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講師陣とのフリーセッションを通して受けた「ポジティブなショック」

Interview

講師陣とのフリーセッションを通して受けた「ポジティブなショック」

2018 参加者 / ドラム 中西 和音

Profile

  • 中西 和音(ナカニシ カズネ)

    中西 和音(ナカニシ カズネ)

    中西 和音(ナカニシ カズネ)

    横浜出身の22歳。ポップス歌手である叔父・中西圭三氏と、父が大ファンであった小曽根真さんの影響を受け、幼いころからライブを頻繁に見に行く環境のなかで、ドラムに興味を持つ。小学2年生からジャズドラマーの海老沢一博氏に師事。高校生になると地元横浜のビッグバンドに参加し経験を積む。青山学院大学に進学後、ジャズ研究会の部長を務めるなかで、「Seiko Summer Jazz Camp 2018」に参加。現在は、ライブを中心に活動中。

現在ライブを中心に活動をしているドラマーの中西さんは、20歳のときに「Seiko Summer Jazz Camp(以下ジャズキャンプ) 2018」に参加した。講師に名を連ねていた憧れのドラマー、クインシー・デイヴィスから直接教えを受けたいと思ったからだ。
ジャズキャンプでは、非常に心地よい「ポジティブなショックを受け、新しい音楽の世界が広がった」という。その広がりは「ジャズは人生そのものだ」という思いに繋がり、今音楽を続けている。

当時はドラムの音のデカさとか、見た目とか。フィジカルなかっこよさに惹かれた

ポップス歌手である叔父、中西圭三さんの影響もあり、物心がついたときから何度もライブを観に行っていた。
ドラムの魅力に目覚めたのは、「当時は、ともかく音がデカいとか、見た目とか、フィジカルなかっこよさに惹かれたのがきっかけだ」という。そして小学2年生のときに、ドラムを習いたいと家族に相談。父親が、ジャズピアニストの小曽根真さんと一緒に音楽活動をしているドラマーの海老沢一博さんに師事することを勧めてくれた。「父は小曽根さんの大ファンだった」からだ。それがジャズドラムとの出会いだ。
「先生は、基礎を大切にしている方で、曲に合わせて演奏するというよりは、基礎的な奏法を丁寧に教わりました。スティックを振って叩くという動作そのものに惹かれていたのもあって、練習パットを叩き続けるだけでも、当時は満足していましたね」

中学生になると吹奏楽部に所属し、ドラムをはじめ鍵盤打楽器やパーカッション全般の演奏を経験する。部活ではクラシック曲からポップス曲まで演奏していたが「ポップス系の曲ではドラムのフルセットを叩くことができたので、当時はそれが1番楽しかったです」と語る。
この頃になると、部活を続けながらジャズを積極的に聴き始めた。
また「先生から教わったジャズのシンバルレガートなどの演奏法を実践で試してみたい」という気持ちが高まり、高校生の時には地元横浜で活動する社会人ビッグバンドに参加した。「若い頃に先生と同じバンドに所属していた方もいらした」という。ライブハウスや横浜ジャズプロムナードなどのイベントに出演、ライブ活動を開始する。また高校の同級生とロックバンドも結成して都内のライブハウスに出演するなど、さまざまな音楽体験をして過ごしてきた。

大学は青山学院大学に進学。学生ビッグバンドに入る選択肢もあったが、入学時にジャズ研究会のライブを見て「当時の4年生の先輩で、すごくうまいサックスの方がいて、一緒にやりたいと思った」ため入部することになる。
活動は週2回のジャムセッションが中心で、あとは自分たちでメンバーを募って参加する定期演奏会が年に、7、8回ある。「本気でジャズをやりたい人と、サークルとしての交流を楽しんでいる人が混在するような雰囲気」だったという。そんな中で中西さんは、演奏することに重きを置き、様々な大学のジャズ研のセッションに参加していた。「大学や学年ごとのボーダーがないのが、ジャズ研のいいところだと思います。知り合いが増えていったので固定のメンバーではなく、色々な人との演奏に参加しました。ひとつの出会いから連鎖が生まれ、新たな出会いを生むという環境で刺激を受けることができましたね」

映像とかCDで聴いていた人たちと、一緒にいられるだけで興奮していました

「Seiko Summer Jazz Camp 2018」を知ったのはジャズ研の先輩からの「ぜひ行った方がいい」という勧めからだったが、参加を強く願ったのは、この年から講師として参加することになったクインシー・デイヴィスの教えを受けたいと思ったからだ。「ジャズ研のひとつ上の先輩が前年の「Seiko Summer Jazz Camp 2017」に参加していて、すごくいい経験をしたと聞いていました。なおかつ、僕はもともとクインシーが好きで、YouTubeに上げられているレクチャー動画を何度も観て練習していたので、これはぜひ直接教えを受けたいと思いました」。

