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Interview
ピアノ講師、大林武司と卒業生3名がキャンプを振り返ったクロストーク
Seiko Summer Jazz Campのピアノ講師、大林武司と卒業生3名のクロストーク
- 2021/03/19
- 2024/07/12
Profile
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大林武司(オオバヤシ・タケシ)
大林武司(オオバヤシ・タケシ)
1987年、広島県生まれ。2007年に米ボストンのバークリー音楽大学に入学。在学中より本格的に演奏活動を開始。第1回Seiko Summer Jazz Camp 2016から講師を務める。
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海堀 弘太(カイホリ コウタ)
海堀 弘太(カイホリ コウタ)
京都府出身の27歳。ピアノ講師の親の影響を受け、5歳からピアノを始める。John ColtraneのBlueTrainをきっかけでジャズに傾倒し、現在は石若駿の率いるAnswer to Rememberや佐瀬悠輔クインテットなどに参加しながら、東京神奈川を中心にライブ活動を行っている。
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及川 陽菜 (オイカワヒナ )
及川 陽菜 (オイカワヒナ )
埼玉県出身の22歳。中学生の時に吹奏楽部の仮入部でサックスに出会い一目惚れ。Art Blakey and Jazz Messengersを聴いて感動し、ジャズ研のある高校に入学してジャズを始め、現在は都内を中心に演奏活動中。
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濱田 省吾(ハマダ ショウゴ)
濱田 省吾(ハマダ ショウゴ)
山口県出身の26歳。小学生の頃に、ドラムセットを貰ってきた父親と、ベンチャーズのコピーバンドを始めたのがきっかけでドラムを始める。現在は都内を中心に井上陽介トリオ、池田篤カルテット、中島朱葉カルテットとして活動。2021年3月3日池田篤カルテット「Free Bird」発売予定。
楽器演奏、そしてジャズとの出会い
2016年の第1回Seiko Summer Jazz Camp(以下SSJC)から講師を務めるピアニストの大林武司と、卒業生3名によるクロストークが開催された。講師陣では特別顧問の守屋純子と並ぶ日本人指導者ということもあって、受講者にとって大林はより親しみが湧く存在だと思われる。まずは卒業生に、ジャズを始めようと思ったきっかけについてうかがった。
- 海堀中学校の吹奏楽部でトランペットを演奏していた時に、ピアノの先生からジョン・コルトレーン(ts)の『ブルー・トレイン』(1957年)を借りて、そこからジャズをよく聴くようになりましたね。管楽器が入ったジャズが好きでした。
- 及川中学校の吹奏楽部でアルトサックスを始めました。ずっと吹奏楽だったけれど、もっと自由に演奏したいと思って、近くの高校のジャズ研を目当てに入学。その時はまだジャズがよくわかっていませんでしたが、色々聴いているうちにアート・ブレイキー(ds)&ジャズ・メッセンジャーズ『モーニン』(58年)の“アー・ユー・リアル”が聴いたことがないタイプの曲だと思って、繰り返し聴いていました。ジャズの熱いグルーヴに惹かれて、そこからジャズにハマりましたね。自分が吹くアルトサックスのアイドルはソニー・スティットです。
- 濱田音響の仕事をしていた親に連れられて、地元のビッグ・バンドを観に行った時、ドラマーにブラシをもらったのが、ドラムを始めたきっかけです。小学校の時にベンチャーズのコピー・バンドで演奏していました。その後、親の影響でジャズを聴き始めて、オスカー・ピーターソン(p)・トリオをよく聴いていました。
ジャズキャンプ参加へのモチベーション
卒業生3人に共通するのは、元々楽器を演奏していて、その後ジャズとの出会いがあり、リスナーからプレイヤーへと成長したキャリアだ。そして同じように演奏活動を行う人間関係が広がる中で、SSJCと出会うことになる。
- 海堀以前から知り合いだった大林さんに声をかけていただきました。ニュー・センチュリー・ジャズ・クインテット(以下NCJQ)のファンでもあったので、楽しそうだと思ったのが応募したきっかけです。
- 及川私はキャンプのレポートを読んだり、NCJQのCDを聴いて、知ってはいましたけれど、予定が合わなくて、やっと3回目で応募できました。友人たちが参加していて、とても楽しそうだったので。
- 濱田ユリシス・オーウェンズJr.(ds)を神のように崇拝していた頃、高田馬場のお店で大林さんと初めて会って、NCJQが始動することを聞きました。SSJCには参加しようと思っていたのですが、気後れしてしまい、ずっと参加できないままでした。2018年がぼくの年齢制限の最後の年だったので、応募しました。もっと早くトライすれば良かったと、今も後悔しています。
音楽に対して真摯で熱心で、キャンプ後も情熱を持って活動
このクロストークに参加した3名は、大林の指名によるもの。人選理由について大林は、「3人とも音楽に対して真摯で熱心で、キャンプ後も情熱を持って活動している印象があります。これから留学する及川さん、フルタイムのプロの濱田君、別の仕事をしながらいい音楽を発信し続ける海堀君。異なるステージにいる3人が集まると面白いのではないかと思いました」
