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Seiko presents “Starry Night Concert” に抜擢されたSeikoSJC卒業生によるスペシャルトーク

Interview

Seiko presents “Starry Night Concert” に抜擢されたSeikoSJC卒業生によるスペシャルトーク

2017年参加者 / トランペット 枝次竜明、2022年参加者 / アルトサックス 佐々木梨子、 トロンボーン 春木香菜絵

Profile

  • 枝次竜明(えだつぎ りゅうめい)

    枝次竜明(えだつぎ りゅうめい)

    枝次竜明(えだつぎ りゅうめい)

    トランペット奏者
    2000年 大分市生まれ。中学の吹奏楽部でトランペットを始め、高校進学を機にジャズを勉強し始める。大分県立爽風館高校在学中より九州、関西、沖縄のジャズスポットでライブを繰り広げ、プロ奏者とのセッション、サポート演奏を多数経験。その活動は地元メディアの目にもとまり、卒業式までの一年半にわたって密着取材を受けて、『ドキュメント九州』などで紹介される。高校卒業前後はアメリカとドイツを単身旅行し、セッションに挑む。帰国後は『ホルト 新緑コンサート』『KOBE みなとまつり』等に出演。2022年より大分県立 芸術文化短期大学 作曲科に入学し、ライブ活動と並行して作曲家としての技能を磨いている。現在は大分を拠点に活動中。

  • 佐々木梨子(ささき りこ)

    佐々木梨子(ささき りこ)

    佐々木梨子(ささき りこ)

    アルトサックス奏者
    2004年、北海道札幌市生まれ。8歳からアルトサックスを始める。2013年から6年間、札幌ジュニアジャズスクールに在籍し、渡辺貞夫、デビッド・マシューズらに師事。2018年の北海道グルーブキャンプでグルーブキャンプ賞を、2019年にバークリー賞を受賞。2022年、米国バークリー音楽大学の5週間のプログラムに授業料・寮費免除での参加をし、同大学の全額奨学金を獲得。
    Seiko Summer Jazz Camp 2022に参加し特別賞を受賞。10月には自身を特集したNHKの番組が放送され、反響を呼んだほか、12月の「スターリーナイトコンサート」では日野皓正、大林武司と共演。高校を卒業して、現在は札幌市内を中心に演奏活動中。

  • 春木香菜絵(はるき かなえ)

    春木香菜絵(はるき かなえ)

    春木香菜絵(はるき かなえ)

    トロンボーン奏者
    横浜生まれ。笹下中学校ジャズ部でトロンボーンとビッグバンドに出会う。
    高校3年間みなとみらいSuper Big Bandに所属し、その後昭和音楽大学ジャズコースに入学。公認サークルLily Jazz Orchestraで2年間コンサートミストレスを務め、山野ビッグバンドジャズコンテストにて2018年に審査員賞、2019年にJ-WAVE賞を受賞。
    角松敏生ツアーBreath From The Season 2018 沼津公演、小曽根真presents JFC All-Stars 2018、本田雅人B.B. Station Blue Note Tokyo公演2019, 2021, 2022、中塚武×五十嵐誠 with Big Band Cotton Club公演 2021に出演。
    Seiko Summer Jazz Camp 2022に参加し、YAMAHA賞を受賞。
    現在ジャズを中心に幅広く活動しており、自身のオリジナル曲を制作しながら定期的にリーダーライブを開催している。中路英明氏、片岡雄三氏、池田雅明氏、駒野逸美氏に師事。

バンドのホーンセクションで演奏したキャリアについて

Seiko Summer Jazz Camp(以下Seiko SJC)の卒業生である枝次竜明、佐々木梨子、春木香菜絵の3名は、すでにプロとしてキャリアを積んでいる若き才人たち。2023年5月23日に東京・浜離宮朝日ホールで開催されたコンサート《Seiko presents “Starry Night Concert” vol.28》で、スリー・ホーンズ(3管)を結成し、スウェーデン若手トップの実力派歌手として知られるイザベラ・ラングレン&Her Trioと初共演した。無事に大舞台を務めた3名に、終演直後のタイミングで自身のキャリアと当夜の演奏について語ってもらった。

