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Interview
俳優・ユーリック武蔵が表現者の垣根を超えた自身の活動と音楽ビジョンを語る
2017 参加者 / ボーカル ユーリック武蔵
- 2021/06/25
- 2024/09/30
Profile
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ユーリック武蔵(ゆーりっく・むさし)
ユーリック武蔵(ゆーりっく・むさし)
1997年、静岡県生まれ。米国人ジャズ・ピアニストの父と、日本人ジャズ・ボーカリストの母に育てられ、小学生から電気ベースを演奏。高校時代にジャズ・ボーカルとミュージカルの魅力を発見し、地元でフラッシュモブを企画。2016年、昭和音楽大学ミュージカルコースに進学。在学中は佐山雅弘に師事し、守屋純子と共演。ミュージカル「アンクル・トム」等に出演し、2020年に卒業。同年ミュ-ジカル「四月は君の嘘」コンセプト・アルバムに参加。2017年のSeiko Summer Jazz Campに受講生兼通訳として参加し、翌年以降は通訳を務めている。
自然に音楽を吸収できる家庭環境で育った少年時代
俳優のユーリック武蔵は、数多いSeiko Summer Jazz Camp(以下SSJC)の受講生にあって、異色の経験の持ち主と言える。大学在学中の2017年に第2回SSJCを受講すると同時に、通訳業務も務め、その後はアメリカ人講師陣と日本人学生の間のコミュニケーションをサポートする重要な役割を担っている。
「父は米国人ジャズ・ピアニストで、母は日本人ジャズ・ボーカリスト。子供の頃から自然にジャズを聴く環境でした。父の勧めで小学生の時から電気ベースを始めて、母が運営していた聖歌隊で弾いたり、地元のライブ・ハウスや《静岡ストリート・ジャズ・フェスティバル》に出演しました。レパートリーはブルース、R&B、フュージョン、父のオリジナル曲で、結局ベースでジャズを演奏することはなかったですね。リスナーとしてはずっとジャズが好きで、高校時代はオスカー・ピーターソンの「ギブ・ミー・ザ・シンプル・ライフ」に衝撃を受けて、時計のアラーム音にしていたほど。ボーカルに関してもフランク・シナトラ、ナット・キング・コール、マイケル・ブーブレを通じて、男性ジャズ・ボーカルを聴き、自分のような声質にも適したボーカルの世界があることを知ったことがきっかけとなって、歌い始めました。ミュージカルを志したのも、両親の影響です。子供の頃は音楽をジャンルで捉えていなくて、ミュージカルが生活の一部だったので自然とその道に進めたのは幸いでした。ミュージカル映画で〈雨に唄えば〉や『マイ・フェア・レディ』の挿入歌等を知ったことも、自分にとっては大きな経験でした。いま一番好きなジャズ・ボーカリストはメル・トーメです。元々はソフトな声質の持ち主ですが、スキャットを含めて表現の幅が広い人。聴いていて楽しいですね」。
地元静岡でフラッシュモブを実現した企画力と実行力
高校時代のプロフィールで目を引くのは、静岡でフラッシュモブを企画・実行したことだ。無関係の歩行者を装った人々が、公共の場で突然ダンスや演奏を行って、居合わせた人々の驚きや興奮を喚起するフラッシュモブは、2000年代のアメリカが発祥で、日本では2010年代に広まった。
「地元にユース・エンパワーメント(若者のやりたいことを実現させよう)という学生団体があって、当時流行っていたフラッシュモブができればいいなと、軽い感じで考えたのが発端です。自分で何でもやるのが好きだったので、駅前の百貨店の協力を得て、カメラ・クルーを呼んだり、振り付けを依頼したり、衣装も含めてそれぞれの役職を立てて行いました。3歳から70代までの総勢100人超が参加して、気が付いたら大きいことになっていました。このイベントは現在の自分に繋がる大きな経験だったと思います」。
音楽大学で出会った恩師との出来事
2016年、昭和音楽大学ミュージカルコースに入学したユーリック武蔵は、2020年に卒業するまでの4年間でその後の進路を決定する様々なことを経験した。
