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Seiko Summer Jazz Camp Graduates Live in Tokyo

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Seiko Summer Jazz Camp Graduates Live in Tokyo

2021年10月23日@東京・高田馬場カフェ・コットンクラブ

  • 2021/11/30
  • 2024/07/12

2016年にスタートしたSeiko Summer Jazz Camp(以下SSJC)は2019年までの4年間に数多くの参加者を得ており、すでにプロ・ミュージシャンとして活動中の卒業生も少なくない。彼らを中心とするユニットが出演する《Seiko Summer Jazz Camp Graduates Live in Tokyo》が2021年6月に始まり、これまで8、9月を除いて毎月2回のペースで開催されてきた。10月23日にはその第6回が東京・高田馬場カフェ・コットンクラブで行われた。

この日の出演者は後藤絵美がリーダーのクインテット。

後藤は2016年の第1回SSJCに参加したベーシストで、当時は慶應義塾大学のジャズ研究会に所属し、ビッグ・バンドの経験もあった。中学~高校のオーケストラ部でコントラバスを演奏して基礎力を身につけており、大学に入ってからジャズを始めた経歴は多くの学生に共通するものと言える。
SSJCでは4日間のプログラムを通して最も優秀な成績を収めたプレイヤーに贈られる「Most Outstanding Student Award」を受賞。現在は、女性コンボやビッグ・バンドで活動中で、今回の卒業生ライブを控えて自身のSNSでは以下のメッセージを発信していた。「私がジャズ・キャンプに参加したのはもう5年前の話ですが、それ以降も様々な企画に関わらせていただき、自分の音楽人生の中で大きなウエイトを占めるものになっています。今回バンド・メンバーも、ジャズ・キャンプに密接な関わりのあるメンツを選びました。エキサイティングなライブになること間違いなしです!!」。

後藤が選んだメンバーは、中学時代に吹奏楽部でトロンボーンを始め、2018年のSSJCで「優秀賞」を獲得した松田結貴子、第1回SSJCで高校1年生ながら、最も成長が著しかった生徒に授与される「Best Improved Student Award」に輝いたアルトサックス奏者の金子礼、小学生からジャズ・ドラムを始め、ロックやラテンも吸収し、浅草ジャズ・コンテスト金賞、山野ビッグ・バンド・ジャズ・コンテスト最優秀賞の第1回参加者、坂本貴啓というSSJCの卒業生3名に、国立音楽大学ジャズ専修を卒業して現在は自己のトリオなどで活動するピアニスト加藤友彦と、全員が20代のクインテットが編成された。

金子礼 Interviewはこちら

演奏する後藤絵美さん
Seiko Summer Jazz Camp Graduates Live in Tokyoの演奏風景

ファースト・セットはディジー・ガレスピー(tp)作曲によるモダン・ジャズの名曲「チュニジアの夜」で開幕。

この曲は第1回SSJCで後藤+金子+坂本が演奏した課題曲であり、卒業生バンドとして《東京JAZZ》のステージを務めた時のレパートリーでもある、後藤にとっての思い入れのあるナンバーだ。アルトとトロンボーンがパートを分け合うテーマを皮切りに、アルトがブリッジで加速すると、そのまま先発ソロを吹奏。安定したプレイからは、演奏者としての金子の自信が伝わってきた。
3番手のソロを務めた加藤からは、ビバップを基礎として自分の音を追求する姿勢が感じられた。速いパッセージを織り交ぜたベース・ソロに、2管ハーモニーとドラムの小節交換が続き、エンド・テーマではトロンボーン~アルトの短いカデンツァが入って落着。随所にアレンジを加えたサウンド作りは、今回この卒業生ライブのために初めて組んだクインテットを、単なるブローイング・セッションに終わらせないと後藤が企図したことが明らかになった。