枝次:この3人でホーンセクションを組んだのは、今日が初めてでしたが、ぼくはちょうど1年前に同じホールで開催された《Seiko presents“Starry Night Concert”SPECIAL STAGE》で、Seiko Summer Jazz Campで講師としてお世話になったピアニストの大林武司さんが率いるトリオと共演しています。その時はトロンボーンの治田七海さん(SeikoSJC2019参加)、テナーサックスの曽我部泰紀さん(SeikoSJC2016参加)と組んだ3管のセイコージャズキャンパーズとしての出演でした。それ以外のホーンセクションでは、大学のジャズ研で大型の編成で演奏した経験があります。

佐々木:私は高校時代(2023年3月に卒業したばかり)に、何度かホーンセクションに加わったことがあります。

春木:私も経験があります。昭和音楽大学を卒業してから、最近ではベーシストの安カ川大樹さんの3管セクステットで毎月ライブに参加させていただいています。

枝次:今日は3人が初めて組んだホーンセクションで、初めてイザベラ・ラングレンさんたちとの共演という、特別なステージでした。

佐々木:まず、楽しかったという気持ちが一番大きいですね。ヨーロッパ、中でも北欧のミュージシャンと演奏する機会は今までなかったので、今回の機会をうれしく思っています。感謝の気持ちでいっぱいです。

春木:私がリーダーを務めるライブではボーカルを担当する機会もあるので、シンガーをよく聴きます。ただシンガーと共演する機会は少ないので、今回はうれしかったですね。3管の一員としての演奏は、ボーカリストといっしょに歌っているような形になるので、そのサウンドが素敵。高校1年生の時にスウェーデンに行ったことがあって、そのことを思い出しながら演奏しました。当時はジャズをやっていたけれどアドリブはまったくしていなくて、子どもたちと単にジャズを演奏する感じでした。(当時よりレベルの上がった)今の自分でまた行けたらいいなと思っています。

枝次:イザベラさんとお会いするのは、今日の昼間のリハーサルが初めてでした。ぼくも歌を歌うので、ボーカリストの気持ちは理解できます。イザベラさんの自由な歌声に導かれるように演奏できて、すごく楽しかった。スウェーデンからいっしょに来日したトリオの皆さんの演奏もかっこよかったし、楽屋でお話ししたときも皆さんすごくフレンドリーに接してくださって、うれしく思いました。

セイコージャズキャンパーズの魅力を引き出した秀逸なアレンジ

当夜のステージで、イザベラ・ラングレン&Her Trioとセイコージャズキャンパーズは、イザベラのレパートリーであるスタンダード・ナンバーから「カム・レイン・オア・カム・シャイン(降っても晴れても)」「ホエア・オア・ホエン」「シンギン・イン・ザ・レイン(雨に唄えば)」の3曲で共演した。

枝次:「カム・レイン・オア・カム・シャイン」と「ホエア・オア・ホエン」は以前、演奏したことがあります。今回のホーン・アレンジはピアニストのカール・バッゲさんだったのですが、本番前にカールさんとお話をしたら、すごく柔らかい方で、英語が上手ではないぼくを気づかってくれました。そのようなお人柄がアレンジにも出ていると思います。3管は色々なことができる編成なので、ソロイストをフィーチャーした上で様々なシーンを作ってくれたのが素晴らしい。ぼくたちに編曲を通じて「いっしょに音楽をしようよ」というメッセージを送ってくれたと感じました。

佐々木:私も「カム・レイン・オア・カム・シャイン」と「ホエア・オア・ホエン」は演奏したことがありますが、自分のソロで、2管のバッキング(伴奏)が入るアレンジがすごくかっこいいと思いました。ソロイストのバックでも他の2管が演奏するアレンジは3曲に共通していて、それが特徴だと感じました。私が普段のライブで演奏するのは小編成が多いのですが、今日の3管ではソロ・パートでバッキングがあるのとないのとでは、こういう違いがあるのだなと新たな発見をしました。新鮮な気持ちで演奏できましたね。

春木:私は3曲とも初めての演奏でした。3管のアレンジは安カ川さんのユニットで自作曲や他のナンバーでも演奏しているので、経験があります。バッゲさんのアレンジは楽曲の全体を見た時に、ここでこういうサウンドをして物語が進む、という展開がわかりやすかった。指示もきちんと書いてくれて、誘ってくれる譜面と演奏だったので、それが勉強になりました。竜明君のソロの時は彼のソロから私もメロディを作っていくアレンジで、その点をバッゲさんと話した上で演奏できたのがよかったと思います。

