Magazine

トロンボーン奏者・池本茂貴が自身の殻を破ったジャズキャンプを振り返る

Interview

トロンボーン奏者・池本茂貴が自身の殻を破ったジャズキャンプを振り返る

2016 参加者 / トロンボーン 池本 茂貴

  • 2020/08/21
  • 2024/09/30

Profile

  • 池本 茂貴(イケモト シゲタカ)

    池本 茂貴(イケモト シゲタカ)

    池本 茂貴(イケモト シゲタカ)

    兵庫県出身の24歳。タカラジェンヌの母の影響で幼い頃から音楽に親しむ。中学校のビッグバンド部でトロンボーンに出会い、慶應義塾大学に進学。学内の音楽サークル、ライト・ミュージック・ソサイェティーでコンマスを務めていた時に「Seiko Summer Jazz Camp(以下ジャズキャンプ) 2016」に参加。現在はジャズトロンボーン奏者として活動中。

池本さんは、東京の大学在学中20歳のときに「Seiko Summer Jazz Camp 2016」に参加した。「たった1回の行動で、いろんなことに触れられて、凄い広がるんだなっていうのを感じる。このジャズキャンプで得たものが、4年経った今の活動にも息づいている」と語る、トロンボーン奏者だ。
「セッションなどで音を聴きあって、今のこの人の演奏いいねって全員が思って笑顔になる瞬間が好きですね。その瞬間にお客さんも同じように笑顔になっていたら」。ポジティブな気持ちが生み出したシナジー効果で、心地よい空間を創造する。それはジャズキャンプに参加したなかで生まれた変化から、辿りついた音楽スタイルだ。

ビッグバンドを聴いたときに、トロンボーンって美味しいなって。

元タカラジェンヌの母の影響もあり、幼いころから音楽が好きだった。
バイオリンを習い、特に宝塚歌劇団や劇団四季などのミュージカルをよく観に行っていたという。
けれども中学生になったころ、音楽を続けていくことに悩んでいた。そんな中で音楽の授業で吹いたリコーダーを先生が聴き“ぜひ楽器を始めて欲しい”と言われたことからビッグバンド部に参加し、トロンボーンに出会う。
「最初は、トランペットかサックスをやりたかったんですけどやっぱり人気で(笑)。人数が足りなくてトロンボーンに。きっと楽しいよって顧問に勧められた」。
トロンボーンの魅力に気が付いたのはビッグバンドを知ってからだ。
「宝塚歌劇団の舞台とかミュージカルの音楽を聴いていた当時は、トロンボーンの音に注目したことはなかったんです。けどビッグバンドを聴いたときに、トロンボーンって意外と美味しいなぁって思い始めて。ただ向上心が芽生えたのは一通り音が出せるようになってからですね」。
金管楽器はまず音を出すことが難しい。池本さんも本当に楽しくなるための基礎をマスターするのに、1年半ほどかかったという。

通っていた中学校のビッグバンド部は世間では名門で知られている。練習法も独特だ。
「ほぼ自由練習で。合わせる時もすべて生徒同士でやるんです。最初のドレミファソラシドも教えてもらえなくて、自分で探した」。楽典はそれほど勉強をしていなかったというが、バイオリンを習っていたのがトロンボーンの演奏を覚えるのに役立った。
「押さえる場所によって音階が変るという同じ演奏法だったので、音は分かったから」。

演奏する池本茂貴さん

音楽をやっていく中で、人とのコミュニケーションとか礼儀は大事。

大学進学時は、音楽大学にするか一般大学にするか悩んだ。「先輩や知り合いのミュージシャンに相談したんですが、言われたのが“音楽の勉強は一般大学に行ってもできるが、一般大学の知識は音大では勉強でいない”と。そのときは、知識って何だろう?と思っていたんですけど、最近になって意味が分かってきました。音楽をやっていくなかで、人とのコミュニケーションとか礼儀とか、そういった一般的な常識がすごく音楽でも大事だと思い始めて」。結果、日本最古の学生ビッグバンド、ライト・ミュージック・ソサイェティーに入ることを目的に、慶應義塾大学を選んだ。
「東京に行きたかったのもありました。それまでに出場した大会などで上位入賞してるのがほとんど東京のバンドで。すごい練習とかしてるんだろうなと思ったので」。実際サークルに参加するとその練習のレベルに驚いたという。それは時間ではなく内容の濃さ。「情報量が凄くて。高校の時は合わせて合奏する時は、まず譜面が吹けるようになる状態だったんですけど、それは当たり前で。大学のサークルでは、人と合わせるためにどうすればいいか、音楽がより音楽になるためにはどうすればよいかに費やす時間の使い方だった」。
大学生活の後半に入りジャズキャンプに参加する。きっかけは講師として参加していた現代最高のジャズトロンボーン奏者のひとり、マイケル・ディーズの演奏を生で聴けると思ったからだ。

