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Interview
作曲・アレンジ部門の優秀賞受賞者・布施音人の音楽経歴と、社会人になった近況
2018 参加者 / ピアノ 布施音人
- 2021/08/13
- 2024/07/12
Profile
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布施音人(ふせ・おとひと)
布施音人(ふせ・おとひと)
1996年、東京生まれ。音楽家の両親の元、幼少期より音楽に親しむ。4歳からクラシック・ピアノを学び、中学~高校では吹奏楽部に所属。高校時代にビル・エバンスを聴き、ジャズの魅力を知る。
2014年、東京大学入学と同時にジャズ研究会に入部。学内外でセッションを重ね、2017年、慶應義塾大学のライトミュージックソサエティに所属し、山野ビッグバンドジャズコンテストにて、バンドで最優秀賞、個人で優秀ソリスト賞を受賞。
2018年Seiko Summer Jazz Campに参加し、優秀賞(作曲・アレンジ部門)を受賞。2021年3月、東京大学大学院修了。現在、首都圏のライブ・ハウスを中心に活動中。
ピアノと吹奏楽で培った学生時代の音楽経験
ピアニストの布施音人は、両親が音楽家の家庭に育ったこともあって、幼少期から音楽に親しめる環境が整っていた。高校時代までは様々な音楽を聴いてジャズに到達している。
「母親がピアニストで、自宅にグランドピアノがあったため、幼少時からピアノに親しんでいました。中学~高校では音楽系の部活動をやりたかったので、吹奏楽部に所属し、フルートを担当。母の知り合いのフルート奏者から少しレッスンを受けた経験がありました。
吹奏楽部のレパートリーはクラシックの交響曲、ポップス、映画音楽などです。編曲家であり、大学のビッグ・バンドでドラマーを務めてもいた父親が、よく自宅や車の中でジャズを聴いていて、自分も中学時代からハービー・ハンコック(p)やジョージ・ベンソン(g)のCDを自然と聴いていました。高校1年の時に吹奏楽でジャズのビッグ・バンド曲やTスクエアのような日本のフュージョンの曲を演奏。それらの曲のオリジナル演奏や関連する楽曲をYouTubeで探して聴いた時に、それまで自分が聴いてきた色々な音楽が結びついた感覚があったのです。
その時に初めて父親におすすめのジャズのCDを教えてもらったら、ビル・エバンス(p)やウォーレン・バーンハート(p)のCDを貸してくれました。高校2~3年の間は学校の行き帰りでよく聴いていましたね。それらの演奏の中には、自分が聴いていたクラシックにはないような、聴き慣れない和音があって、その和音をよく知るために自分で弾いてみたところ、すごいことをやっているのだろうなと、漠然と思いました。自分もそのような音楽が作ることができれば楽しいだろうなと思ったことを覚えています。
他にはキース・ジャレット(p)のスタンダーズ・トリオやパット・メセニー(g)・ユニティ・バンドもよく聴いていました」。
大学在学中に2018年のジャズ・キャンプに参加
高校時代は一人でピアノに向ってジャズのハーモニーやフレーズの真似をしていた布施は、2014年、東京大学入学と同時に東京大学ジャズ研究会に入部。ジャズを一緒に演奏する仲間ができて、学内外のジャズ研究会を中心にセッションを重ねる。
ジャズ研ではピアノ・トリオや、管楽器が入った小編成でスタンダード・ナンバーを演奏。年4回の演奏会ではトリオやギター・カルテットで、自分で譜面に起こしたキース・ジャレットやパット・メセニーの曲を披露した。
2017年4月から1年間、慶應義塾大学のビッグ・バンド・サークル、ライトミュージックソサエティに所属し、8月の第48回山野ビッグバンドジャズコンテストで、バンドで最優秀賞、個人で優秀ソリスト賞を受賞。2018年に初めてSeiko Summer Jazz Camp(以下SSJC)に参加する。
「SSJCを受講したのは、東大ジャズ研の先輩で、前年のSSJCで最優秀賞を受賞された大友一樹(g)さんの存在がきっかけで、慶應ライトのバンド・メンバーやOBが受講していたことも知っていました。その時は自作曲の〈ゴースト・ロード〉が、優秀賞(作曲・アレンジ部門)を受賞。自分が作曲を始めてからまだ3曲目の作品で、ハーモニーの転調とジャズ・ワルツを組み合わせたものです。講師からは『1曲の中で大きな物語を感じた』との高評価をいただきました。ジャズ・スタンダードの楽曲形式や理論を研究した成果が表現された曲だと、審査員の評価が得られやすくなると思いますよ。キャンプ中は普段CDや動画サイトで見聴きしているニューヨークのミュージシャンと、間近で接してレッスンを受けられるので、演奏だけではなく人間的な部分からも何かを得ようと意識しました。