- 海堀SSJCに参加した2016年はまだ大学生でした。2017年の浅草ジャズコンテストに出演し、都内でライヴ活動。大学院を卒業後、日中は会社に勤務し、夜はサックスが入ったリーダー・バンドとセッション・バンドでライヴ活動を続けています。
- 及川SSJCを受講してアメリカで勉強したい気持ちが強くなって、留学を決意し、準備をしてきました。2020年3月に大学を卒業。SSJCでお世話になった講師のディエゴ・リヴェラ(as)に推薦状を書いていただいて、9月からニューヨーク市立大学クイーンズカレッジに入学する予定でした。でもコロナ禍で行けなくなり、渡米は1年間延期して、今は都内を中心に演奏活動中です。
- 濱田井上陽介(b)トリオ、池田篤(as)カルテット、中島朱葉(as)カルテットのレギュラーで、石田衛(p)、伊藤勇司(b)とのリーダー・トリオでも活動中。明海大学ジャズ部講師も務めています。
3人が体験したジャズキャンプとその魅力
クロストークが進むにつれて、当時高校2年生の及川と国立音楽大学の濱田が、SSJC受講前からの知り合いで、及川に対して海堀は「セッションに登場する女子高生」として認識していたことが明らかに。それぞれが参加した年のSSJCの様子や魅力について、大林も交えて紹介してもらった。
- 海堀ぼくが参加した2016年度は第1回ということで、未知の状態でしたが、基本的には和気あいあいとした雰囲気。ぼくみたいに活動中の人もいれば、経験が長くないジャズ研の人もいて、でも分け隔てなく楽しそうだったのが印象的です。まだ20代前半の地方からの受講者や、当時高校生で、その後上京した人と知り合えたのが収穫です。去年久しぶりに会った人もいて、出会いの場としても魅力だと思います。
- 大林講師の立場で言うと、第1回で、まだ認知されていないキャンプだったので、ジャズ・キャリアとレベルが違う受講者をどのようにまとめていけばいいのか、考えました。海堀君はただいい演奏をするだけではなくて、かっこいい自作曲を持ってきてくれて、キャンプの最後の演奏会でもいい雰囲気を作ってくれました。
- 濱田2018年の受講者は知り合いが多かったです。受講者が5つのアンサンブル・グループに分かれて、最後に発表会をする形でした。及川さんとぼくは同じグループで、大林さんが担当講師。一つの曲を連日いっしょに考えて、アイデアを出しながら毎日違う演奏になって、最後にまとまるという、同じ世代の人間がそのようなやり方で一つの曲を仕上げる経験はそれまでにはありませんでした。毎日クリエイティヴに向上できた点が収穫。関西のベーシストと初めて共演できたのも良かったです。
- 及川私もそのように1曲を仕上げる経験はなかったです。ちなみに私には最初から濱田さんはプロとして活動されている方という認識でした。音楽大学時代は他のジャズ研の人と知り合う機会はなかったのですが、SSJCでは色々な方との出会いがありました。地方から来た若い方といっしょに演奏して、お互いを高めていく機会もあって、すごく新鮮でした。
講師と受講者のコミュニケーションと印象的な出来事
- 海堀ユリシスは受講者全員に積極的に話しかけていました。ぼくは一部直接でやり取りしました。通訳の方がいらしたので、難しい部分はお願いできました。ユリシスが言った“お互いの顔を見ろ”が印象的です。表情でコミュニケーションを取ることが多いので、目線のサインを見逃さないために顔を上げるようにと言われました。
- 及川私はディエゴと接する時間が長くて、英語が話せなかったのですが、とても話しかけられました。私が片言の英語でも、すごく優しく返してくれたのですが、やはり英会話の勉強をしなければと、痛感しました。またSSJCを体験後は、ライヴで自分が演奏しないパートでも、自分がバンド・メンバーであることを意識しています。アイコンタクトもするようにしていますね。
- 濱田クインシー・デイヴィス(ds)のレッスンはとても楽しくて、日本語でレッスンしてくれました。細かいところまで学べて良かったです。そこで学んだことを教訓として、飽きが来ない、メンバーの良さを引き出せる演奏を心掛けています。
- 大林バンドのメンバーには調子のいい人も悪い人もいるかもしれない。そんな時でも表情のやり取りで、失敗を成功に変えることができるものです。即興的な演奏だからこそ、マイナスをプラスに、プラスをさらにプラスに変えるチャンスを見逃さずに、いい結果を出せば、バンドの結束力を深めることができます。
ジャズキャンプ参加希望者へのメッセージ
4人によるクローストークの話題が弾んだところで、最後にSSJCがさらに発展するためのアイデアと、参加希望者へのメッセージを語ってもらった。
- 海堀卒業生のピックアップ・バンドによるコンサートがあればいいと思います。《セイコー・ジャズ・フェスティバル》のようなイベントが毎年できれば楽しいでしょうね。SSJCの参加希望者には、ジャズが好きなのであれば、受講できるまで何度でも挑戦してほしいです。楽しいことは保証されていますので。
- 及川私を含めて海外に行く卒業生が現地でもSSJCとの繋がりを感じられるイベントがあると、いいと思います。ジャズの技術だけではなく、音楽をやる意識もSSJCで学べたので、若いミュージシャンにとっては確実にターニング・ポイントになでしょう。参加しない手はないと思います。
- 濱田講師陣のライヴをもっと聴きたいですね。一流の講師の演奏と話を生で聞くと、音楽が楽しいことを思い出せるし、色々な視点が変わるもの。それは他では得難いものです。
最後に…
「卒業生には、その後プロになったかどうかに関わらず、キャンプで学んだわくわくするような気持ちを大切にして、共演者やリスナーと共有してもらえれば」
と、大林が締め括ってくれた。