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Interview
サックス奏者・金子礼が語る、20年間のジャズ・ライフ
2016参加者 / サックス 金子礼
- 2021/10/29
- 2024/09/30
Profile
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金子礼(かねこ・れい)
金子礼(かねこ・れい)
2001年生まれ。クラシック・サックスを貝沼拓実氏、大城正司氏に師事。ジャズ・サックスを原川誠司氏、山田穣氏、池田篤氏に師事。ジャズ・ベーシストの金子健を父に持ち、3歳からピアノ、小学6年生でサックスを始める。
中学校では吹奏楽部で活動し、ジャズ・サックスの個人レッスンを受ける。またbf Jazz Orchestraに所属し、コンボで《すみだストリートジャズフェスティバル》に出演。2016年、東京都立総合芸術高校 音楽科サックス専攻に入学し、クラシックを中心に学ぶ。同年Seiko Summer Jazz Campに参加し、「Best Improved Student Award」を受賞。
高校在学中は《くらしき国際サクソフォーンコンクール》等、3つのクラシック・コンクールで優秀な成績を収める。また米《Centrum’s Jazz Port Townsend》を受講。2020年、国立音楽大学ジャズ専修に入学し、在学中。アルトをメインに、テナー、ソプラノ、バリトンの4種類のサックスを演奏。
最新参加作は金子健のKen’s Trio + One『Silver Lining』。
両親の影響を受けて音楽に親しんだ少年時代
サックス奏者の金子礼は現在、音楽大学に通いながら、学外ではプロのジャズ・ミュージシャンとして活動している。父親でジャズ・ベーシストの金子健の最新作にして、自身の参加作でもあるKen’s Trio + One『Silver Lining』がリリースされたばかりのタイミングで、これまでのキャリアを語ってもらった。
「父親(金子健)がジャズ・ベーシストで、教育の一環としてピアノを始めました。でも長続きせず、すぐにやめてしまい、音楽を離れて水泳に打ち込んでいました。ある日、自宅を大掃除した時に、母がぼくを産む前に趣味で数ヵ月間やっていたアルトサックスがたまたま出てきて。ちょっと吹いてみたら音が全部出たので、やってみようと思いました。小学校6年生の12歳からです。
母に連れられて小学4年生からブルーノート東京で、ルー・ドナルドソン(as)やベニー・ゴルソン(ts)を聴いていて、サックスはジャズの楽器なのだな、と思っていました。もっと小さい頃から父のトリオを聴きに行っていたので、ジャズには自然と親しんでいました。そこで改めて父に『ジャズってどんな音楽なの?』と聞き、自分でミュージシャンを調べたりしてジャズを学び始めました。
中学時代は吹奏楽部に所属しながら、父が経営するbf Jazz Schoolで3年間、アルトサックスの個人レッスンを受けました。部室で練習し、終わったらスタジオへ行く生活でしたね。その頃に影響を受けたのはソニー・スティット(ts,as)で、『スティット・プレイズ・バード』や『チューン・アップ』はよく聴きました。
中学2年の時にbf Jazz Schoolの生徒とアマチュアのコンボを組んで、《すみだストリートジャズフェスティバル》の野外ステージに出演。2015年に応募して本選に出場した《新潟ジャズコンテスト》では、審査員の宮本貴奈(p)さんに色々とアドバイスをいただき、良い経験になりました」。
ブランフォード・マルサリスと出会ってクラシック・サックスに開眼
「中学3年生の時点で、ジャズ・ミュージシャンになりたい気持ちがありました。2015年10月に小曽根真(p)さんとブランフォード・マルサリス(ts,ss,as)がオーケストラと共演した「ジャズ・ミーツ・クラシック」を東京文化会館で観て、その時にクラシック・サックスの存在に気付きました。終演後にブランフォードと話すことができて、『ソニー・スティットが好きならレスター・ヤングをたくさん聴くといい』と、アドバイスをいただきました。
ブランフォードはクラシックのアルバムも出していて、そこでクラシックにも興味を持ち、父に音楽高校への進学を相談。するとbf Jazz Schoolにジャズを習いに来ていた交響楽団の首席フルート奏者を経由して、東京藝術大学附属高校の講師を紹介していただき、9月からクラシックを習い始めて、2016年1月に推薦で東京都立総合芸術高校に入学が決まりました。楽器の本質を学ぶことの大切さに気付いて、クラシックもジャズも両方できる幅広い音楽家になりたいと思って、今までやってきています」。
高校1年生で演奏能力と努力が高い評価を獲得
2016年、東京都立総合芸術高校 音楽科サックス専攻に入学。クラシックとジャズを同時に学ぶ生活が始まった高校1年生で、Seiko Summer Jazz Camp 2016に参加する。
