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【前編】真夏の集中講座で燃え上がった若者たちの裡(うち)に秘めたジャズ魂

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【前編】真夏の集中講座で燃え上がった若者たちの裡(うち)に秘めたジャズ魂

2018年に開催されたSeiko Summer Jazz Camp 最終日8月17日のレポート 前編

記録的な猛暑と、イレギュラーな軌道を描いて日本への上陸をうかがう台風に悩まされた2018年の夏。
8月14日から17日の4日間の日程で、今年もSeiko Summer Jazz Camp(SSJC)が行なわれた。
当キャンプは2016年からスタートし、尚美ミュージックカレッジのキャンパス(東京・本郷)を舞台に3回目の開催。

“キャンプ”という言葉は、日本では野営やスポーツの合宿に用いられることが多いけれど、仲間が集って同じ時間を過ごすイベントを意味することもある。
SSJCというキャンプは、“ジャズ”を学びたいという国内の若者に対して門戸を開き、世界を舞台に活躍する演奏家たちが講師としてそれを迎えるという、“真夏のイベント”だ。
さて、今年はどんな仲間が集って、どんな同じ時間がシェアされたのか。
最終日、8月17日を前編と後編に分けてレポートしてみたい。
前編は、4日間の総まとめとして午前中に行われた、パートごとの講義の様子をお送りしよう。

料理人が包丁を研ぐように、ピアニストはイスを調整するんだ!

今回もSSJCでは、受講生がジャズ漬けの実践的な4日間を送るためのプログラムが組まれていた。

そのプログラムを受ける幸運に恵まれたのは、演奏動画を応募し、講師の選考を経た、全国から選りすぐりの面々だ。

募集は、ピアノ、ベース、ドラムス、ギター、トランペット、トロンボーン、アルト・サックス、テナー・サックス、バリトン・サックス、ヴォーカルの楽器ごとに行なわれ、開催3年目にして応募数も増加。その選考は年々「狭き門」になりつつあるという。

初日から3日間の午前中は、小編成によるアンサンブルを学ぶため、5つのグループに分かれて指導を受けるプログラム。

午後は、ホーン・セクションとリズム・セクション、ヴォーカルごとに、ビッグバンドでのパフォーマンスを体験する時間が割り当てられ、その後に楽器ごとに分かれての講義が続く。
2日目と3日目の10時からの1時間は、作曲とアレンジについて学ぶ時間も設けられるなど、それぞれ1〜2時間ずつという短い枠ながら、プレイヤーとしてジャズを俯瞰できるカリキュラムが組まれていたと言える。
最終日の朝は、楽器別のマスタークラスからのスタートだった。

4つのクラスを駆け足で見学させてもらったのだが、さぞかし難しいパッセージの弾き方やら複雑なコードへの対応なんかを詰め込まれるのかと思ったら、さにあらず。

ピアノ・クラスの講師、大林武司が語り始めたのは、ピアノを弾く姿勢と、それに大きく関係するイスの調整の重要さだった。

トロンボーン・クラスのマイケル・ディーズは、スケールやトリルのフレーズを超速で実演してから、「速く吹くためには頑張ってもダメ。リラックスすることが大切なんだ」というコツを伝授していた。

ドラム・クラスのクインシー・デイビスは、ビバップを代表する巨匠たちのフレーズを実演しながら、アクセントの置き方で印象が変わることや、そこから生まれるイントネーションがバンドのカラーに大きな影響を与えることを伝えようとしていた。

受講生に「枯葉」を弾いてもらったギター・クラスのヨタム・シルバースタインは、「歌詞を歌いながらプレイできるようになれば、もっと深いイメージを生んで、リスナーとの共感点も広げることができる」と、実践的なアドバイスをする。

講師たちは、自らのトレーニング方法を実演をまじえて解説したり、ジャズを始めたきっかけや楽器遍歴を語ったりと、一方的に知識だけを詰め込むようなコーチングではなかったことも印象的だった。

時間的な制約があるキャンプという場において、効果を焦る気持ちは、受講生だけでなく講師側にもあって不思議はない。しかし、「演奏できること」が「ジャズをプレイできること」とはイコールではない。それを知っている最前線のプロたちだからこそ、こうしたプログラムが可能になっていることがうかがえる。
それは、教本やDVD、YouTubeの演奏映像だけでは得られない、双方向で密接な関係性が築かれていなければできない、「ジャズという時間の共有」だった。
さて、午前中の講義が終わると、受講生はあたふたと短い昼休みのうちにランチをとらなければならない。その次に用意されている「ガラコンサート」の準備をしなければならないからだ。 17日午後のプログラムについては、後編へ。

【後編】真夏の集中講座で燃え上がった若者たちの裡(うち)に秘めたジャズ魂(別窓で開く)

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