Magazine

Seiko Summer Jazz Campで学んだトランペッターとベーシストによる初めての対談

Interview

Seiko Summer Jazz Campで学んだトランペッターとベーシストによる初めての対談

2017年参加者 / トランペット 枝次竜明、2018年参加者 / ベース 米澤毅風

Profile

  • 枝次竜明(えだつぎ りゅうめい)

    枝次竜明(えだつぎ りゅうめい)

    枝次竜明(えだつぎ りゅうめい)

    トランペット奏者
    2000年 大分市生まれ。中学の吹奏楽部でトランペットを始め、高校進学を機にジャズを勉強し始める。在学中より九州、関西、沖縄のジャズスポットでライブを繰り広げ、プロ奏者とのセッション、サポート演奏を多数経験。高校卒業前後はアメリカとドイツを単身旅行し、セッションに挑む。2022年より大分県立 芸術文化短期大学 作曲科に入学し、ライブ活動と並行して作曲家としての技能を磨いている。現在は大分を拠点に活動中。

  • 米澤毅風(よねざわ きふう)

    米澤毅風(よねざわ きふう)

    米澤毅風(よねざわ きふう)

    ベース奏者
    1994年、奈良県生まれ。高校在学中からエレキベースとウッドベースを始め、卒業後は甲陽音楽学院に進学。ベース科を首席で卒業した後、関西を拠点に活動を始める。以降ライブはもとより様々なミュージシャンとのレコーディング、各地方へのツアーに参加している。共演歴は唐口一之、タナアキラ、Mitch、黒田卓也、広瀬未来、香西かおり。現在は大阪のクラブ・ライブを動画サイトから積極的に発信している。

プレイヤーとしてのキャリアを積んだ10代を振り返って

Seiko Summer Jazz Camp(以下SSJC)の卒業生である米澤毅風と枝次竜明は、参加年ばかりでなく年齢、出身地も異なる間柄。そんな二人は2022年5月24日に東京・浜離宮朝日ホールで開催された《Seiko presents “Starry Night Concert” SPECIAL STAGE》と題したコンサートで共演した。SSJCの講師を務めるピアニスト大林武司がリーダーとなった大林武司&ジャズキャンパーズは、大林が抜擢したSSJCの卒業生を中心に編成したセクステット。その重責を担った二人に、自身の初期キャリアから語ってもらった。

米澤:3歳から1年間習ったエレクトーンが最初の楽器です。父親が社会人ビッグ・バンドでテナーサックスを吹いていた関係で、子供の頃に父の練習についていったり、自宅での練習を聴いていたのが、初めてのジャズ体験です。高校1年の時点では楽器に関する知識がまったくなくて、サックスとトランペットだけが、名前と楽器の形が一致するという程度。吹奏楽部に入って、第4希望を適当に埋めるためにコントラバスと書いたら、その楽器を割り振られました。エレキベースとウッドベースをほぼ同時期に始めたのです。吹奏楽部では専門のプロの人から教えてもらったわけではないので、楽器店のエレキベースのレッスンに通い、ウッドベースは高校時代に独学で習得。ジャズを聴き始めたきっかけは、アドリブ演奏はどのようにするものなのか、という興味からです。アドリブといえばジャズが思い浮かんだので、実家にあったCDの中からビル・エヴァンスやセロニアス・モンクのアルバムを聴きました。それが初めて意識的にジャズを聴いた時ですね。

枝次:叔父が銀色のかっこいいトランペットを持っていて、子供の頃に祖父の家へ遊びに行くたびに、楽器の形に魅せられていました。楽器の経験はなかったのですが、中学生になったら吹奏楽部に入部すると決めていて、中学の吹奏楽部でトランペットを始めました。中学の3年間はマーチングがある学校だったので、楽器に対する熱量を上げる努力をしたと思います。高校生になったら吹奏楽から離れたいと思っていたので、高校進学を機にジャズを勉強し始めました。利用していたスタジオの掲示板にジャズ教室の案内があったので、行ってみたのがきっかけです。高校は4年間のコースで、スケジュールに融通が利いたため、音楽活動に充てることができました。若い人たちとのバンドや、社会人とプロの方とのバンドで、地元の大分ばかりでなく大阪、福岡、沖縄などでライヴ活動をしました。

米澤:枝次君は海外で演奏経験があるんだって?