「応募したきっかけは、たまたまチラシを見たからです。講師のティム・グリーン(as)の演奏をYouTubeで観て、気になっていたので、ぜひ生で聴きたいと思って応募しました。芸校の生徒はクラシック志望者が多く、同じ時にSSJCを受けた人はいませんでした。
ティムのビートとか楽器の力とか音色など、すべてに興味があったので、身体の動きや、吹く前のブレスの仕方などを吸収しようと思っていました。しかもステージと客席の距離ではなく、目の前で吹く様子を生で聴ける機会は、なかなか経験できることではありません。ティムからは、『新しいミュージシャンをたくさん聴くのはいいことだけれど、古いミュージシャンからしっかりと学んだり、色々なフレーズや奏法を学ぶことも大事。毎日エチュードをやったり、楽器の基礎的な訓練を続けること。コンボで演奏する時は常に、全身にアンテナを張って演奏にフォーカスすることも大事』と言ってもらいました。今でも強く残っている言葉です。
SSJCで経験したレッスン内容は、現在の活動にも強く影響していると思います。落ち込んだ時とか悩んだ時は、目の前で受けたレッスンのティムの音を想像すると、けっこう生き返るので(笑)。その印象は強烈ですね。
最終日に「Best Improved Student Award」を受賞できました。その日に受けたコンボでのアドバイスをなるべくその後、キャンプが終わった後に練習して改善したり、次のアイデアとかアドバイスをもらおうと思って取り組んだことが、受賞に繋がったと思っています」。
さらに重ねた高校時代の音楽キャリア
高校在学中は2017年に《くらしき国際サクソフォーンコンクール》ソロ部門 高校生の部 第1位、《日本クラシック音楽コンクール》最高位、2018年に《日本ジュニア管打楽器コンクール》ソロ部門 銀賞と、クラシックのコンクールで優れた実績を挙げる。その一方でジャズのコンクールに挑戦する機会はなかったが、アメリカの大規模なジャズ・キャンプに参加。SSJCで得たスキルをさらに伸ばすための努力を惜しまなかったことは見逃せない。
「2017年と18年に連続でシアトルの《Centrum’s Jazz Port Townsend》を受講しました。これはクレイトン=ハミルトン・ジャズ・オーケストラのリーダーでベーシストのジョン・クレイトンが芸術監督を務め、全米から40人の先生が来て行われたキャンプです(2021年度はテレル・スタッフォード[tp]、ワイクリフ・ゴードン[tb]、ディック・オーツ[as]、ジョージ・ケイブルス[p]、ジェフ・ハミルトン[ds]らが講師を務めた)。SSJCで知り合った講師の中村恭士(b)さんに紹介されて、参加を決めました。
シアトルから船で1時間の島で1週間行われるもので、1日3時間のコンボ練習や理論、色々なキーで一つの曲を演奏したり、ピアノの先生10名で語り合うピアノ・サミットなど、色々なレッスンがありました。最後の3日間にコンボに分かれた生徒たちが、4日間で学んだことを演奏。その3日間は朝から夜までミュージシャンが演奏し、街全体が1日中ジャズの街になるのです。これは日本では体験できない出来事でした」。
大学に進学した現在、そして近い将来の夢
金子がSSJC 2016で知り合った参加者とはその後、共演をお願いしたり、高田馬場ジャズスポット・イントロでセッションするなど、関係を継続。卒業後の2017~19年も会場に足を運んで、2016年にはいなかったボーカルとギターの講師が加わるなど、進化するSSJCのリアルな様子を自身の目で確かめている。
「2019年にイントロで山田穣(as)さんと知り合い、個人レッスンをお願いしました。今もレッスンを受けている先生です。2020年に国立音楽大学ジャズ専修に入学。父が同大で教えている関係で遊びに行っていて、ジャズを学ぶなら国立かな、と考えたのも進学した理由です。大学では池田篤(as)さんに習っていて、どちらも素晴らしい先生なので、いつも刺激を受けて自分も頑張ろうという気持ちになっています。
2019年7月に父のリーダー・バンドに加わって、初めて都内のジャズ・クラブに出演しました。2020年も金子健カルテット・フィーチャリング金子礼でライブを行い、2021年9月リリースのKen’s Trio + One名義作『Silver Lining』に参加しています。コロナ禍の中で、希望の光を見つけて生きる大切さを感じて演奏した作品です。
自分の初めてのリーダー・バンドは2020年12月に始動しました。共演者は全員が30代のカルテットです。ジャズ・サックスを師事した原川誠司さんから助言をいただき、そろそろ自分のやりたいことをやろうと思って、セッションに参加したりライブを観る中で、印象的だった人にお願いしました。今後は大学在学中にも、大学以外の場所での音楽活動を増やしていきたいと思っています。また海外の教育機関で学び、自分を磨きたい気持ちもあるので、コロナが落ち着いて環境が許せば実現させたいですね」。