「進学前の高校時代は、何をどうやって自分のキャリアを作っていけばいいのか、決まっていませんでした。劇団や養成所に入るのは幅を狭めると思っていたので。そんな時にオープン・キャンパスに参加して、学科に関係なく色々な人と会えると思い、大学を選びました。一番大きかったのは昭和音楽大学名誉教授の佐山雅弘(1953~2018)さんとの出会いで、本当に良くしていただきました。守屋純子さんといっしょにやるピアノ・デュオ・コンサートに呼ばれたこともあって、佐山さんのおかげで色々なジャズ関係者と繋がることができました。ジャズの本当の楽しさを教えてもらった思いです。佐山さんからはジャズ史の授業を受けていて、グレゴリオ聖歌から遡って〈アメイジング・グレイス〉になった時に、『君、今日このあとぼくの部屋に来て、歌ってみて』と言われて。週に1~2回の“ジャズ研”を経験することができて、学生たちと有名なヴォーカル曲を研究する場所を作ってくれた恩人です」。
SSJCには受講生兼通訳として初参加
ユーリック武蔵は大学在学中の2017年に初めてSSJCに参加。すでにミュージカルの出演経験があった中で、SSJCを選んだのは講師との近い関係が作用したものだった。
「最初のきっかけは昭和音大の先生でSSJCの特別顧問である守屋純子さんの紹介を受けて参加しました。それ以前に日本ではキャンプの参加経験はなかったのですが、アメリカではジャズ・ボーカリストに指導してもらう1日のセミナーを経験。その経験があって4日間のSSJCへのモチベーションが高まりました。他の受講生の中には、昭和音大の学生や、ライブのために結成された学生ビッグ・バンドで歌った経験で知っていた人、顔は知っていたけれど話したことがなかった人が多くいて、SSJCをきっかけに友人が増えました。その後ライブで共演する関係になった人もいます。初参加のキャンプで一番大きかったのは技術面よりもマインドの面。あなたは歌詞の何を伝えたいのか、という部分にフォーカスしたのがいい意味の驚きであり、新しい視点でした。またボーカリストには歌詞がある強みを気づかされました。それは器楽奏者にはないものです。キャンプの最終日に完成させた「オールド・デビル・ム-ン」はラテンとスイングにサウンドの特徴がありますが、実は歌詞はロマンチック。第一に“歌詞のメッセージを伝えること”を大事にして歌う点が、自分には足りなかったと気づかされて、一番学べたところです」。
2020年のリモート・レッスンに関わって
2017~2019年のSSJCで通訳業務を担ったユーリック武蔵は、2020年のリモート・レッスンでも通訳で貢献。ボーカル講師のシェネル・ジョンズとの共同作業によって、参加者に便宜を図った。
「シェネルの動画の通訳として参加しました。昨年のようなリモート・レッスンに関わったのは、初めての経験でした。シェネルはとてもハッピーで明るく、周りの人を幸せにする空気を持っている人格者です。シェネルの一番凄いと思った部分はパワー。人柄が強く出ていて、最初の発声から引き込まれるような熱量。対面スタイルでやっているかのような発音指導も良かったです。まず楽しむことが大事で、それが本心であることを改めて納得しました。講師と受講者とのコミュニケーションが図れないのは、リモート・レッスンの難しい部分ですが、それゆえにシェネルが大事にしているものが真っすぐに伝わりました。動画なので繰り返し見られるのは、このレッスンの大きな利点だと思います。難しい部分があるかもしれないけれど、オンライン会議ツールを使用した1人あたり5分程度の双方向の指導ができれば素晴らしい。シェネルが動画の中で『みんなに会いたい』と言っていたので。色々なことが伝わって、学べることがより多くなると思います」。
将来設計と受講生へのメッセージ
「境界線を決めずに色々なことができる表現者でありたい、という気持ちが一番大きいです。ミュージカルやジャズ等に固定化するのではなく、その時々に素敵だなと思えたことに身を置きたい。その将来の目標のために、今はインターネット動画やSNSを通じて自分の活動をきちんと伝える必要があると思っています。そしてやり続けることも大事。真面目に自分と向き合えば、幅が広がっていくものだし、アグレッシブにハングリーにやり続けることが重要です。変化に対しても前向きに積極的に取り組んでいけることが自分の強みだと思っています。例えば指示の変更に対して、すぐに対応できたり、アイデアを求められた時に提案できたり。新しいものに対しても面白いと思って取り組めること。それはジャズを学んできた自分の強みだと思います」。
「ボーカルに関してぼくは、ジャンルは無いと思っています。他のジャンルで活動しているけれど、ジャズが好きでジャズに挑戦してみたいと思っている人はぜひトライしてほしい。またジャズに限定せず、広い意味で音楽について学べる機会でもあるので、ぜひ参加してほしいですね」。