大学のジャズ研では、メンバーの音楽への思いはそれぞれ温度差がある。
だがキャンプの参加メンバーは皆一様にやる気にあふれており、その雰囲気を新鮮に感じたという。「すごくジャズが好きで、向上心を持ってやっている同世代の仲間たちが集まっていた。大学でも向上心を持っている人はいたけれども、その中でも特に上手くなりたい!もっと頑張りたい!と思っている人たちだけが集まっている空間でしたね」。

そしてやはり1番強かったのは講師陣への思いだ。「映像やCDで聴いていたスターが一堂に会していることに圧倒されて、その人たちと4日間、一緒にいられるというだけで興奮していました」。

新たな音楽の世界が開き、ポジティブな意味でショックでした

「リズムセクション講習会」という授業の中で、中西さんはハプニング的に貴重なセッションを体験する。その授業は、生徒で組んだグループで「酒とバラの日々」を演奏し、講師の助言を受けた後、講師のデモ演奏を聴くというもの。助言はこんな言葉だったという。「“もっと自由に解釈してセッションをしてみよう。普段やっている曲でもこういう広がりを見せられるんだよ”と言われました。“拍子とかリズムとかテンポとか全部決めないで、その場のアイコンタクトでどんどん変えながらやっていくのを見せるよ”と」。
だがドラム講師のクインシー・デイヴィスは、他のグループの授業を行っていたため、その場にいなかった。「ほかの楽器の人たちは、生徒から先生に変わっていくんですけど、僕だけクインシーさんがいないので交代できず、講師3人+生徒1人でデモ演奏をやることになったんです。フリージャズみたいなところから始まって、どんどんリズムも変えながら演奏をしました。僕自身はボロボロで全然ついていけず・・・そこで自分はジャズの世界の入り口の部分しか見えていないことを痛感しました。プロは深いところまで見えていて、その中で正解を選び取って演奏されていること知りました」。これまでは定められた構成に従った演奏しかしてこなかった。「それ以外の可能性を知らなかった」からだ。だから「すごいポジティブな意味でショックでした。新しい音楽の世界が開けた気がした」というほどの衝撃を受けた。

ダサいはずなのに、それがジャズらしくてかっこいい・・・そんなドラマーに惹かれる

憧れのクインシー・デイヴィスの授業でも大きな気付きを得る。ジャズドラムの歴史を、授業として初めて学ぶことができた。「授業ではジャズドラムに特化した歴史を時系列に並べ、演奏家や演奏法の成り立ち、さらに時代による変化などを教えてもらいました。そのなかで、独特の“泥臭さ”というか、観方によってはダサいはずなのに、それがジャズらしくてかっこいい・・・そんなドラマーに惹かれることに気が付きました。そのドラマーの送ってきた人生や人となりを垣間見るような」。その気付きは、中西さんの「ジャズは人生そのものだ」という考えに行き付くきっかけになる。

また、演奏面でも意識改革が起こる。「僕のなかで、クインシーさんはドラムの基礎と歴史を大切にしている方と認識していて、その部分が特に憧れでした。実際にレッスンを受けると、やっぱりそうで、自分では出来るつもりになっていた基礎の部分の至らなさに、あたらためて気付かされました」。たとえば、毎日クインシーが行っている基礎練習を一緒に体験したとき、それまで中西さんは、何となく習慣でウォーミングアップをしていたが、クインシーのやり方はすべてに目的があることが分かった。「ここの筋肉を鍛えるために。ここの筋肉をリラックスさせるために。」と動きひとつひとつに、ドラムを叩くための大事な考えがあったのだ。そのウォーミングアップは今でも続けているという。

自分の人生は、最終的にどういうジャズに、サウンドにいきつくんだろうって、すごく興味があるんです

中西さんは、今ドラムの魅力をこんな風に思っている。「リズムセクション全般に言えることかもしれないですけど、誰かのソロの間も、縁の下の力持ちとして支えられる。音楽が流れている、ほとんどすべての瞬間に関わっていられるのが魅力だと思う。さらに、シンバルレガート次第で、スウィングの深さなど、バンドの音楽の方向性を定めることもできる。それがドラムです」

現在、活動の中心であるライブで演奏することにとても喜びを感じているという。「自分の演奏を必要としてライブに誘ってくれる。その演奏をお客さんに喜んでもらうのが1番楽しいです」と語る。今後の具体的な活動について、今少し悩みはあるが、ただひとつ、音楽を続けていくことだけは決めている。それは、ジャズキャンプの中で学んだ気付きからも繋がっている。「ロイ・ヘインズは、今95歳でドラムを続けている。フィジカル的には、若いころに比べてヘロヘロなはずですけど、その音には、彼が生きて切り開いてきた人生が垣間見える。それがジャズのすごいところで、大げさでなく“ジャズは人生そのものだ”と思います。では自分の人生は、最終的にどういうジャズに、どういうサウンドにいきつくんだろうって、すごく興味があるんです。だからどういう形にせよ、絶対に音楽は続けていきます。長い目で・・・お爺ちゃんになったときに、自分がどんな演奏をするのかは楽しみでもありますね。」

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