枝次:はい、高校の夏休みに個人でアメリカに約2週間滞在しました。目的は二つあって、ニューヨークではジャズを観て、セッションに参加。たまたまSSJC講師のベニー・ベナック(tp)さんと会えて嬉しかったです。また日本人留学生の伝手をたどって、ボストンのバークリー音楽大学を見学できたのも収穫でした。2019年に高校を卒業した直後の4月にドイツを単身旅行しまして、その時はベルリンに知り合いがいたので、ヨーロッパのジャズを体験するためにドイツを選びました。約1ヵ月の滞在中はライブを観たりセッションに参加したり。オランダにも寄りましたね。セッションのホストかお店の人に伝えれば、意外とスムーズに参加できることがわかりました。

米澤:ぼくは高校を卒業後は甲陽音楽学院に進学して、ジャズ関係の先生に師事しました。人前で演奏する中で感じるのは、「ベース・ソロがかっこいいね」、と褒められる経験が多いことで、これは自分ではなかなか言えないことだけれど、その辺が自分の強みだと思っています。

枝次:自分の長所は、「諦めない気持ち」ですね。楽器を始めてまだあまり年数が経っていない段階で、県外で活動をしたり、同年齢でもすごく上手な人たちと一緒に演奏する中で、自分は楽器が上手いという長所はないと思っていました。幼少期から始めている人にはやはりかなわないけれど、自分が壁にぶつかった時に、もうやめてしまうのではなく、諦めずに成果を残したい、という気持ちで今まで続けられました。

米澤:自分のスタイルを作る上で影響を受けたミュージシャンがいると思うけれど、ぼくにとっての重要なベーシストは、よく聴くという意味でチャーリー・ヘイデン。ベース・スタイルではニューヨークのデヴィッド・ウォンが好きです。ヘイデンは自身が語っているように、共演者の美しい部分を見つけて演奏することを心掛けている点が魅力で、その精神が演奏に表れています。寝る前にヘイデンのデュオ作品を聴くことが多くて、キース・ジャレットとの『ジャスミン』や、パット・メセニーとの『ミズーリの空高く』、『チャーリー・ヘイデン&ジム・ホール』が好きですね。

枝次:一番好きなトランペッターはロイ・ハーグローヴです。彼の個人的で人間的な部分が音に表れているのがいいですね。ロイはコンボからビッグ・バンド、RHファクターまでの様々な編成で、ジャズ、ラテン、ファンク、ヒップホップ、ソウル、ゴスペルを吸収した音楽を生み出しました。自分にも他人にも厳しい人で、厳しい部分と遊びの部分のメリハリが音に出ていると思います。

ジャズ・キャンプに参加した経験を通じて得たもの

米澤:ぼくが参加した2018年度の2年前に、友人の曽我部泰紀(ts)君が参加しました。彼が関西で活動していた時はよく共演して、彼からSSJCの話は聞いていたので、自分も応募しようと思ったのです。参加者の中では及川陽菜さんだけは面識がありましたが、東京からの参加者が多く、大阪からほとんど知り合いがいない状態で参加したので、自分から積極的にコミュニケーションを取りました。色々な人と繋がれたらいいなと思いました。

枝次:インターネットでジャズ関係のイベントを検索した時に、たまたま見つけて、興味を持って参加しました。SSJCのようなキャンプに参加したのは2017年のSSJCが初めてでした。ジャズを始めてからまだ経験が浅かったので、色々なことを勉強したかった。ジャズ理論を勉強したい気持ちが強かったです。参加者の中に知り合いはいなかったのですが、鈴木風雅(tp)君と出会って、楽器の扱い方などについて話を聞けたのはとても良かったと思っています。

米澤:キャンプ中で一番印象に残っているのが、ビッグ・バンドのクラス。中村海斗(ds)君と一緒に演奏していた時に、何か合わないな、と思っていると、横にいた講師の中村恭士さんが代わってベースを弾いてくださいました。その時にバンドのグルーヴがまったく違う感じになって、すごく驚きました。すぐに同じようにできるものではないとしても、このように演奏すればいいのだと学べたのが収穫です。