実際に吹いたり、ホワイトボードに書いて教えてくれたり。 優しい方なのに楽器を持ったらもうすっごい(笑)

「海外のトップミュージシャンの方々が講師をしてしるし、なにより応募前からジャズを楽しんで欲しいみたいなものを、このキャンプには感じたんですよね」。その直感は的中する。まずは、マイケル・ディーズの授業でさまざまな感銘を受けた。
「まず生音を聴いたら、CDで聴いてたよりもすごいインパクトでした。人柄もすごいよくて、質問したことに対して分かりやすく、親身に説明してくれる。実際に吹いて教えてくれたり、ホワイトボードに書いてしっかり教えてくれたり。すごく優しい方なのに楽器を持ったらもうすっごい(笑)」。教えのなかに驚きがあったらしい。「ソロをコピーするときに、ひたすら吹く練習しても意味はなくて、このフレーズがどういうところに使われて、どういう時に使えばいいのかを考えること。それがコピー練習の過程だと教えて下さった」。これが、池本さんの新たなアドリブの練習法を生み出すきっかけになる。
バンドを続けていくうえでも大きな変化が生まれた。それまでは演奏のときに自分の音のみに集中していたと振り返る。「好きなアーティストを語り合う座学があったんですけど、マイケル・ディーズさんは、サックス奏者のソニー・スティットが好きって言ったんですね。サックスやピアノとか他の楽器もすごい聴くっておっしゃって。それでほかの楽器もちゃんと聴いてみなきゃって思い始めました」。それから興味は広がり、セッションのときもメンバーの演奏を聴いてプレイするようになったという。これは、それからの音楽活動の大事なファクターになった。

池本茂貴さん
演奏する池本茂貴さん

参加してみたいって思ったら、とりあえず参加する。殻を破るためには持ってこいのキャンプ。

参加したメンバーの中に以前からの知り合いもいた。それでも初めに顔を合わせたときは緊張をしたという。だがすぐ打ち解けていく。「講師の方々の気遣いや、進め方がすごく上手だと思いました。また、メンバー同士が親しくなりやすいような環境を運営の方々が作ってくださって、1日目を終了した後に参加者の人たちとすごく距離が縮まったのを感じましたね。だから4日目の最後のコンサートが終わった後の打ち上げが、もうただひたすら楽しかったです」。コミュニケーションを楽しみながら音楽を学べる環境だったという。「終わった後の達成感っていうか、得られるものが本当に凄い。とりあえず興味を持って、ちょっとでも参加してみたいって思ったら、とりあえず参加する。自分に嘘をつかずにそのままやってみてほしい。殻を破るためには持ってこいのキャンプです」。実際に池本さんがジャズキャンプで破った殻はとても大きいように思える。
「東京に来て最初はセッションとか怖くてあんまり行けてなかったんですけど、ジャズキャンプの中で初めて会う人達と音を出して、仲良くなっていく過程を経験したら怖さもなくなった」。しかも、ジャズキャンプに参加して、マイケル・ディーズら海外の一流プレイヤーと一緒に演奏を重ねる。初めての体験だ。「日本だけじゃなくて他の国の人とやる楽しさを知りました」。音楽の世界が一気に広がるきっかけになった。

人と人がお互い笑顔で笑い合う瞬間がすごく好き。 その瞬間にお客さんも笑顔になったら。

今後は、ジャズミュージシャンとしてのアーティスト活動と、スタジオミュージシャンを平行してやっていくという。「両立は難しいという話はよく聞くんですけど、信念があればいけると思っています」。その両立を目指しつつも「いつかニューヨークなど海外に行って、勉強をしたり、海外のプレイヤーの方々とライブができるようになったらいいなと思ってます」と夢を語る。
池本さんは、いま自ら行動を起こすことで生み出した音楽の道を、とても楽しんでいるように見える。「音楽はやっぱり色んな人と繋がれてるのが、すごいなと思う。ジャズキャンプのこともそうなんですけど、いざ参加してみたら、色んな人達と知り合えて、キャンプが終わった4年後の今も、こうやって関われる。昨年は、マイケル・ディーズさんと共演できた。たった1回の行動で、いろんなことに触れられて広がるんだなっていうのを感じています」。
ひとつの行動が、人との繋がりを生み、幸せを生み出す。
池本さんの音楽の輪が、どんどん広がっていくのが伝わってくる。それはとても心地よく、楽しさが楽しさをもたらす相乗効果を生み出している。 「譜面ばっかり見てないで、演奏しながら人と人がお互い笑顔で笑い合う瞬間が好きです。周りを見ちゃいますね、みんな楽しくしてるかなって。セッションで音を聴き合って、この人の演奏いいねって全員が思って笑顔になる。その瞬間にお客さんも笑顔になったら。そういう時が一番楽しい瞬間です」。

演奏する池本茂貴さん
演奏する池本茂貴さん

Share