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【後編】日本にいながらジャズ留学?生きたジャズに触れるサマーキャンプをレポート

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【後編】日本にいながらジャズ留学?生きたジャズに触れるサマーキャンプをレポート

魂が揺さぶられるような濃密な4日間を、2人の参加者にフォーカスしてレポート

8月12日から4日間の日程で開催されたSeiko Summer Jazz Camp(SSJC)のレポート後編は、受講者同士の距離感も縮まった3日目と最終日の様子にフォーカス。

座学で行われた作曲&編曲のカリキュラムと、最終日に受講者全員が臨んだガラコンサートの様子を中心にレポートする。
スモールアンサンブルのクラスごとの発表に続いてビッグバンドによる演奏、表彰式、そして講師陣による圧巻のステージと今年もホール・プログラムは盛りだくさん!

果たしてジャズの女神は誰に微笑んだのか?魂が揺さぶられるような4日間の集大成は、笑顔にあふれていた。

前編はこちら

【前編】日本にいながらジャズ留学?生きたジャズに触れるサマーキャンプをレポート(別窓で開く)

同じ船に乗る仲間に思いやりの心を

4日間の集中講座が折り返し地点となる3日目。受講者の表情に疲労感は出てきたもの、集中力は増すタイミングで組み込まれているのが、作曲&編曲のカリキュラムだ。

事前に応募された15作品の中から優れた4曲が選ばれ、構成から譜面の書き方に至るまで一つずつ丁寧に講評。百戦錬磨の講師陣がその場で演奏して、さらに良くするためのディスカッションを重ねるという贅沢な内容だ。トロンボーン専攻の治田さんは、メロディの美しさが際立つスルーテンポの「Sailor」でエントリー。「他のテンポでも演奏したいと掻き立てられるのは、良い楽曲という証。メロディがスタイルに合っていて、すぐに雰囲気を乗せることができる」と高い評価を獲得した。

編曲部門での応募者はいなかったため、アレンジャーとしても活躍するサックスのディエゴが、自身が手がけたジョン・コルトレーンの「Giant Steps」を取り上げ、どこからアイデアを持ってきてどう使ったのか編曲の手法を解説。ドラムソロから始めるアレンジは、ジョン・コルトレーンの別の楽曲からインスパイアされたという。対象となる楽曲・アーティストへの理解を深めること、自分の演奏楽器やジャズ以外の音楽も聴くことの重要性、そして、アンテナを広げてさまざまなところからアイデアを得られるようにとアドバイスが続く。

「楽曲の主題を生かしたままさまざまなアイデアを取り入れるには、感情的な動機を持っていることが大切。それは時に知識やセオリー以上の効果をもたらす」とディエゴ。その言葉通り、ディエゴ編曲の「Giant Steps」は、新たな息吹を与えられながらコルトレーンの想いがより強く浮かびあがってくるかのようだ。
アイデアの軌跡をたどることで、世界トップレベルのミュージシャンがいかにオールマイティーな能力を備えているか思い知らされた。

そして迎えた最終日。午前中のリハーサルを経て、4日間の集大成というべきガラコンサートの開幕だ。
この時間から一般の入場も可能となり、会場に家族や知り合いの姿を見つけた受講者から笑顔がこぼれる。
5つのアンサンブル・クラスには、それぞれジャズの巨匠の名前が付けられ、担当講師から寸評が述べられてから演奏がスタート。
つい数日前に出会ったとは思えない一体感で、それぞれのクラスの個性が光る発表が続く。

初日は緊張していたピアノの名倉さんも、「人としての個性を大事にし、それが音楽を作り上げていくという先生達の考えが、自分を肯定し、背中を押してくれた。技術よりも精神面で成長したところが大きかったように思う。とにかく楽しみます!」と笑顔でステージに向かい、スウィングした演奏で観客を魅了。