Seiko Summer Jazz Campがきっかけとなって生まれた活動

枝次:佐々木さんと春木さんは東京で活動していますが、ぼくは今でも拠点が大分。その点ではSeiko SJCとそれほど密接に関わることはありませんが、そこで知り合った人やそれをきっかけに知り合った人とは、Seiko SJCを通じたつながりがある気がしています。

佐々木:去年(SeikoSJC2022)の参加者とはSeikoのイベントや、高田馬場カフェコットンクラブでの卒業生ライブで共演しています。2月のステージは井口大夢(Pf)さん、原田優真(Gt)さん、嵯峨協(B)さん、山崎隼(Dr)さんという同期メンバーのクインテットでしし、中村海斗(Dr)さん(SeikoSJC2018参加)とは札幌のグルーブ・キャンプで知り合って、その後、東京で共演する機会をいただき、2022年のSeikoSJCに参加する前の4月にカフェコットンクラブの卒業生ライブで共演。そういったつながりもあって中村さんのリーダー作『BLAQUE DAWN』にも参加しました。

春木:私が参加したSeikoSJC2022の受講者は約40人。その中の10人は以前からの知り合いで、その後にほかの受講者との共演関係も生まれました。2022年12月のカフェコットンクラブのリーダーライブでは、同じ(レッスン)グループだった眞崎康尚(Pf)さん、廣橋契(B) さん、山崎隼(Dr) さんとのカルテットで出演しています。

Seiko Summer Jazz Camp 2023のメインテーマにちなんで

2023年のSeiko SJCのメインテーマは“Jazz is the Rhythm of the Earth!ジャズは大地のリズムだ!”。ジャズの重要な要素である躍動するスイング感、グルーブ感は大地のリズムがルーツであり、リズムの基本と歴史を勉強することでジャズのリズム感を身につけることが提案されている。このテーマを受けて、3人それぞれが自身のジャズに対する考えを披露した。

佐々木:「大地のリズムを感じること」は自分が目標にしていることでもあるので、リズムについて真剣に考えることはとても大事だと思います。実際に自分も去年(2022年)参加して、スイングについての考え方を、もっと意識するようになりました。それはリズムのとらえ方だったり感じ方に関して、説明されたからできるようになったのではありません。先生たちの演奏を聴いて自分で発見することが大切で、もっとスイング力を高めていきたい、と思いました。

春木:私が去年のSeikoSJC2022で感銘を受けたのは、ジャズがどのような音楽なのかを知ったこともそうですが、それ以上に先生たちが受講者のマインドを引き出そうとしてくれたことです。SeikoSJC2022のテーマは「Smile When You Play Blues! ブルースで笑顔を咲かせよう!~苦しみ・悲しみを乗り越えて~」で実力派プレーヤーからジャズのルーツであるブルースを学び、ジャズを奏でることを楽しむためのカリキュラムとなっていました。だからジャズを理解する上でブルースが重要なものだ、ということを教えてもらえたし、自分では気が付かなかった意識を引き出してくれました。そのことがわかったから、ブルースのことも理解できたのです。 私が今年の受講者だとしたら、まず白紙の状態で臨みたいと思います。先生たちの言葉がすんなりと入るように。邪念を払って、先生たちと心と心で向き合いたいですね。

枝次:ぼくが参加した2017年は、まだテーマの設定がありませんでしたが、ニュー・センチュリー・ジャズ・クインテットの皆さんが先生で、ぼくと同じく当時17~18歳の受講者で編成されたビッグバンドで演奏する授業がありました。今でもよく覚えているシーンがあります。何かリズムがしっくりとこなかった時に、講師のユリシス・オウエンズ・ジュニア(Ds)さんが叩いてくれたら、めちゃくちゃ雰囲気が変わってジャズになったのです。この体験があったので、同じ楽譜で演奏しているのに、その違いは何なのか、またリズムとは何なのかをキャンプの期間中ずっと考えていました。キャンプはそのようなことを考える時間でもあるし、言葉で表現できないことを感じ取る貴重な時間になったと思います。

