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Seiko Summer Jazz Campで学んだ札幌出身の女性プレイヤー2人の初対談

Interview

Seiko Summer Jazz Campで学んだ札幌出身の女性プレイヤー2人の初対談

2019年参加者 / トロンボーン 治田七海、2022年参加者 / アルトサックス 佐々木梨子

Profile

  • 治田七海(はるた ななみ)

    治田七海(はるた ななみ)

    治田七海(はるた ななみ)

    トロンボーン奏者
    2001年、北海道札幌市生まれ。5歳からピアノを学び、8歳の時にブラスバンドでトロンボーンを始める。13歳の頃よりライブ活動を開始。14歳で北海道グルーブキャンプに参加し、バークリー賞を受賞。翌年米国へ短期留学。17歳でSeiko Summer Jazz Campに参加し、最優秀賞を受賞。2020年に活動の拠点を東京に移し、2022年6月にはSeiko Summer Jazz Camp最優秀賞の副賞として米国でのジャズ・キャンプに参加。11月にデビュー作『II』をリリース。2023年9月からはSeikoSJCの講師リーダーを務めるマイケル・ディーズが教鞭を取るミシガン州立大学への留学が決定している。

  • 佐々木梨子(ささき りこ)

    佐々木梨子(ささき りこ)

    佐々木梨子(ささき りこ)

    アルトサックス奏者
    2004年、北海道札幌市生まれ。8歳からアルトサックスを始める。2013年から6年間、札幌ジュニアジャズスクールに在籍し、渡辺貞夫、デビッド・マシューズらに師事。2018年の北海道グルーブキャンプでグルーブキャンプ賞を、2019年にバークリー賞を受賞。2022年、米国バークリー音楽大学の5週間のプログラムに授業料・寮費免除での参加をし、同大学の全額奨学金を獲得。
    Seiko Summer Jazz Campに参加し特別賞を受賞。10月には自身を特集したNHKの番組が放送され、反響を呼んだほか、12月の「スターリーナイトコンサート」では日野皓正、大林武司と共演。現在は札幌市内を中心に演奏活動中。

主楽器およびジャズとの出会い、尊敬するミュージシャン

Seiko Summer Jazz Camp(以下SeikoSJC)の卒業生である治田七海と佐々木梨子は、共に北海道札幌市で生まれ。年齢は3歳違いで、8歳から現在の主楽器をスタート。2人とも北海道グルーブキャンプでバークリー賞を受賞して米国へ短期留学しSeikoSJCに参加して受賞者に選出されるなど、共通点が多い。以前から共演関係にもあって親しい二人に、お互いの初期キャリアから語り合ってもらった。

治田:音楽を始めたのはピアノからでした。5歳の時です。小学3年生で学校の金管バンドに参加して、トロンボーンを始めました。その時はどのような楽器なのかもよくわからなくて、特に思い入れはなく、名前で決めました。大人と同じサイズのトロンボ-ンは、小3では届かないスライドの部分があったので、同じポジションで口の動きと、筋肉だけで音を変えられる技術を練習しました。ジャズの曲も演奏するジュニア・バンドだったので、そこでジャズに出会って、小学生の時は書き譜面のソロでアドリブを学んだ感じです。

佐々木:小学2年生の秋にアルトサックスを始めました。私の姉が吹奏楽部でアルトをやっていて、高校進学のタイミングでバリトンサックスに転向。自宅に姉のアルトがあったので、自分で始めてみようと思ったのです。ヤマハでサックスを習うことになって、小3から地域の小中学生のビッグ・バンドに入りました。そのバンドでジャズを演奏したのが、ジャズとの出会いで、自然とジャズを演奏するようになりましたね。

初対面の思い出や印象

治田:初対面は私が高校1年生で、梨子ちゃんが中学1年生だった6年前。梨子ちゃんの名前は会う前から、すごいアルトの女の子がいる、とまわりのミュージシャンから聞いていて、初めて会った時は、「この人が噂の梨子ちゃんなんだ!」と思いました。実際に音を聴いたら、「本当に上手い」。

佐々木:初対面の場所は札幌のライブハウスでしたね。本当に素晴らしい演奏で、衝撃を受けたことを覚えています。私が所属していたビッグ・バンドのトロンボーン奏者とは全然違っていたのが、今も印象深いですし、トロンボーンに限らず、中1から少しずつ市内のライブハウスで演奏する機会をいただいて聴いた、同世代の他のプレイヤーを含めても、衝撃的でした。

治田:札幌で色々な編成のリーダー・ライブを行った時に、梨子ちゃんを誘って共演。ジャズのスタンダード・ナンバーを中心に2セットを一緒に演奏してみると、とても中学生とは思えなかった。おそらく色々なジャズ作品を聴いて、理論も身に付けていたのでしょう。一人のジャズ・ミュージシャンとして尊敬できると思いました。

佐々木:中学生で共演した時は、初見のスタンダード曲を演奏したのですが、自分が知らないアプローチや、2セットを通しての演奏の流れなど、まったく経験がなかったものすべてが勉強になりました。もっと色々な曲や音源を聴いて、ジャズを真剣にやっていこうと思いました。

治田:梨子ちゃんは自分のスタイルをどのように身に付けたの?

