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Report
Seiko Summer Jazz Camp 2022が開催されました
4日間に渡る白熱したジャズキャンプ。そのストーリーをお届けします。
- 2022/09/22
- 2024/09/30
日本の若きジャズ・ミュージシャンが活躍するきっかけとなる本格的なジャズキャンプを、ここ東京で開催したい―。その想いからセイコーホールディングス株式会社(10月1日からセイコーグループ株式会社)が特別協賛して2016年からスタートしたSeiko Summer Jazz Camp(SSJC)は、2022年で7回目。
新型コロナウイルス感染症拡大から2020年、2021年はWeb SSJCを余儀なくされながらも、2022年はコロナ禍のなか8月15日から4日間、3年ぶりのリアル開催が実現しました。
Smile When You Play Blues!
コロナ禍のなか、若きジャズ・ミュージシャンの受講生たちに本場のジャズに深く触れる実体験を届けたい、という想いから掲げたテーマは「Smile When You Play Blues! ブルースで笑顔を咲かせよう!~苦しみ・悲しみを乗り越えて~」。実力派プレイヤーからジャズのルーツであるブルースを学び、ジャズを奏でることを楽しんでほしいという意味を込めました。
感染症対策を綿密に行い、会場の尚美ミュージックカレッジ専門学校に集まった受講生は38名。北海道から広島まで日本各地から集結した生徒たち、ジャズの本場・アメリカからSSJC講師のために来日した一流のジャズ・ミュージシャンたち、会場関係者の方々、そしてSSJCを主催する事務局。誰もがこのコロナ禍のなか無事に4日間を乗り切りたい想いで、最初のオリエンテーションはこれまでにない緊張感が漂いました。
それも講師のジャズ・ミュージシャンたちの演奏が始まると受講生の目が輝き始め、一気に会場がワクワク感に。今年はディエゴ・リヴェラ(サックス)を講師リーダーに、マーシャル・ギルクス(トロンボーン)、ベニー・ベナック(トランペット)、ロドニー・ウィテカー(ベース)、クインシー・デイヴィス(ドラムス)、シェネル・ジョンズ(ヴォーカル)、ヨタム・シルバースタイン(ギター)、大林武司(ピアノ)、守屋純子(特別顧問:ピアノ・編曲)の9名。ジャズ・ミュージシャンを志す者なら誰もが憧れる第一線の人たち。彼らから直接指導を受け、本場ジャズの世界に没入する〈時〉の始まりです。
Feel the Jazz!
楽器ごとに演奏技術を学ぶマスター・クラスや8人編成で課題曲を仕上げるスモール・アンサンブル、ビッグ・バンド・アンサンブル、作曲&アレンジ・クラス、マスター・クラスなど、様々なレッスンを用意。講師たちの技術指導や音のとらえ方、ジャズとの向き合い方、仲間とのセッションの呼吸などここでしか得られない指導。英語が不得手でも積極的に質問する生徒や、講師の言葉を聞き漏らさないように集中する生徒、時には講師と白熱した議論を交わす場面も。講師陣も自身の経験に基づき、レッスンで生徒一人ひとりに具体的なアドバイスを交えて指導しました。朝から夕方の限られた時間で受講生たちは講師からの学びを貪欲に吸収していきました。
キャンプの成果を披露するGala Concert
最終日の18日午後2時からは、4日間のキャンプの成果を発表するガラ・コンサートをバリオホールで開催しました。これはトランペット+トロンボーン+サックス+ピアノ+ギター+ベース+ドラムス+ヴォーカルの8名×5組のスモール・アンサンブルが、各2曲を披露するもので、それぞれの演奏の後に講師のコメントをアナウンスする形で進行。今回はニューヨークのジャズクラブから名前を拝借したのが特徴です。
Blue Note Ensembleは1曲目に、ジャム・セッションでよく取り上げられる「ジャスト・フレンズ」を選曲。3管のユニゾン・テーマで始まり、男性ヴォーカリストがスキャットを交えて歌唱。2曲目の「ルート66」はヴォーカルにギターとホーンズのリフが絡むアレンジで、ギターとトロンボーンのソロが印象的でした。このアンサンブルを指導したディエゴ・リヴェラは、「楽しみながら一生懸命に頑張ったことに価値がある。ぼくもみんなのおかげで笑顔になった」と講評を述べました。
二番手のVanguard Ensembleはビバップの名曲「ヤードバード組曲」でスタート。女性ヴォーカリストをフィーチャーしたこの曲ではヴォーカリーズにチャレンジし、ポテンシャルの高さを見せました。次にソニー・クラークの「ブルー・マイナー」を選曲し、オリジナル・ヴァージョンにはないトロンボーンが加わった3管で、モダン・ジャズ期の1950年代に生まれたハードバップを体現。なおこのアンサンブルには受講者のベーシストが不参加だったため、ロドニー・ウィテカーが加入しました。
