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長年構想を温めていた日本では前例のないジャズキャンプを、自社創立15周年の節目に実現

Interview

長年構想を温めていた日本では前例のないジャズキャンプを、自社創立15周年の節目に実現

プロデューサー 佐々 智樹

Profile

  • 佐々 智樹(サッサ トモキ)

    佐々 智樹(サッサ トモキ)

    佐々 智樹(サッサ トモキ)

    Seiko Summer Jazz Camp 企画制作:株式会社スパイスオブライフ 代表取締役。1974年ニッポン放送入社。アメリカ駐在を経てポニーキャニオンで主に音楽制作を担当。2001年レコード会社スパイスオブライフ社を設立。2007年スウェーデン音楽文化紹介に貢献した実績により北極星勲章を受章。一般財団法人 服部真二 文化・スポーツ財団 理事。

ヤマハやヤマノの経験は、私にとってジャズキャンプの原点に位置づけられます

佐々氏の音楽活動は1960年代末に遡る。ドラムを志して、高校生の時にピアノトリオを組んでヤマハのライトミュージックコンテストに出場。高校3年の時に関東で3位を獲得し、大学1年の時に関東大会で1位となり全国大会に進んだ。高校3年の時に日本のトップ・ジャズメンから指導を受けたことが、貴重な経験になる。
「合歓の里の合宿に招待されて、ジャズの勉強をしに行き、三保敬太郎(P)さん、佐藤允彦(P)さん、石川晶(DS)さんが指導してくれました」。高校生にとって夢のような体験は、大学に進学したバンド活動でさらに発展する。慶應義塾大学ライト・ミュージック・ソサエティに所属し、山野楽器主催のビッグバンド・ジャズ・フェスティヴァルに出場。当時は現在のようなコンペではなく、数校の大学が集まって演奏するイベントコンサートだった。
「その頃山野楽器が主催するビッグバンドクリニックにライトが代表バンドとして参加する機会がありました。アメリカから来た指導者にステージ上で指導を受けました。客席は他校のビッグバンドメンバー。ステージで次から次に配られる譜面を初見で演奏するのに必死でしたが、その先生の熱心な指導に感激。とても良い経験になりました。ヤマハやヤマノの経験は、私にとってジャズキャンプの原点に位置づけられます」

音楽業界に長年携わってきた佐々氏は、独立して2001年にレコード会社スパイスオブライフを設立。スウェーデンの今のジャズを日本に紹介することを事業の柱として、レーベルの特色となる多彩なCDをリリースすることで、2007年にはその功績が認められてスウェーデン北極星勲章を受章している。またその2年前の2005年にはピアニスト・作編曲家、守屋純子のオーケストラ作『Points Of Departure』をリリースし、現在まで継続する守屋のSpice of Life第1弾とした。守屋は2012年までにトリオ、セクステット、オクテット作を含む7タイトルをスパイスオブライフからリリースしており、レーベルを代表する看板アーティストとしてジャズ・ファンに認知されるに至った。

Seiko Summer Jazz Campではオーディション・システムを作ることが重要だと考えていました

2016年、守屋を特別顧問に迎えて、第1回Seiko Summer Jazz Campが開催された。
「個人的に長年構想を温めていたイベント。企画書を作ってセイコーホールディングスに相談したところ、快諾していただきました。同社が文化活動として音楽とスポーツに力を入れている中で、企画を認めて頂き、第1回が実現したのです。Seiko Summer Jazz Campの開催にあたっては良い人材を集めるために無料にして、参加者のオーディション・システムを作ることが重要だと考えていました。誰でも参加できる有料制だと、一般的なものと同じになってしまうからです。授業料を取らない代わりに、4日間みっちりと勉強してもらう、ということです」。

