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Interview
ベーシスト・高橋里沙が歌うように演奏することを大切にする理由
2019年参加者 / ベース 高橋里沙
- 2022/03/04
- 2024/09/30
Profile
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高橋里沙 (たかはし・りさ)
高橋里沙 (たかはし・りさ)
1997年、北海道江別市出身。3歳からピアノを演奏。小学6年生の時に札幌ジュニアジャズスクールでベースを始め、熊谷望氏、秋田祐二氏に師事。2010年、同スクールの中国遠征で、上海万博や北京での演奏に参加し、2012年、札幌市内で演奏活動を始める。
2013年ノルウェー《Oslo Jazz Festival》に、2014年《Sweden Youth Jazz Festival》に出演。2015年に北海道グルーブキャンプでHokkaido Groove Camp賞を、2017年に同キャンプで Berklee Awardを受賞。2018年、「本多俊之"DINOSAX"コンサートfeaturing トルヴェール・クヮルテット&ピアノ」に出演。米バークリー音楽大学の「5-week Summer Performance Program」に全額免除の特待生として参加。現地でオーディションを受け、バークリー音楽大学の特待生に選ばれる。
2019年、Seiko Summer Jazz Campに参加し、Spirit of Jazz賞受賞。2020年、大学卒業後、関東に活動拠点を移す。
自身の進路を決定づけたジャズスクールでの経験
2019年のSeiko Summer Jazz Camp(以下SSJC)に参加した高橋里沙は、数多くのジャズ・ミュージシャンを輩出していることでも知られる北海道の出身者。幼い頃から音楽に親しむ環境で育ち、ジャズとの出会いも早かった。そんな彼女にまずは少女時代の音楽との関わりから語ってもらった。
「北海道江別市出身です。3歳からピアノを始めました。5歳まで通ったグループ・レッスンには、同じ幼稚園の友達もいて、エレクトーンも弾きましたね。5歳で北海道の別の街に引っ越して、ピアノの個人レッスンを受け始め、小学5年生までクラシックを習っていました。当時、将来の夢はピアノの先生になることでした。
ジャズは家族の影響で小さい頃から聴いていました。祖母と母がジャズ好きで、母は車の中でジャズを流していたので、自然と耳に入る環境だったのは大きいと思います。幼稚園から母といっしょにジャズ・フェスを観に行っていたので、CDだけでなくライヴでもジャズの魅力を体感していました。
私が5年生の時に弟が札幌ジュニアジャズスクールに参加していて、1年間演奏会を見に行っていました。その時に見たエレキベースのお兄さんがカッコよくて、その年のクリスマス・プレゼントにサンタさんにベースを頼んだら、本当にもらえたのです。ジャズスクールが楽しそうだったので自分も参加しようと思ったのが、ジャズ演奏を始めるきっかけでした。
1年間の活動は練習、ライヴ、合宿、遠征があって、中でも思い出深いのが7月に札幌のジャズ祭に出演した渡辺貞夫さんのコンサートの前座として、ビッグ・バンドで演奏したこと。私のジャズ人生で初めての大きな演奏経験となりました」。
中国と欧州の遠征で海外のミュージシャンと共演した中高生時代
6年生の1年間を札幌ジュニアジャズスクールの小学生クラスで過ごした高橋は、中学1年生になってジャズスクールの中学生クラスを受講。
「中学1年のジャズスクール在学中に中国遠征があって、上海万博と北京での演奏に参加しました。この時が私にとって初めての海外での演奏です。上海万博“北海道の日”に3日間出演。北京では日本人学校とライヴハウスで2回演奏。観客は中国人や現地在住の日本人が多く、手拍子が起きたり、笑ってくれたりと、楽しんでいただけました。
2012年に師匠がセッティングしてくれたトリオで、初めて札幌市内のジャズクラブに出演。これをきっかけにこのトリオはその後数年間、サッポロ・シティ・ジャズのパーク・ジャズ・ライヴに出演しています。
2年連続で北欧のジャズフェスに参加したのは、貴重な体験になりました。日本の学生を招いた交流が始まり、私は2013年に地元の女子学生とコンボを組んで《オスロ・ジャズ・フェスティバル》に参加。スタンダード・ナンバーに加えて、ノルウェーの曲をノルウェー人、ウクライナ人、オーストリア人らと共演。当時英語は苦手だったけれど、音楽という世界共通言語で初めて通じ合えた経験でした。
2014年にはストックホルムに渡って《スウェーデン・ユース・ジャズ・フェスティバル》に参加。この時はもう一人の日本人女性と二人で行って、現地で別の国の人と共演しました。日本語が通じない場所で現地のプレイヤーと1週間過ごしたことで、性格が積極的、前向きになれたことが最大の収穫だったと思います。ノルウェーでライヴを見て印象的だったハンナ・ポールスバーグ(sax)のCDをいただいて、帰国後によく聴きながら北欧ジャズにも興味を持ちました」。