Smalls Ensembleはボサノヴァの名曲「ノー・モア・ブルース」を、女性ヴォーカル・バージョンで演奏。ソロ・リレーでは特にアルトサックスのプレイが光りました。「ワン・バイ・ワン」はアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズが、60年代からレパートリーにしたナンバー。強弱をつけたサウンドはブレイキーがメッセンジャーズに教えた演奏の極意であり、このアンサンブルもその教えを忠実に守ったのは好感をもたらしました。指導したクインシー・デイヴィスは、「みんな才能があって謙虚。よく頑張った」と述べました。
4組目のMinton’s Ensembleはデューク・エリントンが作曲した、ビッグ・バンドの定番曲「イン・ア・メロウ・トーン」をインストゥルメンタルで演奏。カウント・ベイシー流のピアノでエンディングを決めてみせます。ジョージ&アイラ・ガーシュウィンが書いた「アイ・ガット・リズム」では、ビバップ精神を発揮したアルトサックス奏者が好演。マーシャル・ギルクスは「素晴らしい演奏」、ヨタム・シルバースタインは「ぼくも学ばせてもらった」と高評価を与えました。
最後を務めたBirdland Ensembleはピアニスト抜きの7人編成で、スタンダード・ナンバーの「ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー」を、女性ヴォーカルとギターのデュオを皮切りに演奏するアレンジ。インストゥルメンタルの「オーニソロジー」は、アルトサックス~トロンボーン~ベース~ドラムスとリレーし、エンド・テーマへと落着しました。大林武司は「コロナ禍で講師と受講生がお互いにもっと歩み寄ろうとした。向かい風の中で苦労したが、大きな成果を挙げることができた」と講評を締め括りました。
全員参加のスペシャル・ビッグ・バンドが演奏
5×トランペット+5×トロンボーン+5×サックス+4リズムの大編成は、ステージにスタンバイしただけでも、さすがに迫力があります。1曲目のコール・ポーター作「アイ・ラヴ・ユー」は守屋純子編曲、ディエゴ・リヴェラ指揮で演奏。「ブルース・フォー・ハヤブサ2」はJAXAが開発した小惑星探査機「はやぶさ2」をモチーフに、作曲者の守屋が自身のオーケストラのレパートリーにしている楽曲。守屋の指揮による演奏は、守屋オーケストラと同じように、トランペット~バリトンサックス~トロンボーンとソロをリレーしました。
3曲目の「インナー・シティ・ブルース」はソウル・ミュージックの歌手マーヴィン・ゲイの自作曲。指揮者のリヴェラは「マーヴィン・ゲイはブルースをよく理解していたので、当時の楽曲が今でも意味を持つ」と選曲理由を語って演奏がスタート。シェネル・ジョンズが歌声を聴かせてくれました。続く「ジョージア・オン・マイ・マインド」は今回のSSJCがブルースをテーマにしているということで、「レイ・チャールズの歌唱で有名なこの曲を選んだ」(ベニー・ベナック)。トランペット講師のベナックがヴォーカリストとしても優れた才能の持ち主であることを披露してくれました。
最終曲の「フィード・ザ・ファイアー」(ジェリ・アレン作曲)の選曲理由に関して、「ジャズ・ミュージシャンには女性が増えてきた。ジャズの素晴らしい変化を称えて、女性3人をフィーチャーする楽曲」とリヴェラが前説。アルトサックス~トロンボーン~ピアノのソロ・リレーは、今回のSSJCで参加者が吸収した成果を象徴するシーンになったのです。
最も盛り上がった瞬間の表彰式
表彰式の冒頭、講師リーダーのディエゴ・リヴェラが4日間のSSJCをまとめて、「今回は不参加だった講師のマイケル・ディーズの尽力もあって、大成功」と講評。今年から新設されたヤマハ賞は2019年からの協賛社である株式会社ヤマハミュージックジャパン(以下ヤマハ)が管楽器奏者3名に贈るもの。続いて優秀賞、特別賞、最優秀賞の順に発表され、各受賞者には庭崎紀代子セイコーホールディングス株式会社常務執行役員から、副賞が授与されました。また最優秀受賞者は2023年7月にアメリカ・ノースカロライナ州ブルバードで開催されるJazz Institute at Brevard Music Centerのプログラムで2週間学べる参加権も獲得しました。受賞者のピアニスト平倉初音さんについてリヴェラは、「近い将来いっしょにレコーディングできればと思っている。必ずスターになる」と、その才能にお墨付きを与えました。
