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ニューヨークで最も多忙なドラマーの一人であるクインシー・デイヴィスが語るSeiko Summer Jazz Camp

Interview

ニューヨークで最も多忙なドラマーの一人であるクインシー・デイヴィスが語るSeiko Summer Jazz Camp

ドラマー クインシー・デイヴィス

Profile

  • Quincy Davis(クインシー・デイヴィス)

    Quincy Davis(クインシー・デイヴィス)

    Quincy Davis(クインシー・デイヴィス)

    1977年、米国ミシガン州生まれ。6歳からピアノとドラムを学ぶ。ザヴィア・デイヴィス(P)は実兄。芸術高校で打楽器とドラムを学び、ウエスタン・ミシガン大学でビリー・ハートに師事。2000年ニューヨークに移住し、ウィントン・マルサリスを始め、数多くの著名ミュージシャンと共演。2010年から7年間カナダのモニトバ大学で指導し、現在は北テキサス大学准教授。2020年リーダー第2作『Q Vision』を発表。ユリシス・オーエンスJr.(DR)に代わって、第3回Seiko Summer Jazz Camp 2018から講師を務める。

私が学んだ最も大きな教訓は、第一に他人に優しく接し、共演者と聴き手を尊敬すること

2016年に第1回が開催されたSeiko Summer Jazz Camp(以下SSJC)は、ユリシス・オーエンスJr.(DR)が講師陣の中心的存在として、キャンプの発展に大きく貢献してきた。ユリシスが勇退して2018年からドラム講師に加入したのがクインシー・デイヴィスだ。
「全員が楽器を演奏する音楽一家で育ちました。ジャズ、フュージョン、クラシック、ゴスペルを家族といっしょによく聴いた家庭環境が、プロのジャズ・ドラマーになった理由の一つです。クラレンス・ペン(DR)が兄の同級生で、彼がブラシで演奏するのを見て、自分もやってみたいと思いました。12歳の時でした」。

プロのドラマーとして20年のキャリアを重ねてきたデイヴィスには、その経験を通じて学んだことがあり、それが音楽家としての柱になっている。
「私が学んだ最も大きな教訓は、第一に他人に優しく接し、共演者と聴き手を尊敬すること。どんなに年齢を重ねて地位が上がったとしても、その気持ちがなければ共演しても上手くいきません。第二に学びに終わりはなく、常に学ぶことが重要。スタイルの異なる音楽をできるだけよく聴くことが、ミュージシャンとして向上することに繋がります。基礎と伝統を理解すると同時に、個性的で新鮮なサウンドを受け入れることも大切。両方の組み合わせですね」。

無料の教則動画チャンネルを開設して、ジャズ・ドラムの指導に情熱を傾注

デイヴィスは大学を卒業してプロ活動を始めたのと並行して、教育活動にも力を入れた経歴を持つ。名前の頭文字から取った「Jazz Drummer Q-Tip」(Quincy Lessonsの意味)で、無料の教則動画を提供している。
「大学レベルのレッスンを始めたのは10年前。出会った多くの生徒が抱えていた共通の問題があって、ビデオを発表すれば、彼らの解決に役立つと考えました。最大の理由は生徒たち、ジャズを始めた若いミュ-ジシャンを助けること。ジャズは一種のニュアンスで成り立っていて、異なる言語のようなものなので、学ぶのが難しい。教える方もはっきりとした方法で説明するのが難しいのです。自分のビデオで収益を得るつもりは最初からなくて、ビデオを通じて世界中の人々が私の存在を知り、それをきっかけに私の教育活動を知ってもらえたら、との思いです。生徒には『わからないことがあれば、ビデオを見てください。そこですべてが説明されているので』と言うことができますから」。
ビデオにはデイヴィスがピーター・アースキン、グレゴリー・ハッチンソンら著名ドラマーをインタビューするコーナーもあって、それは彼らのことをよく知らない若い世代に向けたメッセージでもあるという。

私は講師の一人として関わっていることを誇りに思います

デイヴィスは前任者のユリシス・オーエンスJr.(DR)に代わって、2018年からSSJCの講師陣に加入。以前からよく知るミュージシャンが参加していたことで、すぐに馴染むことができたのが幸いだったようだ。SSJCの魅力について語ってもらった。
「指導者はまず良いプレイヤーでなければなりません。演奏やツアー、レコーディングの経験がない教師が大学で教えているケースは多くあります。SSJCの講師たちは第一に全員が優れたミュージシャン。ただしそうだからと言って、優れた教師でもあるとは限りませんが、その点で運営者は両立したスタッフを揃えることができました。人間的にも素晴らしい人ばかりです。SSJCが生徒にとって効果的で魅力的である所以です。ジャズと日本はフィットしていて、日本人はジャズの深い感覚を理解していると思います。だからアメリカ人が日本を訪れてSSJCで指導することは、自分のアイデアをアピールできる良い機会だと言えます。アメリカの文化の中で育ち、偉大なミュージシャンとの共演経験があるアメリカ人が、講師として経験や知識を、才能があって学ぶことに意欲的な日本の生徒に伝えるということ。単に音だけではなく、音の背景にある文化を学ぶこと。それがSSJCを特別なものにしていると思います。生徒の間には競争意識がなく、家族のような感覚です。4日間のキャンプを通じて、最終日には家族になる。この感覚も特別ですね。私は講師の一人として関わっていることを誇りに思います」。