枝次:ぼくが印象に残っているのは、一つはライバルの存在です。10~20代の人たちが集まる、ここまでの大規模なキャンプに参加するのは初めてだったので、たくさんのライバルがいること、しかもレベルが高いことにも驚きました。自分は悔しい思いもしたし、もっと頑張らなければいけない、とも思いましたね。ベニー・ベナックさんのレッスンで、ベニーさんが大切にしているのは、テクニックもそうなのですが、それ以上に楽器に対する基本的な接し方。どれだけ丁寧に、繊細に気持ちを払えるか。トランペッターとしての音出しについて、最初のレッスンで教わりました。それも印象に残っています。

米澤:それからヨタム・シルバースタイン(g)さんと大林武司(p)さんのアンサンブルのクラスでも、印象的な言葉をいただきました。演奏の中でどれだけ自分を出せばいいのか、というテーマで、周囲のミュージシャンの音をもっとよく聴いた方がいいというアドバイス。心構えとして音楽以外にも広くアンテナを張っておくことが大切だと思いました。

枝次:振り返ってみると、自分にとっては非日常の4日間を体験した後で、ジャズに対する自分の覚悟が深くなりました。トランペットという楽器を吹く上で、気持ちがどんどん高まるのと同時に、身体のことを含めて自分はエキスパートにならなければいけないという気持ちが生まれました。しっかりと基礎練習をしよう、ジャズを考えようという姿勢に変わったのです。

米澤:ニューヨークの第一線で活躍しているミュージシャンから教えてもらうことは、自分の中で納得できることが多かったです。普段の演奏でも心掛けることができるようになったのは、大きな変化だと思っています。

大林武司とジャズキャンパーズとしてStarry Night Concertに出演

米澤:プロデューサーの佐々さんから2018年のSSJC以来の電話をいただいて、本当に驚きました。大林さんがぼくを選んでくださったと知って、二度ビックリです。ジャズキャンパーズのメンバーでは先ほど話したように、テナーサックスの曽我部泰紀君とは以前から共演関係にあって、トロンボーンの治田七海さん、ドラムの中村雄二郎さんと共演しています。

枝次:最初に「大林武司さんと共演してくれませんか」という依頼メールを受けたので、他の人と間違えたのではないかと思いました(苦笑)。驚いたと同時に嬉しかったですね。メールを確認してから母親に連絡して、一緒に喜びました。コロナ禍で大林さんが日本全国を回るソロの「日本一周ジャズお遍路」の大分公演を観に行って、久しぶりにお会いしました。事前に行くことを伝えたら、楽器を持ってくるように言われて、当日のステージで1曲、共演させていただいたのです。その時に大林さんがとても喜んでくれました。2017年のSSJC参加時よりも成長した自分を見ていただいて、今回声をかけていただけたのではないかと思っています。ジャズキャンパーズは全員と面識はありましたが、共演経験はなかったです。

米澤:浜離宮朝日ホールに出演したのは、今回が初めてでした。コンサートホールで演奏する機会はたまにありますが、響きのいいホールはやっぱりやりがいがありますね。多くの観客の前で、緊張感を持ちながら集中して演奏に取り組めました。自分にとっての良い
経験になったと思います。

枝次:曽我部さんはぼくが苦手としている音楽理論にも詳しいし、ステージではきれいなソロの取り方をされていました。最後に会った時よりもかっこよかったです。ステージの隣で自分が吹いている時に、ジャズが大好きで演奏している気持ちが伝わってきて、感激しました。リハーサル中に、ソロに関して大林さんから教えを受けたのですが、ぼくが変に難しいことをしようとしていたのだと思います。そうじゃなくて歌うようにソロを演奏するんだよ、と助言を得たことで、短い時間の中で修正し、本番の演奏を褒めていただいたのは嬉しかったですね。

将来のSSJC参加者に二人から贈るメッセージ

米澤:あれだけの講師陣、現役で活躍されている方、しかも無料の開催は奇跡的です。音楽大学で先生に習うのとは違う経験ができます。ジャズに限らず音楽に対する姿勢や意識の持ち方を学べる場なので、ジャズに興味がない人にもオススメです。積極的に質問をすれば、的確な答えが返ってきますよ。ぜひ参加していただきたいと思います。

枝次:無料であれだけ豪華な講師陣に受講できるのは、一生に一度あるかないかだと思います。当時17歳の自分と同じ年齢の人が、ジャズをやっていきたいと思ったら、ライバルに囲まれる点でSSJCはすごくいい環境。これからジャズに本格的に取り組みたいと思っている人にこそ、参加してほしいですね。

Share