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大林武司と卒業生の共演!Seiko presents “Starry Night Concert” SPECIAL STAGE

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大林武司と卒業生の共演!Seiko presents “Starry Night Concert” SPECIAL STAGE

2022年5月24日@東京・浜離宮朝日ホール

セイコーホールディングス株式会社が主催する“Starry Night Concert”は、2007年にスタートしたライブ・イベントで、2016年に第1回が開催されたSeiko Summer Jazz Camp(以下SSJC)のチェアマンを務めるなど、同社と深い関係を築いたジャズ・ピアニスト/作編曲家の故・前田憲男とゲストが出演するコンサートとして、26回を重ねてきた。当夜はこれまでのシリーズとは趣を変えた《Seiko presents “Starry Night Concert” SPECIAL STAGE》と題して、フレッシュなミュージシャンたちが第1部のステージを飾った。

ステージの幕開けを飾った大林武司トリオ

出演者の大林武司(おおばやし たけし)とジャズキャンパーズは、SSJCの初年度から現在まで講師を務め、他の米国人講師陣と受講生との懸け橋も担っているピアニストの大林が、SSJCの卒業生であるミュージシャンと編成した3管セクステット。この顔ぶれは当夜が初共演のお披露目ステージとあって、多くの観客には期待が膨らんでいたようだった。
最初に登場したのは大林、ベースの米澤毅風(よねざわ きふう)、ドラムの中村雄二郎(なかむら ゆうじろう)のトリオで、まずはバンドのリズム・セクションであり、日本人に最も好まれている編成のピアノ・トリオからスタートする趣向だ。
1曲目の「テイク・ファイブ」は1960年代に変拍子を使った楽曲で人気を博したデイブ・ブルーベック(p)・カルテットの、最大のヒット曲で、カルテットのメンバーであるポール・デスモンド(as)が作曲した5/4拍子のナンバー。この曲は主催者から「メジャーな曲を演奏してほしい」と依頼を受けた大林が、自身のソロ・ピアノ公演で最も多くリクエストされる曲ということで選んだとのこと。ベースのイントロに続き、トリオ合奏のテーマではモーダルなテイストが新鮮で、2番手のソロを担った大林は60年代にモード・ジャズを発展させたジョン・コルトレーン(ts,ss)・カルテットのマッコイ・タイナー(p)を想起させるプレイを聴かせた。エンディングではピアノ音を上昇させながら、ピタリと着地。
「Jazz At Lincoln Center Dohaにおいて自己のトリオで演奏した動画がYouTubeに上がっていたりと、これまで数回演奏したことがありましたが、今回はキーや構成のアレンジを刷新して原曲の曲調と少し差異をつけました」(大林)。
トリオによる2曲目もやはり主催者からのリクエストを受けた「見上げてごらん夜の星を」。63年に坂本九の歌唱でヒットし、「上を向いて歩こう」に次ぐ代表曲として知られるナンバーは、“星”で思いつく歌としては邦楽曲の中で最も人気が高く、当夜のイベント名からは最も相応しい選曲であることが明らかだ。ピアノ・イントロを皮切りにトリオがテーマを演奏するスロー・ナンバーで、ここでもピアノのドラマティックなテーマ変奏が印象的。
「最近の気分でリアレンジして演奏しました」と語った大林によるエンディングの締めも見事だった。

