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スウェーデンの歌姫とSeikoSJC卒業生の共演!Seiko presents “Starry Night Concert” vol.28
2023年5月23日@東京・浜離宮朝日ホール
- 2023/06/22
- 2024/07/12
ちょうど1年前に開催されたSeiko presents “Starry Night Concert” SPECIAL STAGEでは、Seiko Summer Jazz Campの講師を務め、欧米で活躍するピアニスト、大林武司率いるトリオと、Seiko SJC卒業生を中心とした“セイコージャズキャンパーズ”の管楽器奏者3名が共演。今回はスウェーデン若手トップの実力派歌手として知られるイザベラ・ラングレン&Her Trioのサポート・メンバーとして、セイコージャズキャンパーズが起用されたステージとなった。
ステージの幕開けを飾ったイザベラ・ラングレン&Her Trio
イザベラは今年、スウェーデンの王政成立500年を迎えたことを記念して企画された東京を中心とするイベント《スウェーデン・ジャズ・ウィーク2023》に、同国出身のミュージシャン3組のうちの一組として来日。今回が6度目の来日となる親日家だ。ハイスクールを卒業後、ニューヨークへ移住して、ジャズの名門として知られるニュー・スクールに入学。4年間でジャズの最も大切な要素を学んで帰国すると、デビュー作『It Had To Be You』を発表し、『若しあなただったら』の邦題で2013年に日本デビューも飾った。以降のキャリアはまさに順調そのもので、チェンバー・オーケストラと共演した翌年の『サムハウ・ライフ・ゴット・イン・ザ・ウェイ』は、スウェーデンで〈アルバム・オブ・ジ・イヤー〉を受賞。2018年には同国と日本の友好条約締結150周年作となる『ヒット・ザ・ロード・トゥ・ドリームランド』が登場し、来日公演も成功させている。
当夜のステージはまずイザベラ&ハー・トリオの演奏で始まった。1曲目の「スマイル」はチャーリー・チャップリンが1936年の長編喜劇『モダン・タイムス』の主題歌として作曲し、54年に歌詞がつけられたことで、広くカバー・バージョンが生まれたスタンダード・ナンバー。イザベラは昨年、ボーカリストとして最も影響を受けたジュディ・ガーランドの生誕100周年記念コンサートを、トリオ&管弦楽団との共演で行っており、ガーランドの64年ライブ作に収録されていたこの曲は、今のイザベラに最もフィットするレパートリーなのだろう。「♪心が痛んでも、胸が裂けても、暗雲が垂れ込めても/君が微笑めば、うまくやり遂げられるだろう」という歌詞のナンバーを、イザベラはベースとのデュオで儚げに歌い出し、トリオの合奏と共にゆっくりと情感を高めて歌唱。エンディングの歌詞である「♪smile」を、抑揚をつけながら落着して、優れた表現力を示した。人々に癒しをもたらし、勇気を与える歌詞内容ということもあって、コロナ禍以降この曲を取り上げる歌手が世界的に増加傾向にあることは見逃せない。
「こんばんは。日本に来られて、とても幸せです」と日本語で挨拶したイザベラは、この1週間前に「能とスウェーデン・ジャズの邂逅」と題したイベントで、日本の伝統芸術とのコラボレーションを初体験していて、親日家としてのキャリアをさらに深めている。2曲目のペギー・リー作「イッツ・ア・グッド・デイ」は、イザベラの2021年に発表した最新作『ルック・フォー・ザ・シルヴァー・ライニング』から。スローなヴァース(歌の前に置かれる導入部分)が、テーマに進むとアップテンポになって、曲調の対比を描きながらジャジーな歌唱力を披露。ピアノ~ベース~ドラムとソロをリレーして、ピタリとエンディングに落着した。
管楽器3名のセイコージャズキャンパーズが加わって、さらに華やかに
ステージは後半へ進んだところで、セイコージャズキャンパーズが登場して、イザベラとの初共演が実現。今回抜擢されたのは、アルトサックスの佐々木梨子、トランペットの枝次竜明、トロンボーンの春木香菜絵で、すでにプロとしても活躍中の若き才人たちだ。
「降っても晴れても」の日本語曲名でお馴染みの「カム・レイン・オア・カム・シャイン」は、数多くのアメリカン・スタンダード・ナンバーを残した名作曲家のソングブック『イザベラ・シングス・ハロルド・アーレン』(2015年)収録曲。トリオ+セイコージャズキャンパーズのセクステットがイントロを奏で、テーマでも引き続きイザベラをバックアップする。1番の歌唱が終わったところで、佐々木のアルト・ソロをフィーチャー。2022昨年のSeiko Summer Jazz Campで特別賞を受賞した佐々木は、その後、テレビ番組で取り上げられて話題を呼び、今春高校を卒業したばかり。この大舞台でも堂々たるソロイストを務めた。その間、トランペットとトロンボーンは控えに回らず、バッキングでバンド・サウンドに貢献した。
