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Seiko Summer Jazz Camp 2025【後編】
世界のトッププレイヤーと過ごした、濃密なジャズの5日間
- 2025/10/03
- 2025/10/03
8月11日から、和やかな中にも熱意があふれる雰囲気で進められてきたSeiko Summer Jazz Camp 2025もいよいよ5日目、最終日。これまでの研さんの成果を示すガラコンサートを迎えます。9時の始業とともに会場入りした受講生の皆さんは10時開始のリハーサルに備え、各部屋でのウォーミングアップに余念がありません。会場となる尚美バリオホールも音響チェックや段取りの確認など、入念な打ち合わせのもとに準備が進行。そんな緊張感の漂う中で目に留まったのがスタッフの皆さんの活躍でした。時間との勝負となるステージのセッティングやリハーサルでは、迅速な動きと細かな配慮が欠かせません。リハーサルの隅々に、講師陣と受講生の皆さん、そしてスタッフの方々を含めたSeikoSJCファミリーとしての強いチームワークを感じることができました。
取材・文:早田和音
撮影:amigraphy
取材日:2025年8月15日
キャンプの成果が存分に発揮されたガラコンサート
入念なリハーサルの後の午後1時からスタートするガラコンサートは、第1部(アンサンブル演奏)、第2部(ビッグバンド演奏)、第3部(授賞式)、第4部(講師陣演奏)の4部に分かれています。その大きな見どころの1つが第1部に行なわれるアンサンブル演奏。トランペット/トロンボーン/サックス/ピアノ/ギター/ベース/ドラムス/ヴォーカルの受講生8名で編成され、キャンプ初日からひとつのバンドとして一緒に頑張ってきた5組のアンサンブルが各2曲を披露するプログラムは、5日間にわたって切磋琢磨してきた皆さんにとっての晴れ舞台です。全アンサンブル演奏終了後は、ゲストとして会場にいらしたオーディエンスの皆さんからの投票によって決められるベスト・グループ賞が発表されるのですが、受講生の皆さんに過度の緊張感のようなものは見受けられません。
それぞれ個性的なバンド名が付けられた各アンサンブルの皆さんは、司会からのコールを受けて颯爽と登場。ホーン・プレイヤーの掛け合いがフィーチャーされた「Speak Low」と、スウィング感あふれる「All of Me」の2曲でオープニングを飾った〈Jazz Avengers〉から、精緻なホーン・アレンジが印象的な「What?」と、心地よいヴォーカルをフィーチャーした「It Could Happen to You」の2曲を並べた最終組〈The QD π’s〉まではつらつとした演奏が披露されましたが、印象的だったのは、どの演奏からも豊かなケミストリーが感じられたことです。ソリストのフレイズの変化を捉えてコンピングを変えていくピアニストや、当意即妙のショットを送るドラマー。その逆にリズム・セクションから出されたアイデアを受けてソロのテイストを変化させていくソリスト。そのインタープレイの数々からは、キャンプ5日間を共有した友人同士の感謝のメッセージが聴こえてくるようでした。各アンサンブルの演奏曲と、演奏後に贈られた講師からのメッセージをお伝えしましょう。


Group 1 〈 Jazz Avengers 〉 演奏曲:「Speak Low」、「All of Me」
担当講師のベニー・ベナック&ダン・ニマーからのコメント
ベニー:「このような才能豊かな生徒さんたちを指導できたことを本当にうれしく思っています。生徒さんたちだけでなく、ダンと僕たちふたりにとっても楽しい経験でした」
ダン:「僕のクラスだけでなく、キャンプに参加している皆さんを誇りに思っています。今後、皆さんがさまざまなバンドで演奏を重ねていくのを目にするのが楽しみです」
Group 2 〈 Team J & J 〉 演奏曲:「Soulful Mr. Timmons」、「Black Nile」
担当講師のジョセリン・グールド&守屋純子からのコメント
守屋:「素晴らしい演奏でした。皆さんが一日ごとに成長していく様子を見るのがとても楽しく、私自身も勉強になりました」
ジョセリン:「皆さんで力を合わせることによって、皆さんが自分の能力を発揮。素敵なアンサンブルに発展していくのがとてもうれしかったです」