2曲目の「タイム・トゥ・スマイル」は松田が退いたカルテットの演奏。その理由を探れば、作曲者のフレディ・レッド(p)が初演した60年作『ザ・コネクション』と同じ編成である事実に行き着くと同時に、同作のアルト奏者がジャッキー・マクリーンだと知れば、金子に対する後藤の期待感も重なる。
演奏前のMCで「2016年のSSJCで礼君に衝撃を受けました」と語った後藤は、今回が当時以来の金子との共演。この5年間における金子の成長をフィーチャーすべき選曲は、4人全員によるユニゾンを含むアルト・テーマで始まり、先発ソロを含めて金子が神童ぶりを発揮した。

3曲目の「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーバー・ミー」は金子が下がったカルテットの演奏。同学年の後藤と松田は大学時代から親しいバンド仲間で、現在は雨月カルテットの共演者でもある。二昔前までは女性トロンボーン奏者はまだ少数派だったが、近年は状況が変わって、特に北欧では著名人材を輩出。日本でも学生の層が厚くなったことが奏功しており、本仮屋ユイカがトロンボーン奏者を演じた2004年公開映画『スウィングガールズ』が若い女性の管楽器奏者の増加に貢献したことも、大きかった。
ピアノ・イントロ~ピアノ&トロンボーンと進み、AABA形式テーマのBからカルテットの合奏に移るスロー・ナンバー。終盤にトロンボーンのカデンツァを入れて、松田が存在感を示した。74年にソウル・グループのスピナーズが発表した歌唱曲「アイム・カミング・ホーム」を、後藤はクリスチャン・マクブライド(b)が初めてインストゥルメンタルでカバーした98年作『ファミリー・アフェアー』で知り、今回選曲。
米ニューオリンズ由来のリズム・パターンであるセカンドラインを使用したマクブライド・バージョンを踏まえて、後藤クインテットは2管のユニゾン・テーマを皮切りにプレイ。
ここではマクブライドを意識したかのような4番手のベース・ソロで、選曲理由を無言で語った。

Seiko Summer Jazz Camp Graduates Live in Tokyoの演奏風景
演奏する金子礼さんと後藤絵美さん

セカンド・セットの1曲目はニューヨークの老舗ジャズ・クラブ“カフェ・ボヘミア”に出演していたオスカー・ペティフォード(b)が、ステージのクロージングのために作曲した「ボヘミア・アフター・ダーク」。

作曲者に敬意を表してか、ベースが先発ソロをとると、2番手のアルトは音がせり上がっていくフレーズを織り交ぜて、キャノンボール・アダレイ(as)からの影響関係を滲ませる。トロンボーンに交代すると、ベースとのデュオ~トロンボーン・カルテット~ドラムとの小節交換と、松田が絡んだ展開でエンド・テーマを迎えた。
続く「マック・ザ・ナイフ」は後藤がSSJCに応募した時に、加藤を含むトリオの音源を送って参加が認められたことがあり、加藤はSSJCの卒業生ではないが後藤にとっての恩人ということで今回のバンドに声を掛けたとのこと。先発ソロを担った加藤はエロール・ガーナー(p)を想起させるプレイで、その実力を披露した。
3曲目の「タイムズ・ライク・ディーズ」は小曽根真(p)が作曲し、小曽根の恩師でデュオ・パートナーでもあったゲイリー・バートンがリーダー作で採用した楽曲。後藤がMCで「チャレンジ曲」と紹介したのは、多くのミュージシャンがカバーしているスタンダード・ナンバーではなく、コンテンポラリーなジャズ・ナンバーだからだろう。ピアノ&アルトのユニゾン・テーマを皮切りに、優美な合奏へと進み、後半はアルトとトロンボーンがリレーを繰り返して2管合奏に至ってハイライトを現出した。
ラスト・ナンバーはシダー・ウォルトン(p)作曲の「シダーズ・ブルース」。60年代にアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズのピアニストを務め、代表曲を提供したウォルトンの楽曲は、2管クインテットに相応しい。フロントのユニゾン&ハーモニー・テーマが始まると、後藤がマイクを取ってメンバーを紹介。5人全員がソロをリレーし、エンド・テーマに至った。

