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Report
Seiko Summer Jazz Camp 2024【前編】
講師陣と受講生の鼓動がスウィングした4日間
- 2024/09/18
- 2025/01/30
アメリカ・ニューヨークで活躍中の若手実力派ミュージシャンから直接、無料で指導を受けられるSeiko Summer Jazz Camp(特別協賛:セイコーグループ株式会社)は2016年にスタートしました。以来、毎夏、東京で開催される恒例のジャズ・ワーク・ショップとしてすっかり定着し、9回目となる今年も向上心のあるジャズを愛する若手プレーヤー&ヴォーカリスト合計40名が全国各地から大集結。会場の尚美ミュージックカレッジ専門学校は初日の8月12日から熱心な講師ミュージシャンと意欲あふれる受講生たちの活気がみなぎっていました。ところが台風7号の影響で5日目、最終日のスケジュールは全て中止となってしまったのです。けれども、Seiko Summer Jazz Camp 事務局の早めの判断と対応が功を奏し、16日に行なうはずだったガラコンサート及び表彰式は1日繰り上げた15日に開催されました。迎えた本番は予定を早めたとは思えない、大成功のエンディング!
想定外の行程も見事に乗り越えた今回のSeiko Summer Jazz Camp 2024。その模様を2回に渡ってリポートします。前編は初日と3日目の授業風景をお伝えしましょう。
取材・文:菅野聖
撮影:amigraphy
取材日:2024年8月12日・14日
メインテーマは“リズムこそ命”
Seiko Summer Jazz Camp 2024の初日である8月12日午前10時、尚美バリオホールの観客席には厳選なオーディションを通過した各パート5名ずつ合計40名の受講生全員が集まっていました。少しばかり緊張した表情の彼らの前に講師を務めるジャズ・ミュージシャンが登場し、ひとりずつ、カジュアルに挨拶をしてその場の空気を和らげていきます。ディエゴ・リヴェラ(As)、ベニー・ベナックⅢ(Tp、Vo)、クインシー・デイヴィス(Dr)、ヨタム・シルバースタイン(G)、シェネル・ジョンズ(Vo)、中村恭士(B)、大林武司(P)、そして特別顧問の守屋純子(P、作編曲)と2度のグラミー賞を受賞しているトップ・トロンボーン奏者であり、講師リーダーとしてSeiko Summer Jazz Campの1回目から支えているマイケル・ディーズという豪華な顔ぶれ(敬称略)。そのマイケルから重要なメッセージが受講生たちに送られました。
「僕たちがここにいる理由は君たちの質問に答えるためです。わからないことがあったら遠慮せずにどんどん声をかけてください。英会話に自信がない人は通訳を介して聞いてくれればいいのです」
続いて、Seiko Summer Jazz Camp 2024のメインテーマである“Rhythm is Our Business(リズムこそ命)”について補足説明がありました。
「アメリカのミュージシャンは皆“Rhythm is Our Business”と口にします。音楽をする上で“リズムが命”だという意味です。そのリズムをSeiko Summer Jazz Campでしっかりと学んでいってくださいね」
マイケルの挨拶が終わり、次は講師によるスペシャル演奏が披露されました。曲はジャズ・レジェンド、ウェイン・ショーター(sax)作曲の「ワン・バイ・ワン」で、アート・ブレイキー・アンド・ジャズ・メッセンジャーズのライブ・アルバム『ウゲツ』(1963年録音)の収録トラックが特に人気のナンバー。講師たちのエネルギッシュなプレーが会場を包み込み、受講生たちも興奮を抑えることなく大喝采。Seiko Summer Jazz Camp 2024が開幕しました。
講義と実演、充実したカリキュラム
受講生たちに用意されていたのはジャズを多角的に学べるカリキュラムです。5つのグループに分かれ、8人編成でレッスンを受ける<スモール・アンサンブル>の教室となっている各スタジオをのぞくと、講師によって教え方は様々ですが、共通しているのは受講生の出す音への集中力と的確なアドバイス。プレーやリズム、タイム感を瞬時にキャッチして、具体例をあげながら丁寧に練習方法を伝授し、模範演奏も披露していきます。そして“共演者の演奏をもっと注意深く聞こう”“まずはメロディを大切にしよう”とメッセージ。最初は遠慮がちだった受講生も徐々に質問を講師に投げかけ、それを受けてすぐさま答える講師陣。こんな風にコミュニケーションが円滑に進むのは、外国人講師をサポートしている通訳がみな現役ジャズ・ミュージシャンというのも大きな要因のひとつといえそうです。講師がレクチャーする専門的な内容をしっかりと受講生に伝える彼らの存在があるからこそ、言葉の壁を気にせずにディスカッションが成立しているのです。午前中の授業が終わり、昂揚した受講生数人に不意打ちで感想を尋ねてみました。
「先生方がとてもウェルカムな感じだったのですぐに打ち解けて自然な演奏ができたと思います」(高岡康介さん・Dr)
「最初の授業を受けた時点で大満足って気分です!」(早川紗世さん・Dr)

第一線で活躍しているプロ目線のアドバイス
ランチ休憩が終わり、続いて見学したのは尚美バリオホールのステージ上で各楽器を鳴らしながらレクチャーを受ける<ビッグ・バンド・アンサンブル>です。講師は全体演奏を注意深く聞き、更にパート別に音を出させ、気になる点をその都度わかりやすい言葉で助言しています。時には若かりし日のジャズ・ジャイアンツがどのように成長していったのか、どんな風に独自の音楽を生み出していったのかなど、興味深いエピソードを織り交ぜて紹介する講師もいました。