Group 3 〈 Diego & The Text Messengers 〉 演奏曲:「Bracero」、「How High the Moon」
担当講師のディエゴ・リヴェラからのコメント
「受講生の皆さんと心をひとつにして進めることができてうれしかったです。皆さんの成長を誇りに思っています。今後、音楽を愛する人たちを幸せにしていってください」
Group 4 〈 B# Swingers 〉 演奏曲:「Black Coffee」、「Honeysuckle Rose」
担当講師のアリシア・オラトゥージャ&中村恭士からのコメント
中村:「演奏を重ねるにつれて会話も増え、みんなの人間性が発揮されていくことに感動しました。演奏のレベルも毎年上がっていって、僕もこのキャンプに参加するのを楽しみにしています」
アリシア:「みんながあらゆる場面でサポートし合っていました。今後の人生においても互いにサポートし続けるだろうと感じています」
Group 5 〈 The QD π’s 〉 演奏曲:「What?」、「It Could Happen to You」
担当講師のクインシー・デイヴィスからのコメント
「皆さんが難しい曲とアレンジにチャレンジして、とても成長しました。皆さんは素晴らしいミュージシャンであると同時に素晴らしい人たち。指導できたことを誇りに思います」

受講生40名の心がひとつになったビッグバンド演奏
その後ステージは、ホーン奏者の生徒が一堂に会したホーン・セクションと、1曲交替でメンバーを入れ替えるリズム・セクションが合わさった、受講生全員参加のビッグバンド演奏5曲の披露。複雑なコード進行で知られるジョン・コルトレーンの名曲をスウィンギーに仕上げた「Giant Steps」から、守屋純子がミシェル・ペトルチアーニに捧げて書いたオリジナル曲「Michel」、スタンダード曲「Moon River」、マイケル・ディーズの作品「Relentless」を経て、ロイ・ハーグローヴの名曲「Ms. Garvey Ms. Garvey」のウキウキするようなシャッフル・リズムでハッピーにフィニッシュ。いずれもかなりの難曲なのですが、それを感じさせない受講生のタイトな演奏に驚くとともに、それを可能にした講師陣の情熱と受講生の皆さんの熱意に対する敬意がわきあがってきます。

喜びにあふれた表彰式
受講生全40名の心がひとつになった力強い演奏で盛りあがった後は、キャンプ中に大きな成果をあげた受講生をたたえる授賞式です。キャンプ参加者の中で最もすぐれたプレーヤーに贈られる最優秀賞1名をはじめ、7名に対して、本キャンプの特別協賛、セイコーグループ株式会社 代表取締役会長 兼 グループCEO 兼 グループCCO服部真二氏から賞状や賞品が贈られ、最も優れた演奏を行った管楽器奏者に贈られるヤマハ賞が株式会社ヤマハミュージックジャパンの米田倫之氏から授与。そしてオーディエンスの投票によって選ばれたベスト・グループ賞がマイケル・ディーズから手渡されました。受賞者の喜びの声をお届けしましょう。
最優秀賞 / Most Outstanding Student Award
トロンボーン・大迫日和さん (21歳)
ジャズキャンプ参加者の中でもっとも優れたプレーヤーひとりに授与。賞品および副賞としてトロフィー、レディスウオッチ「セイコールキア」、2026年6月にアメリカ ノースカロライナ ブリバードで開催される約2週間の教育プログラム「Jazz Institute at Brevard Music Center」への参加権が授与されました。
大迫さん「予想外のこと過ぎて、まだ実感がわいていませんが、素晴らしい講師の皆さんに、私が頑張ったと認めていただけてとてもうれしいです。これからもっと頑張って、ジャズというジャンルにとらわれないような大きなトロンボーン・プレイヤーになりたいと思います」
特別賞 / Special Recognition Award
トランペット・西村大地さん(18歳)
将来のジャズ・シーンを担うニュー・ホープに授与。日本を代表する今は亡き音楽家でSeiko Summer Jazz Campの名誉チェアマン、前田憲男氏を偲んで創設された賞。賞品および副賞としてトロフィー、腕時計「セイコー5スポーツ」が贈られました。
西村さん「自分が賞をいただけるとは思ってなかったので、呼ばれた時は本当にビックリしました。僕はクラシック音楽も演奏しているので、クラシックとジャズの二刀流で活躍できるような奏者になりたいと思っています」