第1回の講師を務めたのは、ベニー・ベナックIII(TP)、ティム・グリーン(AS)、大林武司(P)、中村恭士(B)、ユリシス・オーエンスJr.(DR)、マイケル・ディーズ(TB)で、ディーズを除く5人はニューヨークで活動する日米の若手ミュージシャンで結成したニュー・センチュリー・ジャズ・クインテットのデビュー作『タイム・イズ・ナウ』(2014年)のメンバーだ。
「弊社制作のレコーディングを通じて、彼らの音楽に対する情熱を学びました。また彼らの来日公演には若いファンが来場し、そこでアメリカの若手実力者の演奏を楽しんでいる様子を見ました。その時に思ったのは年長の指導者よりも、今ニューヨークで活躍している彼らを迎えたキャンプの方が、プラスのエネルギーが出てくるのではないか。運良く第1回から、そのような講師が集まりました」。
日本ではジャズキャンプの前例が少ない中、海外の事例をお手本にするのではなく、参加講師の意見を聞きながら作った独自のカリキュラムは、まさに佐々氏の情熱のたまもの。『タイム・イズ・ナウ』のスペシャルゲストだったディーズが加わったことで、講師陣に厚みが増したと言える。

優秀なミュージシャンを続々と輩出しているSeiko Summer Jazz Campの成果

第1回では《東京ジャズ》とのコラボレーションで国際フォーラムの野外ステージで演奏する機会を得ることができました。第2回からはボーカル部門とギター部門に講師のシェネル・ジョンズ(VO)とヨタム・シルバースタイン(G)が参加。一層充実した陣容になりました。第3回も《東京JAZZ》とのコラボレーションで代々木公園ケヤキ並木ステージに出演。第4回はセイコーの発祥の地でもある隅田のすみだストリートジャズとのコラボレーションが実現し、年々参加する生徒の皆さんのモチベーションアップにつながる発表の機会を持つ事が出来ました。

Seiko Summer Jazz Campの特色の一つが、最終日にガラコンサートを実施して演奏を発表し、参加者に授与される各賞。「講師陣が大変熱心で、第3回からは通常のスケジュール終了後に講師が集まって、それまでは時間的にできなかったその日の授業の情報交換をするようになりました。それによっていっそう生徒一人一人の情報が共有されるようになりました」。
「これまでのジャズキャンプを振り返ると、ジャムセッションの場が作れていないので、それを今後どのようにカリキュラムに盛り込んでいくかが課題だと思っています。プロになった人や、海外留学を決めた人が生まれているのも、ジャズキャンプの成果。2018年度特別賞の中村海斗(DR)さんはバークリー音楽大学に4年間のフルスカラーシップで入学。同じく2018年度優秀賞の及川陽菜(AS)さんはニューヨークの音楽大学に留学予定です。2019年度最優秀賞の治田七海(TB)さんは当時17歳の若さながら、『この年齢でこれだけ吹ける学生はアメリカにもいない』と、マイケル・ディーズから高い評価を受けました。来春ミシガン州立大学に入学して、准教授のマイケルから直接指導を受ける予定です」。

Seiko Summer Jazz Campが培った情熱を全国に広げていきたいですね

「我々の活動とヤマハが訴求するターゲットが重なる」ということもあり、2020年度にヤマハミュージックジャパンが協賛社として加わったことは、ジャズキャンプの将来に大きく寄与すると考えられる。講師陣の多くはヤマハ製の楽器を愛用しており、その点でも「これから良い形でコラボレーションができそうです。全国の学生にとって、ヤマハの存在はジャズキャンプ参加へのいい動機付けになると思います」。ヤマハ音楽教室に通う生徒から優れた人材がジャズキャンプに集まり、そこから上原ひろみ(P)や桑原あい(P)に続くプロ・ミュージシャンに巣立つ流れが生まれれば、これほど素晴らしいことはないだろう。
「今後は日本のジャズを担っていく卒業生をどのようにバックアップしていくかが、課題です。ジャズキャンプのガラコンサートをライヴ録音して、CDか配信の形で世に出すことも検討しています。キャンプ参加者は全国から集まっているので、東京で開催するだけでなく、講師陣の地方公演を行って、そこに卒業生がジョイントすることも考えています。せっかく培った情熱を全国に広げていきたいですね」。

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