<リズム・セクション・ワークショップ>では、カウントを出すプレーヤーが最初に音を出す際に注意しなければいけないことを講師が受講生に伝えている場面に遭遇。見逃してしまいそうな細かい部分にも注視しながらアドバイスをしていました。同様に<ヴォーカル・ワークショップ>も歌唱法だけでなく、伴奏者(この時はピアニスト)に伝えるべきマナーも伝授。ここでも細部にまで気を配って指導する講師の姿がありました。


1日の最後は受講生全員がバリオホールに集合し、講師のレクチャーを受ける<マスタークラス>で、いわゆる座学になります。ただし、受講生も手拍子を鳴らしながら様々なリズム・パターンにチャレンジしたり、講師と一緒に演奏する実演タイムもあり、会場は熱気を帯びていました。気が付けばあっという間に夕方5時。初日のカリキュラムが全て終了したところで、3人の講師にひと言、コメントをいただきました。
「受講生全員が心からジャズを楽しんでいるのがわかり、今、とても幸せな気持ちです。明日からは彼らの新しい可能性を広げることにフォーカスしていく予定です」(ディエゴ・リヴェラ)
「ジャズについて深く学び、みんながひとつになってスペシャルな音楽を作り上げていく喜びと重要性を伝えていきたいです」(クインシー・デイヴィス)
「限られた時間ですが、隙あらば講師を含め、多くの人とコミュニケーションをとっていただきたいですね。それがのちのち、受講生自身のプレーに反映されますので」(大林武司)
受講生にもこの日の感想を伺いました。
「2年前にSNSで知って今回、応募しました。授業を受けた今、ワクワクとドキドキが止まりません」(本山祐真さん・Tb)
「福岡から来ました。知り合いもいないのでとても緊張していましたが、先生たちがとても温かく、周りの人たちも気軽に話しかけてくれて楽しいです」(吉川結菜さん・B)
「学ぶことがたくさんあるんだなとわかり、今、希望に満ちあふれています」(樹神アミさん・Vo)
3日目にして著しい成長を遂げている受講生たち
3日目のSeiko Summer Jazz Camp 2024。朝9時過ぎに尚美ミュージックカレッジ専門学校のドアを開けると初日とは明らかに違う親密な空気が。受講生同士が打ち解け、ロビーからは笑い声も聞こえてきます。ジャズに情熱を注ぐ同世代の仲間だからこそ、すぐに気持ちがわかりあえたのかもしれません。
さて、この日の授業はドラム、ピアノ、ベース、トランペット、トロンボーン、サックス、ギター、ヴォーカルに分かれ、担当講師から直接指導を受ける<楽器別マスタークラス>からスタートです。どの教室も熱のこもった講師の声が響き渡り、その全てを吸収しようとする受講生たちの気合いがヒシヒシと伝わってきます。10分間の休憩を挟み、次は<スモール・アンサンブル>の授業が開始。5つのグループはそれぞれ指定の教室に入り、ガラコンサートで演奏する2曲を真剣に練習していました。あるグループはエンディングをどう決めるか、試行錯誤しながら受講生同士で意見を交わし、講師はその様子を温かい眼差しで見守っています。全てを教えるのではなく、演奏者である受講生自身が考えることの大切さを学んでいるように見えました。けれど、程よいタイミングで講師はアドバイス、そのさじ加減が絶妙です。
さて、午後のカリキュラムが始まる前に初日との変化を受講生のひとりに聞いてみました。
「自分が出す音に対してきちんと責任を持たなければいけないと思うようになりました」(堀田美紗子さん・Gt)

絆が生まれる学びの場
午後の授業は再び<ビッグ・バンド・アンサンブル><リズム・セクション・ワークショップ><ヴォーカル・ワークショップ>の後に受講生全員参加型の座学<マスタークラス>というスケジュールです。驚いたのは、受講生たちのパフォーマンス力や講師へのリアクションがグンとアップしていたこと。3日目にしてこんなにも成長するとは!ちなみに、授業内容の一部を特別顧問の守屋純子講師がご自身のブログ『なぜ牛丼屋でジャズがかかっているの?』で紹介しています。ご興味のある方は是非、ご覧になってみてください。

ところで、学校内を見渡すと初日にいなかったメンバーの存在に気が付き、確認したら、彼らは聴講生で、なんとSeiko Summer Jazz CampのOBでした。その中には現在、ジャズ・シーンで大活躍中のミュージシャンの姿もあり、Seiko Summer Jazz Campが学びの場として愛されていることを実感しました。講師たちも元受講生のOBと再会し、非常に嬉しそうです。Seiko Summer Jazz Campは未来につながる絆を生み出す場所でもあるのです。
この日の終了間際、最終日の16日に台風7号が関東に大接近するという情報が気象庁から発表されました。講師陣とSeiko Summer Jazz Camp事務局は急きょ、ミーティングを行ない、その結論を持ち越した翌日に16日の全行程を中止すると苦渋の決断を下すことになります。そして、ガラコンサートと授賞式の開催は15日に決定。その模様は後編でレポートいたします。