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Seiko Summer Jazz Camp 2024 All Star  白熱したJAPAN TOURの千秋楽公演をレポート

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Seiko Summer Jazz Camp 2024 All Star 白熱したJAPAN TOURの千秋楽公演をレポート

2024年8月25日『SAPPORO CITY JAZZ 2024 North JAM “Picnic” Session』

  • 2024/10/04
  • 2024/10/22

2024年8月12日から15日(台風の影響で1日短縮)まで東京の文京区にある尚美ミュージックカレッジ専門学校で開催されたSeiko Summer Jazz Camp2024。40名の生徒さんを熱心に指導し、フィナーレのガラコンサートを大成功に導いた講師である一流ジャズ・ミュージシャンたちは、勢いそのままに全国ツアーをスタートさせました。初日の18日(日)は<ヤマハ銀座スタジオ>、翌日は<Billboard Live OSAKA>、続いて20日(火)は名古屋の老舗ジャズ・ライブ・バー<STAR★EYES>、22日(木)の<南足柄市文化会館 小ホール>を経て23日(金)の<ふくやま芸術文化ホール(リーデンローズ)小ホール>と続きます。そして、25日(日)は<札幌芸術の森 野外ステージ>で行なわれた『SAPPORO CITY JAZZ 2024 North JAM “Picnic” Session』の大トリを飾るというスケジュール。ここではツアーの最終日、青空の下で熱いプレイが繰り広げられた千秋楽の模様を振り返ります。

ツアーを締め括った『North JAM “Picnic” Session』

都市型ジャズ・フェスティバルとして2007年にスタートした<SAPPORO CITY JAZZ>の夏のメイン・イベント『North JAM “Picnic” Session』が開催された8月25日(日)はお天気にも恵まれ、まさにフェス日和。湿度も低く、北海道の爽やかな空気が心地良い<札幌芸術の森 野外ステージ>の鑑賞エリアでは幅広い層のオーディエンスが芝生の上で寛ぎながらライブを楽しんでいました。飲食店ブースで買い求めたドリンク&フードを手にしながら生のジャズ演奏を楽しめる最高のシチュエーション。12時に開場し、<札幌ジュニアジャズスクール>のオープニングアクトでフェスのエンジンがかかります。実は、Seiko Summer Jazz Camp2024の講師であるAll Starのミュージシャンたちは、同場所で前日に行なわれた<わくわく音楽教室>と題したイベントで<札幌ジュニアジャズスクール>のメンバーにジャズの指導を行なっていました。この模様は『Seiko Sustainable Story』でご紹介していますので、是非ご覧ください。

セイコーサステナブルストーリー『わくわく音楽教室』記事はこちら

さて、『North JAM “Picnic” Session』の本編は地元のプロ・ミュージシャンによるビッグバンド<札幌ジャズアンビシャス>の演奏でスタート。その後は、アルト・サックス奏者の松原慎之介率いるカルテット、北海道出身のトランぺッター、佐瀬悠輔がリーダーの『#1』フィーチャリング小金丸慧、海堀弘太、古木佳祐 & 秋元修によるライブが順に披露され、気が付けば、時計の針は夕方5時を指していました。Seiko Summer Jazz Camp 2024 All Starのライブが開始する時間です。

北の大地に鳴り響いた極上プレイ

まずは、リーダーのマイケル・ディーズ (Tb)が舞台に登場し、メンバー紹介。ディエゴ・リヴェラ (Ts)、ベニー・べナックⅢ (Tp、Vo)、ヨタム・シルバースタイン(Gt)、中村泰士 (B)、クインシー・デイヴィス (Dr)の面々が各楽器のポジションに付き、準備が整ったところでいきなり、クインシーが豪快にドラムを叩き始めます。そのパワーをヒートアップさせるかのような3管のアンサンブルが北の大地に炸裂。マイケル、ディエゴ、ベニー、ヨタムのソロを受け、再び、ドラム・ソロ。見事なまでに観客の心を一気に掴んだオープニング曲はクインシーが2020年に発表したセカンド・アルバム『Q Vision』に収録されている自作の『Blues Unconscious』でした。