これまでのSSJC参加者たちは、受講期間中や卒業後に生まれたネットワークを活用して、SSJCの同期生どうし、あるいは先輩や後輩と連絡を取り合う機会が増えることになります。卒業生たちは日本全国で活動の場を模索しながら、ミュージシャンとしてのキャリアを積み上げているのです。
SSJC2022の受賞者6名は以下の通りです。
最優秀賞「Most Outstanding Student Award」
ピアノ 平倉 初音さん
ピアノ 平倉 初音さん
「今回講師の先生方からたくさんアドバイスをいただいたのが収穫でした。すごく濃密な時間で楽しかったのと、今までなかった同世代の方々との交流ができたことも良かったです。」
特別賞「Special Recognition Award “Future of Jazz”」
サックス 佐々木 梨子さん
「今できる最大限に自分を表現できたことが、受賞に繋がったのではないかな、と思っています。高校3年生の今、この経験を今後の活動に生かしていければと感じています。」
Spirits of Jazz賞
ドラム 山崎 隼さん
「ジャズに対する熱いスピリットが評価されたのだと思います。来日された先生の演奏と指導に間近で接することができて、よりジャズが好きになって頑張ろうと思いました。」
優秀賞「Best Arrange & Composition Award」
サックス 井上 弘貴さん
「初めて取り組んだホーン・アレンジが評価されたと思っています。憧れの先生たちから指導を受けられたのが、一生の財産になると感じています。」
優秀賞「Most Improved Student Award」
トランペット 湯本 裕唯さん
ベース 大河原 正幸さん
湯本さん
「とても嬉しくて、ありがたく感じています。同年代のジャズ・プレイヤーと出会えたことに感謝しています。今回学んだことを元に、これからもたくさん勉強していきたいと思っています。」
大河原さん
「とても密度の濃い4日間でした。もっと学びたいことがあったほどです。将来アメリカに進出したいので、その準備のためにこれからの時間を過ごしていきたいと思っています。」
ヤマハ賞
サックス 中根 佑紀さん
トランペット 伊作 潤さん
トロンボーン 春木香菜絵さん
最終日のフィナーレを飾った講師陣のスペシャル・セッション
リアルで2019年に開催された前回のSSJCの最終ステージと同じく、今回も9名の講師陣によるスペシャル・セッションが行われました。1曲目はオリヴァー・ネルソンが『ブルースの真実』で発表した自作曲「ストールン・モーメンツ」。全員にスポットが当たるソロ・リレーで構成し、シェネル・ジョンズの華やかさとスター性が強く印象づけられました。これ1曲で終わりなのかな?と思ったところ、テナーサックスのリヴェラの吹奏によって、ジャム・セッションのように「スウィングしなけりゃ意味ないね」がスタート。デューク・エリントンの名曲で、それぞれの講師が見せ場を作りました。粋な選曲と自然発生的な演奏に、今年のSSJCのテーマが重なって、心地よい余韻が会場を包み込んだのでした。
キャンプ後、街に響き渡るソウルフルな演奏を披露
SJC2022の集大成として、受講生と講師陣が8月19日(金)に再び集いました。舞台は池袋西口公園野外劇場のグローバルリング・シアター。TOKYO JAZZ2022の企画で行われた無料コンサートに出演した彼らは、スモール・アンサンブルやビッグ・バンド、最後に講師陣による演奏を披露。演奏開始から徐々にギャラリーが増え、フィナーレ時には会場を埋め尽くすほどの観客が集まりました。SSJC2022の記念品であるロゴを配した黄色のTシャツを着た出演者たちは堂々として心から楽しんでいる様子で、東京の夏の夜を彩る素晴らしいパフォーマンスを披露しました。
ジャズの真骨頂!プロのパフォーマンスに酔いしれるひととき
SSJC講師のために来日した一流のミュージシャンの演奏をお届けするジャズライブが、ヤマハが運営する銀座スタジオで8月21日(日)に開催されました。息のあった演奏からはじまり、ピアニストの大林武司の司会のもと、シェネル・ジョンズによる歌声が会場を包み込みました。鳴りやまないアンコールにより「It Don’t Mean A Thing」でフィナーレ。東京にいながら本場ニューヨークのジャズを堪能するプレミアムな時間でした。
素晴らしい授業と演奏を届けてくれた講師陣に、セイコーから感謝の想いと東京来訪の記念として、セイコーハウス銀座の時計塔に特別に案内。19時を告げる鐘が鳴るなか、銀座の中心地で想い出を紡いでいただきました。
本場のジャズキャンプをお届けするSeiko Summer Jazz Camp。
ジャズを志す者同士の新たな出会いの場としてや、世界のジャズへと飛び出すきっかけとなった卒業生も数多くいます。
今年卒業した受講生の活躍を願いながら、2023年の開催へと進めていきます。