佐々木:ヤマハでアドリブ奏法や音楽理論を習い、ビバップのフレーズはビックバンドの先輩にオムニブック(コピー譜)など教えてもらい、参考にして考えていました。小中学生ビッグ・バンドの先輩がチャーリー・パーカー(as)のオムニブックを使っていて、自分も速いフレーズを吹いてかっこいい演奏をしたい気持ちがありました。それで自分もオムニブックを買ってパーカーのフレーズを練習。速いフレーズを吹くことに楽しさを感じていました。

治田:私はトロンボーン奏者ではカーティス・フラーを一番多く聴きました。私の理想の音色を持っているので研究しました。好きになったきっかけのアルバムは『The Opener』(1957年)。一番の魅力は音色だと思っていて、サックスのサブトーンをトロンボーンで実現しています。そして丸くて太い音を出す。癒される音色だけではなくて、強くて芯があり、メリハリがある音色。自分でもそんな音色を身に付けて、カーティス・フラーに近づくために楽器を替えたりしています。

Seiko Summer Jazz Campを知ったきっかけと参加した経験を通じて得たもの

治田:SeikoSJCは私の音楽活動を応援してくれる母が見つけて、勧めてくれました。私が参加できるようなジャズ・キャンプをいつも探してくれていたのです。2019年にSeikoSJCに参加する前から、マイケル・ディーズ(tb)さんが好きで、よく音源を聴いていたので、講師の彼に会えることが一番の楽しみでした。またそれまでに参加した他のジャズ・キャンプとは違って、全国から同世代の人たちが集まるので、参加者に会えることも楽しみにしていました。

佐々木:私は治田さんや共演したことがあるミュージシャンが参加されているのを見て、自分も参加して学んでみたいと思ったのがきっかけです。参加した2022年には、SeikoSJCの直前にBerklee Five-week Summer Programに参加していました。私は英語が苦手で、バークリーではうまく会話ができませんでしたが、音楽でコミュニケーションが取れた実感がありました。ほかの参加者からセッションに誘われたり、音楽の繋がりは素晴らしいと学びました。二つのジャズ・キャンプに続けて参加する形になったので、SeikoSJCでは(Five-weekでの経験も生かして)自分が知りたいことをもっと学べればいいなと思って、4日間を過ごしました。治田:私はSeikoSJCの2年前に経験したBerklee Five-week Summer Programの時に比べて、英語の理解力は増していました。(SeikoSJCには通訳がつくが)休憩中にマイケルさんに直接質問するなど、自分が積極的に話しかける力はついたと思います。英語ができなくても、恥ずかしがらずに話しかけて、自分が欲しい情報を得た方が、断然自分の力になると思いました。そのあたりの意識を変えましたね。

佐々木:先生方の演奏を聴いて、自分の中で無駄な音を吹かないで良い演奏をすることを学びました。普段の演奏でも常にいい内容を想像していけるようにしたい、という意識が芽生えたのです。

治田:2019年のSeikoSJCのテーマが「If You Can Sing It, You Can Play It(歌っていることをそのまま演奏にする)」で、キャンプの間は講師の方がずっとおっしゃっていました。すごく大切なことだと思ったし、これがいま演奏したい内容だと思うことを、そのまま音に出す意識になったのは、SeikoSJCを通じて自分が変わった部分です。当時高校3年生で、大学進学を考えていた時期にSeikoSJCでマイケルさんにお会いしたのですが、私はFive-weekに参加した時から、ずっとアメリカで学びたい気持ちを持っていました。そこでマイケルさんに相談したところ、彼がすごく手伝ってくださって、翌2020年に、今マイケルさんが教えているミシガン州立大学に留学が決まりました。ただコロナ禍で延期されて、改めて2023年9月からの留学が決まったので、これはSeikoSJCに参加していなかったら実現していない人生。参加してよかったと感じています。

佐々木:ディエゴ・リベラ(as)さんのレッスンを受けて、とにかくスイングが大切だと教わりました。歌ったものをそのまま吹くことを目の前でやってくれたので、理解が進みました。歌う心が大事だという部分は、それまでの自分にはなかったものなので、そのことに気付けたのが良かったです。私が参加した2022年は「Smile When You Play Blues!」がテーマ。ジャズの歴史をたどっていくと、そこにはブルースやゴスペルがあって、歴史を大切にすることも同時に学びました。自分が演奏するジャズの歴史をもっと理解しなければいけない、改めてジャズに真剣に向き合わなければ、と思えたことも良かったです。