スピリット・オブ・ジャズ賞 / Spirit of Jazz Award
ドラム・西脇悠人さん(16歳)
最もジャズ・スピリットに溢れた演奏を行ったプレイヤーに授与。賞品および副賞としてトロフィー、腕時計「セイコー5スポーツ」が贈られました。
西脇さん「頑張りを認めてもらえて、こんなすごい賞をいただけてとてもうれしいです。将来はアメリカにジャズ留学をして、向こうでも活躍できるようにドラマーになりたいです」
優秀賞 / Best Arrangement & Composition Award
トランペット・菊池立起さん(21歳)
受講生から提出された作・編曲作の中からから最も優れた作品の作者に授与。賞品および副賞としてトロフィー、セイコー「マルチサウンドクロック」が贈られました。
菊池さん「作曲と向き合っていきたいという自分の強い気持ちを評価していただけて光栄に思います。オリジナル作品をたくさん作っていきたいし、ビッグバンド作品も書いてみたい。さらにアレンジの力も伸ばしていきたい。いろいろな面で頑張っていきたいです」
優秀賞 / Most Improved Award
サックス・石脇陽太さん(23歳)
ヴォーカル・金田来瞳さん(23歳)
ベース・城島叶愛さん(23歳)
ジャズキャンプ5日間で成長が著しい3名に授与。賞品および副賞としてトロフィー、セイコー「マルチサウンドクロック」が贈られました。
石脇さん 「参加した大きな目的は、もっとジャズを勉強したいということでした。賞のことはぜんぜん頭になかったので、驚いています。今後は、絵画や演劇、詩などと結びつくような、広がりのある音楽を生み出でるアーティストになりたいと思います」
金田さん 「SeikoSJCに参加できたことすら信じられなかったのに、まさか賞をいただけるなんて思わなかったです。講師のアリシア(・オラトゥージャ)さんのように、いろいろなジャンルが歌えるシンガーになりたいです」
城島さん 「こんな大きな賞をいただけるなんて本当に予想外でした。うれしさで胸がいっぱいです。(中村)恭士さんのようなスケールの大きいベーシストを目指します」
ベスト・グループ賞
Diego & The Text Messengers / 担当講師:ディエゴ・リヴェラ
トランペット・菊地立起さん(21歳)
サックス・伊藤琢真さん(23歳)
トロンボーン・二見俊弥さん(20歳)
ピアノ・岸本凛太郎さん(24歳)
ギター・後藤夢也さん(23歳)
ベース・城島叶愛さん(23歳)
ドラム・倉沢虹太さん(21歳)
ヴォーカル・金田来瞳さん(23歳)
ガラコンサートのオーディエンスから最も多くの投票を受けたグループに授与。賞品および副賞としてメダル、セイコー「ミニスポーツタイマークロック」が贈られました。
ヤマハ賞
トランペット・龍野日菜子さん(21歳)
サックス・伊藤琢真さん(23歳)
トロンボーン・大西柚月さん(20歳)
最もすぐれた演奏を行なった、サックス奏者、トランペット奏者、トロンボーン奏者に授与。賞品および副賞としてヤマハ ワイヤレス・イヤホン「TW-E7B」が贈られました。


来年で10周年を迎えるSeiko Summer Jazz Camp
SeikoSJC 2025すべてのプログラムが終了したところで、講師リーダーのマイケル・ディーズに話を伺いました。
――キャンプ日程を終えた今のお気持ちをお聞かせください。
キャンプを通じて、受講生たちと一緒に最高レベルの音楽を演奏して、最高に楽しい時間を過ごしてきましたし、過去の卒業生を含めたSeiko SJCファミリーの皆さんにもお会いすることもできました。本当に素晴らしい5日間だったので、もっとみんなと一緒にいたかったという気持ちがわいてきています。
――今年のキャンプについての感想をお聞かせください。
今年のキャンプは、アンサンブルのレッスンをすべて聴いて回り、ビッグバンドの指揮も担当。生徒全員と触れ合えました。今年の受講生は、これまでで最高レベルだと確信できたので、今まで以上にチャレンジングな音楽に取り組み、よりエキサイティングなソロに挑んでもらうことができました。最高のコミュニケーションと楽しさを同時に実現するというジャズのミッションを達成できたと思います。次回のSeikoSJC 2026は私たちにとっての10周年(2020年、2021年はコロナ禍のためリモート開催)。来年も、意欲あふれる若者たちと一緒に学びたいと思います。
