は初の試みとして、リモートレッスンを行います。これはZoomを使用した双方向レッスンで、クラシックや吹奏楽の経験者にジャズを学び始めるための方法を伝えるもの。こちらは日本人講師の私と大林武司さんが担当します。気軽に質問してほしいですね」。

素晴らしい演奏家になるための道

オンライン講義の1年目が実施されたことで、対象年齢より上のプロやアマチュアのミュージシャンから歓迎の声が多数寄せられた。楽器ができないがSSJCに興味があるジャズ・ファンにも視聴者が広がっている。
これは参加人数を含めてクローズドだった2019年度までとは異なる、認知度向上への後押しとなった。

「ジャズに興味があって、ある程度楽器ができる人なら誰にでも参加してほしいです。普通なら接することができない一流のアメリカ人ミュージシャンから直接指導を受けることで、彼らが何を考えているかを知ることはとても大きなプラス。受講者にとって大事な経験ができると思います。
将来音楽家になってもならなくても、講師の教えは役に立つはずです。特に今年度はオンラインなので、年齢・楽器経験関係なく、どなたにも見ていただきたいです。
どんな音楽でもその演奏家の人間性は出ますが、ジャズは即興演奏である分、他のジャンルよりも、隠すことができない人間性が濃く出てしまうもの。
つまり素晴らしい人間になることが、素晴らしい演奏家になるための道だということ。SSJCがそのような経験値を磨く絶好の場所になると、私は考えています。若い時期にこのレッスンが受けられるのは、人生で大きな差が出ると思いますね」。

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