治田:トロンボーン・アンサンブルのレッスンで、マイケルが「どんな年代の誰でもいいからジャズ・トロンボーン奏者の名前を挙げてみて」と言われて、アービー・グリーン、カーティス・フラー、スティーヴ・デイヴィスの名前を出したら、全員のプレイ・スタイルを完全にコピーしてその場で演奏してくれたのです。この人はすべての時代のジャズを勉強して、自分の中に取り込んで、その中から自分が吹きたいスタイルと音を出しているんだな、と実感しました。このことがきっかけで、私も色々な時代のジャズを聴くようになりました。

佐々木:治田さんは2019年のSeikoSJCで最優秀賞を受賞されて去年、アメリカに短期留学されたんですね。

治田:2022年6月にノースカロライナ州で行われた2週間のジャズ・キャンプに参加しました。SeikoSJCでいただいた副賞が3年延期されて、実現したものです。全体講習、コンボ/ビッグ・バンド・アンサンブル、楽器別レッスンのプログラムで、森の中に急に現れるように感じる街の建物に移動して、色々な授業を受けるスタイルが新鮮な体験でした。

SeikoSJC最優秀賞の副賞、アメリカ・ノースカロライナ州留学の様子

最近の活動~アルバム・リリースとテレビ番組出演

治田:2020年に活動の拠点を東京に移してから、アーロン・チューライ(p)さん、小林陽一(ds)さんのライブやレコーディングに参加。2022年11月にはデビュー作『Ⅱ』をリリース。20歳になったばかりのタイミングで録音しました。ビバップしか演奏していなかった私が、色々なスタイルで演奏するミュージシャンと出会って、自分の中で好きな音楽がどんどん変わっていった時期だったので、リーダー作を制作するのは少し早いかなと思っていました。ただ制作会社と出会ったタイミングで、私にビバップを教えてくれた札幌のピアニストが亡くなりました。彼らといっしょにやっていたスタイルがまだ自分の中で色濃く残っているうちに、一つの作品として残せるのだったら、それを残そうと思ったのです。
メンバーは吉本章紘(ts)、片倉真由子(p)、粟谷巧(b)、石若駿(ds)のみなさんにお願いして、世界的ギタリストの増尾好秋さんがプロデューサーを務めてくださいました。まだデジタルで配信していないこともあってか、初回プレスのCDは完売。色々な人が期待・注目してくれているのだとわかり、嬉しく思いました。現在はこのメンバー以外のミュージシャンとのリーダー・バンドで、定期的にライブ活動を行っています。

佐々木:2022年10月にテレビ番組「ドキュメント20min.“Untitled -わたしは、ジャズに生きたい-”」(NHK)で、私の活動が紹介されました。最近は東京で演奏する機会も増えていて、2018年SeikoSJCの先輩であるの中村海斗(ds)さんのバンドに参加。12月にリリースされた中村さんのデビュー作『BLAQUE DAWN』にカルテットのメンバーとして参加しています。2023年3月に高校を卒業予定で、その後の進路はまだ決まっていませんが、アメリカのバークリー音楽大学の留学を考えているところです。

Photo by Tsuyoshi Fujino

将来のSeikoSJC参加者に二人から贈るメッセージ

治田:SeikoSJC参加前は年長者と共演することが多かったのですが、同世代の優秀な人たちと出会って共演できたことで、自分の音楽活動の幅が広がりました。9月からアメリカでの留学が始まるので、それまでは今までと変わらずに色々な人と会って、自分の好きな音楽を深めて、自分のスタイルの確立に向かっていきたいと思っています。ミシガン州立大学の留学は2年間の予定です。

佐々木:ディエゴさんに習ったことが、今の自分の演奏に繋がっています。意識や技術の面で自分の“気づき”が生まれたので、それを今後の活動に生かしていきたいですね。

治田:他のジャズ・キャンプにも参加している経験を踏まえて言うと、SeikoSJCのように素晴らしい講師の方々のレッスンを無料で受けられる機会は例がないものなので、もし参加することを迷っているのなら、一度受けて損はないと思います。通訳の方もいるので英語力については心配せず、積極的に講師の方とコミュニケーションを取ってほしいですね。

佐々木:参加しなければわからないこともたくさんあります。勇気を持って一歩を踏み出して参加して、新しいものを吸収してほしいと思います。

SEIKO HOUSE GINZAの時計塔の前で

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