再び『ヒット・ザ・ロード・トゥ・ドリームランド』から、イザベラが37年のブロードウェイ・ミュージカル曲「ホエア・オア・ホエン」を選んだのは、同作の39年の映画化版でジュディ・ガーランドが歌ったことと無関係ではないだろう。ここでもセクステットのイントロで始まり、スローテンポで進む歌詞は、「♪自分がしたことは自分に返ってくる/まるで道を知っているかのように」という哲学的な内容。イザベラはニュー・スクールで学んだ後、ストックホルムの大学で司祭を目指して神学を専攻した経歴を持っていて、この楽曲世界に共感を寄せているのかもしれない。間奏では枝次がミュート・トランペットでソロをとり、アルトサックスとトランペットがバックをつけて、この3人では初めてとなるホーン・セクションの好ましい関係を印象付けた。曲が終わったところで、イザベラが枝次を「Young talented Japanese(才能あふれる若き日本人プレーヤー)」と讃える。
『ルック・フォー・ザ・シルヴァー・ライニング』からの選曲である「シンギン・イン・ザ・レイン(放題:雨に唄えば)」は、52年の同名ミュージカル映画で、主演のジーン・ケリーが土砂降りの雨の中でタップダンスを踊りながら歌うシーンが、映画史に残る名演として知られている。イザベラは映画の説明をしてから歌唱に臨んだのだが、アルバム・バージョンはトリオ+弦楽四重奏だったので、当夜は新鮮な気持ちで取り組めたのではないだろうか。間奏のソロを任された春木は、中学時代にトロンボーンとビッグ・バンドに出会っていて、この夜のような3管編成でも自然に吹きこなすスキルを証明した。
以上3曲でセイコージャズキャンパーズは退出。最終曲となった「サムウェア・オーバー・ザ・レインボー(放題:虹の彼方に)」も『イザベラ・シングス・ハロルド・アーレン』からの選曲で、39年のミュージカル映画『オズの魔法使い』で当時16歳のジュディ・ガーランドが歌った。ボーカル&ピアノ・デュオのヴァースから、トリオ合奏のテーマに進み、オリジナル・メロディに変化を加えて個性を表現。やはりエンディングでは歌詞を長く伸ばして、自身の定番レパートリーを自分のものとした。
ピアノ+ベース+ドラムのトリオをレギュラー・バンドとしているイザベラにとって、当夜の編成はイレギュラーであり、現地の若いエネルギーを得たセッティングが日本で実現したことに価値と意義があることは言うまでもない。またセイコージャズキャンパーズの3人にとっても、初共演となる著名なスウェーデンの歌姫をサポートしたことは、今後の成長の糧になったことだろう。観客にとって一期一会のステージだったばかりでなく、ミュージシャンのイザベラとセイコージャズキャンパーズにとっても大きな収穫となったイベントであった。
- ・■Set List
・Smile
・It's a Good Day
・Come rain or come shine (with SeikoJazzCampers)
・Where or When(with SeikoJazzCampers)
・Singing in the rain(with SeikoJazzCampers)
・Somewhere over the rainbow
■Personnel
イザベラ・ラングレン&Her Trio[イザベラ・ラングレン(Vo)、カール・バッゲ(Pf)、ダニエル・フレデリクソン(Dr)、ニクラス・ファーンクヴィスト(B)]
セイコージャズキャンパーズ[佐々木梨子(As)、枝次竜明(Tp)、春木香菜絵(Tb)]
佐々木梨子(ささき りこ)アルトサックス
2004年、北海道札幌市生まれ。Seiko Summer Jazz Camp 2022に参加し特別賞受賞。
同年10月には自身を特集したNHKの番組が放送され、反響を呼んだほか、12月の「“Starry Night Concert” vol.27」では日野皓正、大林武司と共演。
枝次竜明(えだつぎ りゅうめい)トランペット
2000年 大分市生まれ。Seiko Summer Jazz Camp 2017に参加。2022年5月「“Starry Night Concert” SPECIAL STAGE」に出演し、大林武司と共演。
春木香菜絵(はるき かなえ)トロンボーン
横浜生まれ。Seiko Summer Jazz Camp 2022に参加し、YAMAHA賞を受賞。