大林武司(p)さんのレッスンでは、最終日に受講生が順番に即興演奏をする時間があって、レッスン中の言葉から、音楽に対してすごく誠実な印象を受けました。受講者のマイナスな部分はあまり指摘せず、良いところを話されるので、自分がいいと思えたことをやればいい、と学んだのです。またリズム隊のアンサンブルのレッスンでは、ヨタム・シルバースタイン(g)の『曲を表面的に知っているだけではなく、歌詞の内容まで理解していることが大切』との言葉が印象的でした。楽譜を見ながら演奏するだけではなく、深い部分で楽曲の研究をし続けることが大事だと実感しました」。
ジャズ・キャンプに参加してプラスになったこと
「自分が信じる音楽をやり続けて良い、という自信がついたのが大きな収穫です。東大や慶應ではサークル内の人とのコミュニケーションに限られていたので、SSJCのような経験は初めてでした。
ヨタムについて思い出深いのは、アンサンブルのレッスンでの出来事。自分が人間的な部分を含めてジャズ・ミュージシャンの中で最も尊敬しているのがライル・メイズ(p,key)で、ヨタムも演奏しているメイズ作曲の〈ショリーニョ〉が好きだと言ったら、ヨタムがいっしょに演奏しようよ、と提案してくれて、それで共演したのが嬉しい思い出です。自分がやりたいことをやる、ということを後押しされて、自信がつきました。
少人数でセッションする機会が少ないので、管楽器の人や講師陣も含めて自由にセッションできる時間がもっとあれば、より活発に意見交換ができていいと思います」。
「自作曲の〈ゴースト・ロード〉を講師陣と私で、ガラコンサートで演奏して自信がつきました。SSJC参加以前はあまり作曲をしていなく、ライブのレパートリーはカバー曲が中心でした。受賞後はライブで自分の曲を演奏することに意味があると感じるようになり、それによって作曲に意欲的に取り組めるようになったのです。ビッグ・バンドの作編曲も始めました」。
大学院生活を経て社会人になって
2019~2021年の東京大学大学院時代もそれ以前と同じように、大学のサークルやライブ・ハウスのセッションに毎週参加。今春からはシステムエンジニア(SE)として企業に勤務しながら、音楽活動を続けている。自身のトリオとギター・カルテットが中心で、オリジナル曲が8~9割に増えているという。
「音楽専業でどのように自分が生きていけるか、まったく想像ができませんでした。大学に入学した時は、音楽を収入源にするつもりはなく、将来は数学の研究者になりたいと漠然と考えていました。その後、音楽への興味と数学への興味を両立させながら生きていきたいと思うようになり、少しでも自分の興味がある分野で就職するということでSEになったのです。
最近感じていることは、世の中で評価されたり売れているものが、必ずしも良いものではない、ということ。SNSの発達で、人々がパッと見て良いと思ったものに目が向く傾向があります。だから自分の音楽が評価されない、人気が出ないなどのマイナス面があったとしても、自分がやりたいことをやり続けることが大切だと思います。
専業ミュージシャンにも仕事として割り切ってやっている部分があるかもしれません。自分の人生を自分の納得がいく形にすること、音楽に費やせる時間が少なくても、それをマイナスではなく前向きにとらえることが重要です。本業の時間を含めた全体を音楽の材料にする意識ができるのが理想的ですね」。
将来設計と受講者へのメッセージ
「今後の目標は自分の作編曲の成果をまとめたCDを作ることです。高校時代からジャズ・ミュージシャンのCDを繰り返し聴いて練習してきた経験があるので、自分もパッケージ音楽を作りたいという強い思いがあります。キース・ジャレットのようなソロ・ピアノやライル・メイズのようなシンセサイザー演奏、ラージアンサンブルなど、色々な編成でやってみたいですね。私がYouTubeで発信しているソロ・ピアノ動画に関しては、思いがけない反響もいただいているので、今後も前向きに取り組んでいきたいと思っています」。
「SSJCは2020年に続いて今年もリモート・レッスンのため、講師陣と直接話ができないのは残念ですが、動画の形ではあっても受講生に向けた内容であり、一方的ではなく受講生のことを考えたものなので、受講生ひとりひとりの音楽人生に前向きな効果をもたらすはず。
楽器の奏法だけでなく、あらゆる面で自分にプラスになるものを見つけることができるので、リモートでも期待できます。広い視野を持って色々なことを吸収する姿勢が大切ですね」。