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【Seiko Summer Jazz Camp TOP RUNNER’S TALK】俳優・望海風斗

Interview

【Seiko Summer Jazz Camp TOP RUNNER’S TALK】俳優・望海風斗

宝塚時代から触れてきたジャズについて…そして未来のアーティストたちへのメッセージ

  • 2025/07/18
  • 2025/07/18

Profile

  • 望海 風斗

    望海 風斗

    望海 風斗

    1983年、横浜市生まれ。2021年まで宝塚歌劇団雪組トップスターとして活動。近年の主な出演作にミュージカル『ガイズ&ドールズ』、『next to normal』、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』、舞台『マスタークラス』、テレビ朝日「誘拐の日」、NHK FM「望海風斗のサウンドイマジン」など。本年10月よりミュージカル『エリザベート』主演を控える。第30回読売演劇大賞優秀女優賞、第48回菊田一夫演劇賞受賞。

ミュージシャンと総合芸術である舞台や演技。表現の方法は違えど、「観客に感動を届ける」というゴールは同じ。

今回は宝塚歌劇団の元雪組のトップスターで、2021年に退団後も俳優、そしてアーティストとして活躍する望海風斗さんにインタビューを慣行。
宝塚時代から「ジャズ」にまつわる作品にも出演していた望海さんの独自の視点から「ジャズの魅力」に迫ると同時に、トップランナーとして輝き続ける彼女の経験から、Seiko Summer Jazz Camp受講生世代のミュージシャンを目指す若者たちへ向けた「成長のヒント」となるメッセージもいただきました。

望海風斗さんと「ジャズ」

様々な舞台で音楽と向き合ってきた望海さんにとって、「ジャズ」という音楽はどのような魅力を持っているのだろうか。

「予測不能なかっこよさが魅力だなと思います。同じ曲でも歌い手や演奏者によって味わいが全く違う自由さがあって、セッションによって完成する予測不能な音楽だと感じていて、そこに一番面白さがありますね。
ジャズで特に好きなアーティストはマイケル・ブーブレさんです。宝塚歌劇団の男役のときに、声も素敵でかっこいいなと思って聴いていました。宝塚のショーでジャズナンバーを歌うことも多かったので、その参考にもしていました。またマイケル・ブーブレさんのほか、トニー・ベネットさんとレディー・ガガさんが共作されているジャズアルバムもよく聴いています」


ジャズにおいて、”グルーヴ”という感覚は、重要なもの。その独自の感覚については、どのように研究し、ご自身の表現に取り入れてきたのだろうか。

「ジャズは”とにかくベースの音を聴くんだ!”と教えていただいたことがあります。私が普段取り組んでいるミュージカルの現場では、自分が”歌おう”としてしまいますが、
ジャズは、”歌おう”とするのではなく、ベースの中にあるグルーヴを感じたうえで”委ねる”ことなんだと知りました。ただ、それはすごく難しかったです。
本番中、だんだんとミュージシャンの皆さんと一緒に奏でられている感覚になるのは楽しかったのですが、
(もっとグルーヴを学べば)きっとまだまだもっと自由にできるのだろうなと思い、そうなるともっとミュージシャンやお客様の楽しさも増すのかなと感じました。
またそういったことを学ぶ中で、ジャズだけでなくどの音楽にもグルーヴがあるということにも気付かされまして、どんな音楽でもベースに流れているものを聴こうという意識が強くなっていますね」


2023年に行った自身のコンサート『MY HOMETOWN』では、ジャズピアニストのクリヤ・マコトさんに音楽監督を依頼した。

「これまで、私の中で音楽は”歌と伴奏”という意識が強かったように思いますが、クリヤさんは、「音楽」の中にピアノがあり、ドラムがあり、ベースがあり、歌がある、
という意識の中で1曲を作られているんだなということを感じて、とても勉強になりました。これはクリヤさんだからなのかもしれませんが、まず歌譜がなかったんです!
ミュージカルでは、決まった楽譜の通り歌うということをやってきたので、”ある程度決められた尺の中で自由にどうぞ”というやり方は初めての経験で、とても難しいことでしたが同時に、”これがジャズのセッションなんだ!”という感動もありました」

望海さんが困難を乗り越える原動力となるのは…

Seiko Summer Jazz Campの受講生と同じ、10代から20代前半のころに、望海さんが「やっておいてよかったこと」や「やっておけばよかったこと」はあるのだろうか。

「宝塚受験という子どものころからの夢にチャレンジしたことは、やってよかったなと思っています。10代で将来を決めるのはとても大変なことですが、あの時一歩踏み出したからこそ今があるんだと思えています。ただ、幼いころからピアノやバレエなど、クラシックのジャンルにしか触れてこなかったので、もっと幅広い音楽に触れていたら、他の好きなものもたくさん見つけられたかもしれないなとは思っています」

また限られた役柄をつかまねばならない宝塚歌劇団の厳しい世界にあっては、やはり大変なこともあったそう。

「宝塚は全員がスターという考え方ではありますが、役がつくかつかないか、後ろにいるか真ん中にいるかということは常に意識していなければいけない世界ではあって、それは常に大きな壁となっていました。私はずっとトップスターになることを目標に掲げていましたが、それが叶えられたのは、当時としては比較的遅いタイミングだったんです。トップスターを目指す中で、”望海はトップ路線から外れた”と言われてしまうことも多々ありました。そういうときに、いかに腐らず、諦めずに続けられるかというのは大切かなと思います。もちろん腐りたくなるし、目をそむけたくもなる。別の道に行きたくなるときもあるけれど、とにかく諦められなかったんですね。
そういうとき、私はいろいろな先輩にお話を聞きました。優しい意見だけでなく厳しい意見もたくさんいただき、そういうときはもちろん辛いし、落ち込むこともありましたが、その言葉が数年後に生きてきたり、”あの言葉があったから今があるな”と思えることはとても多いです」

先輩からもらったアドバイスの中でも特に役に立ったことがあるそう。

「先輩に教えていただいて実践したことでいうと、”分析”は力になりました。成功している人のアドバイスを聞いて、なぜ成功しているのかを考える。すごいと思う人の何がすごいかを書き出してみて、それが自分にあるのかないのか。なぜこの人は役をもらえて自分はもらえなかったのか。そういうことを分析するようになったら、わけもわからずに落ち込むことはなくなったんです。そして、”私に足りないものはこれだった”という分析ができたら、では”身につけるためにどうしようか、身につかないようなものなのであれば、対抗できる自分の武器はなんだろう”と考えることができました。その結果、私の場合はまず、そのとき、他にはいないトップスター像を研究したんです。そして自分の特性と見比べてどんな方向性が合うかということと掛け合わせて、その先に”男くさいクラシックな男役”という一つのスター像を見出だしました。それ以降、これを意識して目指していくようになったら、たくさんの方に”望海風斗”を見ていただけるようになったんです。
本当にこれまで、多くの方に色々な言葉をもらったなと思います。その意味が本当にわかるのは5年後だったりするかもしれません。ですが、そのたくさんの言葉に助けられながら、どうしても諦めたくなくて模索した日々のすべてが、今でも壁を乗り越える原動力になっているなと感じています」

未来のアーティストたちへのメッセージ

最後にこのサイトを見ているであろう未来のアーティストたちに伝えたいことを聞いた。

「年齢を重ねてから振り返ると、その日々はすごく貴重な時間だったなと思えるものです。悩んだり自信をなくすこともあると思いますが、好きな気持ち、やりたい気持ちを大切に、壁にぶつかりながら、失敗しながらも、自分の”これだ!”というものを見つけていってほしいです」

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