2023年、そして将来のSeiko Summer Jazz Camp受講生へのメッセージ

佐々木:リズムについての知識を深めて、それを絶対に吸収してほしいです。すごく有意義な時間になるはずなので、ぜひ色々なことに挑戦して楽しく受講していただけたらと思います。

春木:すごく貴重な時間です。違う環境で音楽をやっている人たちの音を浴びられるのと、素敵な仲間ができることを楽しみに参加してほしいですね。

枝次:まだプロではない若い受講生が多くて、それは周りにライバルがいる状況ではあるけれど、先生は皆さん優しいし、あまり遠慮はせずに先生にどんどんかぶりつくような気持ちで臨むとよいと思います。これは自分のことを反省した上でのアドバイスですが(苦笑)。もし自分がもう一度受講できたら、グイグイいきたいし、これから受講する皆さんもそうであってほしいです。

8月14日(月)~18日(金)に開催されるSeiko SJC 2023の合格者が発表された。今回の合格者は40名(8楽器各5名合格)。

Seiko Summer Jazz Camp 2023 合格者発表のお知らせ

スウェーデンの歌姫から見た、セイコーサマージャズキャンパーズとは…

今回のコンサートのメインゲストの一人でもあり、日本でも人気と評価を確立しているスウェーデンの若手女性ボーカリストのイザベラ・ラングレンにも、終演後に話を聞くことができた。

――今回が6度目の来日になるが日本で演奏できる喜びとは

子どもの時の私は、遠い場所へ行って歌うことが夢でした。2015年の初来日以来、日本は世界で最も好きな国で、とてもスピリチュアルな国だと感じています。歴史と文化の大地にしっかりと根を下ろしているからです。観客は、音楽を神聖なものとして聴くことができて、それはどんな演奏家にとっても贈り物となります。多くの日本の人々は、いつも私に対して敬意と寛大さをもって接してくれました。


――今夜のコンサートを振り返って

3人の若い日本人ミュージシャンと共演することができて、とても特別で楽しかった。素晴らしい時間でした。


――これまでトリオ+3管の編成で歌う機会は?

それほどは経験していません。ビッグバンドや弦楽四重奏との共演はありますが、3管は珍しいです。その意味で、今夜のコンサートは私にとって特別なものになりました。


――編曲を担当したのは(Trioで一緒に演奏している)ピアニストのカール・バッゲです。

彼は、試さずにシンプルなスコアを書くのがとても上手です。シンプルだけれど洗練されたものを書けるアレンジャー。今日の午後、一度だけ曲を通しで演奏する時間があって、彼は本当に状況を考えて書くから、リハーサルは一回で十分でした。スコアにドラマを加えることで、小さいけれど複雑なハーモニーを奏でるのです。彼は素晴らしいアレンジャーだと思います。


――演奏するにあたって、普段から心がけていることは

ただ、気持ちよくなること。頭でっかちにならないように。自分の音はどうだろう?リスナーは私のことをどう思っているのだろう?これでいいのだろうか?…こんな風に考えることが、不安と失敗の原因になってしまう。だから気持ちよくなれることを心掛けるのが大切なのです。


――セイコージャズキャンパーズの印象

彼らはとてもスキルが高く、準備万端で良い仕事をしてくれました。とても尊敬できる人たちです。ステージで言ったように、人間として、そしてミュージシャンとして最も重要なのは、新しい知識や情報を得ようとする好奇心です。そして彼らは皆、好奇心旺盛で、色々な質問をして、知りたがっていました。それが一番大事なことなのです。

イザベラ・ラングレン Isabella Lundgren
ジャズ・ボーカリスト
スウェーデン・カールスタード生まれ。高校の音楽科で学び、2006年から2010年までニューヨークのニュースクールに留学。音楽活動も行う。2010年に帰国。2012年に『It Had To Be You』でアルバム・デビューし、翌年に『若しあなただったら』の邦題で日本デビュー。2014年の第2作『Somehow Life Got In The Way』は、母国でアルバム・オブ・ジ・イヤーを獲得。2015年『Isabella Sings The Treasures of Harold Arlen』のリリースを記念して、初の日本ツアーを行う。2018年、スウェーデンと日本の友好条約締結150周年を記念し、旅をテーマにした『Hit The Road To Dreamland』(以上、国内盤はSpice of Life)をリリース。

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