良い環境が用意されて、講師たちが最良の力を発揮できるのがSSJCの特色

ジャズの指導者は楽器のプロフェッショナルでなければならない、だから楽器と接することに多くの時間を費やすべき、と説くデイヴィスは、努力して日本語を身につけて、会話も堪能。SSJCでは通訳者が配置されるが、直接日本語でコミュニケーションできるので生徒からも人気だ。まさに適任者である。
「生徒の中には気後れしたり、恥ずかしがったりする人がいますが、最初はシャイでも、一つ二つのことが起こると、キャンプの半ばにはリラックスして、楽しむようになります。参加者どうしが打ち解けて、心地よい関係が生まれます。自分自身を外に出してもいい、ということがわかって、輝き始める。最終日のコンサートでは、初日とはまったく別人のようになって、個性を表現することに興奮するのです。それがジャズというもの。私が目撃した生徒たちの変化です」。

SSJCの講師を務めてからのデイヴィスは、通常の英語で説明する方法よりもさらに、明確に楽器を使って説明することができるようになった。また日本には才能がある数多くの若者がいることと、彼らが多くのレコードを聴いているので音楽の理解力があることを知ったという。
「アメリカのジャズ・キャンプの中には、ストレスを感じるものもありますが、SSJCにはそういうことがなく、佐々プロデューサーは講師陣のスムーズな運営方法について熟知しています。良い環境が用意されて、講師たちは最良の力を発揮できます。これがSSJCの特色です。だから講師たちにとってもリフレッシュできる時間なのです。音楽を愛する気持ちを、生徒たちと共有できます。キャンプ中に多くの時間を生徒たちと過ごせるのも特色ですね。他のキャンプだと、最終日には疲れてしまうか、いっしょに過ごす時間が少ないんですよ(苦笑)。良いエネルギーを生む源になっていると思います」。

自分らしく、表現したいことを表現するための後押しをしてくれる場所

2020年のSSJCは前年までと同様の開催は難しかったが、アメリカと日本を結んだリモート形式で、9名の講師が4日間のレッスンを提供。デイヴィスは「Early Jazz & Swing Drumming」に始まり、「Soloing with Rudiments, Bop, Phrases & Melody」に至るカリキュラムを組んだ。
「とても良い企画だったと思います。生徒たちから直接反応があったし、彼らはレッスンを受講して喜んでくれました。良い機会になったことでしょう。日本に行けなかった講師陣にとっても、キャンプとの関係を継続できて良かった。特にフリーランスのミュージシャンにとっては」。

デイヴィスは少年時代に自宅の地下室で、後にジャズ・ピアニストになる兄ザヴィアと楽器を演奏し、インターローケン芸術高校在学中に初めてジャズ・バンドに参加。ウエスタン・ミシガン大学でビリー・ハート(DR)に師事した。そんな彼に、もし自分が生徒の立場だったら、SSJCに参加して得られるものは何か?と尋ねてみた。
「自分が向上するためにやるべきことを続ける勇気を得られるでしょう。何故なら講師陣は生徒たちを勇気づけているからです。支援したいのです。またジャズに対する理解の幅が広がると思います。一流のアメリカ人ミュージシャンから指導を受け、共に時間を過ごすことは、日本人の生徒にとっては大きな経験に違いありません。音楽に取り組む姿勢を学ぶはずです。私が日本人の生徒だったら、ジャズ発祥の場所に近づくためにアメリカへ行きたいと思うでしょうね。移住するという意味ではなく、旅行者として訪れるだけでも違うと思います。SSJCのファミリーは毎年参加者が増えながら成長しているので、地方でも卒業生どうしの出会いがあるでしょう。日本中で卒業生たちの強い関係が生まれる、ということです。卒業後もSNSなどを通じて、講師たちとの関係も続くのです」。

SSJCをさらに盛り上げる方法として、期間を2週間くらいにするとか、年に2回の開催とするのもいいのではないか、と考えるデイヴィス。SSJCに参加を検討している方や、応募を悩んでいる方へ、メッセージを寄せてくれた。
「SSJCはジャズ・ミュージシャンとしてばかりでなく、人間として成長するための大きなチャンスです。等身大のあなたを受け入れることができる場所です。自分らしくあり、表現したいことを表現するための後押しをしてくれる場所。あなたの心を開き、音楽に対する考え方の手助けをします。人生が変わりますよ。参加して、いっしょに成長しましょう」

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