SSJCの卒業生を中心に、この日のために編成された後藤絵美クインテットは、お馴染みのスタンダード・ナンバーに偏らず、ジャズマン・オリジナルにも意欲的に挑んだセット・リストを組んで、それぞれのメンバーが成長ぶりを印象付けた。その音楽的土台にはSSJCで学んだ経験があることは言うまでもないだろう。

Seiko Summer Jazz Camp Graduates Live in Tokyoの演奏風景

サード・セットは後藤クインテットのメンバーに加えて、8人のミュージシャンが曲ごとに編成を変えて進行するジャムセッションが用意された。

レギュラー・バンドやリーダー・バンドにはない、楽器やミュージシャンの顔合わせの妙がその魅力であり、特に複数の同じ管楽器奏者が並ぶ場合は、バトル的な要素が発生することもあって、それもまた見どころだ。自身が経営するカフェ・コットンクラブおよびジャズスポット・イントロでジャムセッションを主宰する茂串邦明が、MCを担当。5人の名前を呼び上げてステージが始まった。

茂串邦明 Interviewはこちら

トロンボーン+テナーの2管クインテットによる「ゼア・イズ・ノー・グレイター・ラブ」では、石橋采佳(tb)が活躍。SSJCの卒業生である石橋は《東京JAZZ》の出演や、コンボ、ビッグ・バンド、ホーンセクションのサポート等でプロ・キャリアを重ねており、現在はライブハウスでセッション・リーダーも務めている。豪快さばかりでなく細かい技も使ったプレイが光った。
トロンボーン奏者ではもう一人、2管クインテットによる「アイ・ラブ・ユー」で先発ソロをとった横浜良太郎が、個性的な音色と力強い演奏で印象的だった。カウント・ベイシー楽団の人気レパートリー「シャイニー・ストッキングス」では、後藤クインテットにトランペットの鈴木風雅が加わった3管を編成。トランペットとトロンボーンがリレーするテーマで、ビッグ・バンド・ジャズの楽しさをコンボで表現した。
プログラムの最後は全員がステージに上がり、「イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー」を選曲。トランペット&アルトの短いリレーとバトルや、7管によるアンサンブルも盛り込んで、ハイライトを演出した。

SSJCが輩出したミュージシャンと、ジャムセッションのノウハウがあるカフェ・コットンクラブのマリアージュと言えるステージ。SSJCのレガシーがこのように形を変えて繰り広げられたことが喜ばしい。卒業生以外のミュージシャンも巻き込んだセッションは、《Seiko Summer Jazz Camp Graduates Live in Tokyo》の名物企画に発展することだろう。

演奏する坂本貴啓さん
演奏する石橋采佳さん

■Set List

1st: ①チュニジアの夜 ②タイム・トゥ・スマイル ③サムワン・トゥ・ウォッチ・オーバー・ミー ④アイム・カミング・ホーム
2nd: ①ボヘミア・アフター・ダーク ②マック・ザ・ナイフ ③タイムズ・ライク・ディーズ ④シダーズ・ブルース
3rd: ①ゼア・イズ・ノー・グレイター・ラブ ②アイ・ラブ・ユー ③シャイニー・ストッキングス ④イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー

■Personnel

後藤絵美(b)クインテット:松田結貴子(tb)、金子礼(as)、加藤友彦(p)、坂本貴啓(ds)
3rd Setのみ:鈴木風雅(tp)、横浜良太郎、石橋采佳(tb)、古田一行、千田真稔(ts)、Sattie(p)、河野秀夫(b)、古山雄大、佐々智樹(ds)

Seiko Summer Jazz Camp Graduates Live in Tokyoの演奏風景

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