トロンボーンの治田さんに至っては、さすがにステージ慣れした様子で情感溢れる伸びやかな演奏を披露。
選曲リストは以下の通り。

Philly Joe Jones Ensemble: M1, Summer time M2, Broadway
Curtis Fuller Ensemble: M1, It could happen to you M2, Good n’ Terrible
Freddie Hubbard Ensemble: M1, Cute M2, Nutville
Wayne Shorter Ensemble: M1, Yesterdays M2, Black Coffee
Wes Montgomery Ensemble: M1, Skylark M2, Lady Bird

ジャズの歴史を辿るような名曲のオンパレードは聴き応え十分で、会場全体に一体感が生まれた。
心から演奏を楽しむ受講者たちの姿を見て、講師陣もまるで自分のことのように嬉しそうだ。
音楽には言葉や世代を超える強い力があるのだ。

アンサンブル・クラスの成果を披露する5グループ各2曲の計10曲が終了すると、受講生全員がステージに上がってスペシャル・ビッグバンドによるステージへ。

ここでも治田さんはデューク・エリントンの「In A Mellow Tone」でソロパートを担当し、会場を沸かす。パート毎に講師陣もゲスト参加する形で「Tumbleweed 」「But Not For Me」等の高度に編曲された往年の名曲が演奏されると会場の盛り上がりは最高潮に。
「ほとんどの曲が数回しか合わせられていないにもかかわらず、素晴らしい演奏を披露してくれた」と指揮を務める守屋先生も驚きを隠せない様子だ。

左から
Best Improved Student Award(優秀賞):佐藤肖一朗さん(テナーサックス)
Special Recognition Award(特別賞):窪みさとさん(トランペット)
Best Improved Student Award(優秀賞):アイ・ヤンさん(ヴォーカル)
セイコーホールディングス株式会社 常務取締役 金川宏美
Most Outstanding Student Award(最優秀賞)治田七海さん(トロンボーン)
Best Arrange & Composition Award(優秀作・編曲賞):眞﨑康尚さん(ピアノ)
Spirit of Jazz Award(スピリット・オブ・ジャズ賞):高橋理沙さん(ベース)
Best Improved Student Award(優秀賞):谷澤友和さん(ギター)

約2時間のガラコンサートはあっという間に過ぎ、会場の熱気が高まったまま授賞式へ。
優秀賞、作曲賞、特別賞に加え、今年からジャズに対する溢れる気概が特別に熱いプレイヤー「Spirit of Jazz」賞が創設され、名前を呼ばれた受講者が次々と壇上に上がり、共に喜びをかみしめ合う。

そして最優秀賞に治田七海さんの名前が呼ばれると、会場からは一際大きな拍手が沸き起こる。
トロフィーや時計の他、副賞として、2020年6月にアメリカのノースカロライナ州Brevard で行われる「Jazz Institute at Brevard Music Center」に参加する権利が授与。
「札幌ではずっと一人で練習していたので、同世代の才能溢れる仲間に出会えて、とても刺激を受けた。この経験で音楽への向き合い方も変わりそう」と笑顔を見せる。

指導したマイケル先生は、「七海はすでに高い技術と音楽性を備えていたが、この数日でよりクリアで現在のジャズのサウンドを鳴らせるようになってきた。これからのジャズ・トロンボーン界を引っ張っていける可能性を秘めているので、ぜひ技術を磨ける場所で学びを続けて欲しい」とコメント。

横で頷いていた大林先生も「日本人がまだやったことのない領域にチャレンジして欲しい。そのためにもジャズの本場アメリカで学んで欲しい」と期待を寄せる。

そしてラストを飾るのは、講師陣によるスペシャル・ライブ。選ばれたのは哀愁溢れるジャズのスタンダード「Bye Bye Blackbird」と去年マイケルが作ったセイコー賛歌「Seiko Time」の2曲。
「今年のテーマの通り、演奏する前に歌ってみよう」というベニー先生の発案の元、百戦錬磨のミュージシャン達が歌い、演奏し、会場中がスウィングする。

ジャズを愛する者は、同じ船に乗る仲間同士。
互いを思いやりながら演奏することで、音楽性はもちろん人間性も高められる。
もし少しでも気になるのなら、ぜひ来年チャレンジして欲しい。
ジャズ漬けの4日間には、人生を変える力が宿っているのだから。

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