セッションの様子
クインシー・デイヴィスさん

2曲目の「Indigenous」はテナーマンのディエゴが書いたナンバーで2021年にリリースしたアルバムのタイトル・チューン。ハード・バップ色の強い楽曲を逞しい音色でグイグイと引っ張っていくディエゴ。各メンバーもメロディを軸にしたアドリブで自身の個性を存分に光らせています。特に印象的だったのが中村のソロ・パフォーマンスでした。彼が力強くウッドベースを鳴らしている間、メンバー全員が動きを凝視。共演者にもインパクトを与えていた中村作の「Yasugaloo」が次の3曲目で、この作品は彼もメンバーの一員だった日米混合ジャズ・バンド、ニュー・センチュリー・クインテットのアルバム『Time Is Now』(2014年発売)及び、中村のリーダー作『A LIFETIME TREASURE』(2016年発売)に収録されている彼のオリジナル曲です。ここでは、中村を軸にディエゴ、ヨタム、クインシーの4人による自由度の高い刺激的なアプローチと強烈な波動が会場を震わせていました。

ディエゴ・リヴェラさん
中村泰士さん

それまでの雰囲気をガラリと変えたのはベニーのヴォーカルとトランペットをフィーチャ―した「The Sweetest Sounds」です。リチャード・ロジャースが作詞と作曲を手掛け、多くの音楽家が取り上げているこの曲を彼は情感を込め、しっとりと歌い奏でます。実は7月にアメリカの老舗ジャズ専門マガジン『ダウンビート』誌が発表した2024年度の批評家投票でベニーは<ライジング・スター男性ヴォーカリスト>の首位を獲得。<ライジング・スター・トランペット奏者>部門でも8位という好成績を残している彼は、今、まさに脂が乗った状態で、その表現力には説得力がありました。彼のパフォーマンスを支えるマイケル、ヨタム、中村、クインシーの繊細なプレイにも観客は盛大な拍手を送っていました。

トランペットを演奏するベニー・べナックⅢさん
ヴォーカルもこなすベニー・べナックⅢさん

Seiko Summer Jazz CampのOBも入り混じって大セッション!

ここで、『North JAM “Picnic” Session』の出演ミュージシャンが飛び入りで参加するという嬉しいハプニングが起こります。山口将大さんはSeiko Summer Jazz Camp 2023の優秀賞を受賞している地元出身のトランぺッター。松原慎之介さんは札幌ジュニアジャズスクールに5年間所属していた経歴をお持ちのアルト・サックス奏者で、今年1月にリーダー・アルバム『Ace High』をリリースしています。その松原さんのバンド・メンバー、布施音人さんはSeiko Summer Jazz Camp 2018で優秀賞(作曲・アレンジ部門)を受賞しているジャズ・ピアニスト。今年3月に発表したファースト・アルバム『Isolated』が話題を呼んでいます。この若手ミュージシャン3人が加わり、Seiko Summer Jazz Camp 2024 All Starのメンバーと共にプレイしたのはマイケル・ディーズが作曲した「Seiko Time」でした。ホットなソロでバトンを繋ぎ、時に掛け合い、煽り煽られ、観客の手拍子も演奏の一部となってステージと客席は完全に一体化。盛り上がりがクレッシェンドする中、マイケルが自慢の喉を鳴らし、ラストはメンバー全員で“Seiko Time!”とコール。笑顔のエンディングとなりました。

“Seiko Time!”とコールする一同

デューク・エリントンが書いた名曲「In A Mellow Tone」では、室蘭生まれ、千歳育ち、ジャズを中心に幅広いフィールドで大活躍中のトランペット奏者、 佐瀬悠輔さんと、その彼のバンドでピアノを弾いていたSeiko Summer Jazz Camp 2016の卒業生、海堀弘太さんがジョイン。ベニーの大胆なフェイクを織り交ぜた歌唱の後、佐瀬さんの潔いトランペット・ソロ、ディエゴ及びヨタムのメロディックなインプロビゼーション、オーセンティックな匂いも漂わせた海堀さんのピアノ・プレイが心を躍らせます。ベニーがご機嫌なスキャットをマイクの乗せると客席からは歓声が飛び、最後はマイケルも大熱唱!まさに“音”を“楽しむ”時間でした。

佐瀬悠輔さんとSeiko Summer Jazz Campの講師たち

トリオやデュオ演奏も織り交ぜ、聴き手を飽きさせない考え抜かれたラインナップ

続いては、ヨタムのギター弾き語りをメインにした中村とクインシーによるトリオ演奏でカラー・チェンジ。曲はアントニオ・カルロス・ジョビンが書いたボサノヴァを代表する「Triste」でした。元々、インスト用に書かれ、後にジョビン自身が歌詞を付けたナンバーで、ヨタムは語るように口ずさみ、ラストは「黒いオルフェ」のメロディを盛り込んだギターも聴かせるという構成。そのヨタムのシルキーなギター1本で、ホーギー・カーマイケルが残した名曲「Stardust」をベニーがバース部分からエモーショナルに歌い、途中、トランペットも演奏。デュオならではの温もりあるひと時を作り上げていました。

Congratulations!サプライズ演奏から出演者大集合!