北海道の大学在学中に米バークリー音大の夏季プログラムに参加
高橋は2016年に北海学園大学人文学部英米文化学科に入学。音楽大学を選ばなかったのは、海外に興味を持っていたことを掘り下げると同時に、来る日のために英語のスキルを磨くことにあった。またアメリカ・ボストンの名門バークリー音楽大学と繋がったのも、大きな勲章と言える。
「高校3年の2015年に北海道グルーブキャンプでHokkaido Groove Camp賞を受賞して、海外で学ぶことを真剣に考え始めました。2017年に同キャンプのBerklee Awardを受賞し、その副賞を使って翌2018年にバークリーの『5-week Summer Performance Program』に参加。海外で1ヵ月以上、音楽を学ぶのは初めてで、毎日がとても充実していて、アメリカと日本の音楽に対する取り組み方や考え方が違うと感じて面白かった。非常に大きな経験でした。
大学の4年間は、ジャズ研究会に所属。それ以外に自分のトリオでジャズやスタンダード・ナンバーを演奏したり、ジャズ以外のバンドでも頻繁にライヴを行いました。サックスとギターが入ったフュージョン・バンドでサッポロ・シティ・ジャズのパーク・ジャズ・ライブに出演して、ジャコ・パストリアスやマーカス・ミラーの曲もカバーしています。また札幌の社会人ビッグ・バンド、マーサー・ハッシー楽団に数名の学生の一人として所属。参加した第1作『Sir Duke』(2020年)と第2作『Don't Stop The Carnival』(2021年)は、全米と北米チャートにランクインしました」。
高橋のメイン楽器はエレクトリックベースで、それというのも中学生時代にウッドベースを学んだものの腱鞘炎が悪化したためにウッドをやめたという事情があったから。大学時代になって再びウッドも演奏できるようになり、ベーシストとしての表現範囲が広がったのは幸いだった。
ジャズ・キャリアの転機となった2019年のSSJC参加
2019年のSSJCは講師達からの提案で、『If You Can Sing It, You Can Play It』をスローガンに掲げて行われた。「ジャズに対する熱いスピリットとあふれる気概を表彰する」という趣旨のSpirit of Jazz賞(1名)は、まさに高橋のために新設された顕彰だといっても過言ではない。
「SSJCはすでに参加していた関東や関西の友人が教えてくれました。2018年の米国滞在中、《ニューポート・ジャズ祭》を観に行った時にSSJC講師の大林武司(p)さんにお会いして、大林さんからも参加を勧められました。受講料が無料だったことは大きくて、参加してわかったのは学生と講師の方との距離が近かったことです。
ベース講師の中村恭士さんに指導されたベースのパート・レッスンを含めたキャンプ全体を通して教えていただいた中では、 “歌うことが大切”だということが一番印象的でした。自分の中では、歌えていることと演奏することは繋がっているので、演奏する時に歌うように演奏することを意識して、4日間を過ごしました。キャンプの参加以前から歌うことを意識してベースを弾いていたけれど、歌い方の強弱などの点が改善されて、さらに心の中や口で歌うようになりました。
キャンプ中は積極的に挑戦することに力を入れて、講師の方に話しかけたり質問するように心掛けたのは、自分が成長した部分だと思います。Spirit Of Jazz賞をいただけたのは、何事も積極的な姿勢で4日間を過ごし、ジャズに対する熱意が評価されたからだと受け止めています」。
尊敬するベーシスト、そして今後目指したいベーシスト像
2020年春に大学を卒業した高橋は、ほどなく関東に活動拠点を移す。
「大学時代に、東京の音大に進学したかったけれどできませんでした。卒業したら北海道を出ることは在学中に決めていて、音楽活動に限らず、自分の人生のために関東に引っ越しました。こちらに知っているお店や知り合いがいたわけではなかったので、セッションやライヴに顔を出して、一から少しずつ進めています。コロナ禍のため、思うような活動は難しい状況ですが、セッションホストやライブをやっています。
影響を受けたアコースティック・ベーシストはレイ・ブラウンで、太くて力強い低音に惹かれました。一番好きなアルバムは『レッド・ホット・レイ・ブラウン・トリオ』(85年)。
将来は国内だけではなく海外でも思いっきり演奏活動をしていきたい。ベーシストとしてはどこにもいない女性エレキベーシストになりたくて、ジャズだけではなく、色々なジャンルに挑戦して幅を広げていきたいと思っています。エスペランサ・スポルディング(b,el-b,vo)のスタイルに憧れていて、歌いながらアコーステイックとエレキベースを弾く彼女を目標にしています。今、私も歌を歌いながらベースを弾く練習をしているところなんです」。