ラスト曲は大林武司が作曲した「New Century」。彼はSeiko Summer Jazz Campの1回目から講師を務めている人気ピアニストで、もちろん、All Starのメンバーです。この日はスケジュールの都合で不参加でしたが、それでも彼の曲で締め括る流れはミュージシャン同士の強い絆を彷彿。マイケルが曲紹介をし、すぐに演奏が始まるかと思いきや、突然、ベニーが「ハッピーバースデー」を歌い出しまいました。なんと8月25日はSeiko Summer Jazz Camp 2024 All Starのリーダー、マイケル・ディーズの誕生日当日だったのです。メンバー全員のサプライズ演奏に彼も大喜び。トロンボーンの早いパッセージが嬉しさをダイレクトに伝えていました。

マイケル・ディーズさん

その流れで「New Century」に突入し、直球ジャズのシャワーを存分に浴びたオーディエンスは当然のようにアンコールを拍手でリクエスト。それに応えてマイケルがトロンボーンのスライド管をとてつもない速さで伸縮させ、音を細かく刻みながら自身のナンバー「Horsetrading」でメンバーを向かい入れます。天まで届きそうな強い音圧のソロ回しと疾走感溢れるサウンドに大喝采が木霊します。そしてまさかのダブル・アンコール!“モダン・ジャズの父”と呼ばれているアルト・サックス奏者のチャーリー・パーカーが書いた「Now’s the Time」が始まり、『North JAM “Picnic” Session』に出演したミュージシャンたちも楽器を持って飛び入り参加。一体、何人のミュージシャンが舞台に居たのか、もはやわかりません。入れ替わり立ち代わり、ソロが披露され、オーディエンスとのコール&レスポンスもあるなど、年齢や国境を超えたボーダレスな世界が生まれていました。ジャズという共通言語が人と人を瞬時に結ぶことができるとラスト演奏が伝えていたような気がします。『North JAM “Picnic” Session』は大トリのSeiko Summer Jazz Camp 2024 All Starを中心とした出演ミュージシャンの多幸感溢れるプレイで終幕。彼らの日本ツアーもパーフェクト・フィニッシュとなりました。

『North JAM “Picnic” Session』の様子

講師ミュージシャンの存在理由 全ては生徒が活躍するため

興奮冷めやらぬ終演直後、Seiko Summer Jazz Camp 2024 All Starのリーダーでトップ・トロンボーン奏者のマイケル・ディーズにツアーの感想を伺いました。
「全国各地を訪れ、旅の途中で目にした森や海の美しさに心奪われました。日本はとても美しい国ですね。そんな日本で最高の誕生日を迎えられて僕はラッキーです。特に今日は、数年前に指導した生徒たちとも共演し、彼らがミュージシャンとして大きく成長していることや、それぞれが新たなコミュニティを作りながら音楽を楽しんでいることがわかり、喜びが倍増しました。どの会場のお客さまも僕たちの音楽を熱心に聞いてくださり、プレイする時のエネルギーになりました。この場を借りてお礼申し上げます」
最後に来年、10回目となるSeiko Summer Jazz Camp 2025に向けて、マイケルはこんなメッセージを送ってくれました。
「僕をはじめ、Seiko Summer Jazz Campの講師ミュージシャンは、生徒が将来活躍するために存在しています。その生徒たちが羽ばたいてくれるから音楽は広がっていくのです。今や日本だけでなく、アメリカを含む世界各地で音楽活動しているSeiko Summer Jazz Campの卒業生を誇らしく感じています。そのうちのひとり、トロンボーン奏者の治田七海さんを今、ミシガン州立大学で教えていますが、全てはSeiko Summer Jazz Campというコミュニティがあったからこそのご縁です。新たなコミュニティとなるSeiko Summer Jazz Camp 2025でも素晴らしい次の出逢いがあると信じています」

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