管楽器3名が加わったフルメンバーのパフォーマンス

ここでトランペットの枝次竜明(えだつぎ りゅうめい)、トロンボーンの治田七海(はるた ななみ)、テナーサックスの曽我部泰紀(そがべ やすき)が登場して、ジャズキャンパーズが揃い踏みとなり、ステージが一気にカラフルに。
「日本は街中でジャズが流れているほど親しまれていて、日本のジャズは世界で最もレベルが高い」と大林の前振りMCで始まったのは、「イン・ケイス・ユー・ミスト・イット」。50年代からモダン・ジャズ・シーンを牽引してきたアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ(JM)の、ウィントン・マルサリスが在籍した80年代のレパートリーで、大林は自身が共同設立者となった日米精鋭ユニット、ニュー・センチュリー・ジャズ・クインテットの2015年発表作『イン・ケイス・ユー・ミスト・アス』に収録していた。
リーダーのブレイキーは若手俊英を起用しながら常に新陳代謝を図ってJMを運営し、80年代に一大潮流を巻き起こすことになるマルサリス兄弟ら新伝承派の後見人的な役割を担った。この事実と踏まえると、大林とジャズキャンパーズの関係性が二重写しとなり、“ジャズ道場”を設定した親心も透けて見える。
先発ソロの曽我部は意外にもゴリゴリのテナー吹奏で、個性をアピール。2019年のSSJCで最優秀賞に輝いた治田は、速いパッセージやルートから敢えて外れたラインを作って、プロ・キャリアを築いた今を示した。エンド・テーマでは全員が入り乱れて、ブレイキー流の強弱をつけたサウンドで、モダン・ジャズの継承に共鳴。大林の選曲にあたっては動画サイト上にある81年のJM演奏「フラー・ラブ」(「イン・ケイス~」の異名同曲)を、メンバーが共有したとのことで、マルサリス兄弟を含むセクステットの動画にジャズキャンパーズが刺激を受けてステージに臨んだことが想像に難くない。
3曲を披露した後、SSJCに特別協賛しているセイコーホールディングスの代表取締役会長 兼 グループCEO兼 グループCCO 服部真二が登場。ジャズキャンパーズとの初共演で「アイブ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン」「スターダスト」の2曲を歌いあげ、今夜大活躍したメンバーを紹介した。
枝次は大分市生まれで2017年参加者。アメリカとドイツで単身のセッションに挑んだ意欲的なミュージシャン。治田は小学生でトロンボーンに出会い、17歳で2019年のSSJCに参加。期待の若手としてジャズ界から注目を集めている。曽我部は大阪府出身の25歳。大学在学中の2016年にSSJCに参加し、地元での活動を経て現在は東京で活動中。米澤は94年生まれで、高校時代にコントラバスと電気ベースを始め、2018年にSSJCに参加。中村は東京都出身で、米バークリー音楽大学で学び、現在は関西を中心に活動している。

約50分間にわたる大林武司とジャズキャンパーズによるステージは、この10年間、日米を股にかけてメインストリーム・ジャズ・シーンの最前線で活躍してきた大林が、SSJCでの指導者としての経験を踏まえたリーダーシップを発揮。卒業生たちの若々しいエネルギーとの相乗効果が生まれ華やかなステージを披露してくれた。

ジャズキャンパーズとの初共演を終えた大林武司が語る当夜のステージ

終演後、大林に当夜を振り返ってもらったので、以下に紹介したい。

●ジャズキャンパーズの人選について

「ニュー・センチュリー・ジャズ・クインテットのコンセプトを体現できるメンバーで演奏したいと思いお声かけしました。蓋を開けてみるとオンステージでもオフステージでも凄く雰囲気が良く前向きで、技術も大切ですが人間性も演奏やアンサンブルに大きく影響するなと改めて思いました。また、枝次さん、米澤さん、中村さんはそれぞれ九州関西ベースで活動されていますが、今回のコンサートをきっかけに御三方の素晴らしさを伝えて、東京のシーンでの認知度を少しでも上げたいという思いも、人選を行う際にありました。米澤さんと中村さんは関西での共演歴が多くこちらも決め手になりました。トランペットの廣瀬未来さんや、ベースの粟谷巧さんらがそうだったように、地方ベースでも豊かな音楽性を体現できるミュージシャンは、居住地関係なくジャズシーンの中心で活躍できるという流れを少しでも助長したいです」。

●SSJCの卒業生ではない中村ドラマーの起用理由

「このコンサートの前に自己のトリオで日本ツアーとブルーノートでの公演が予定されていたので、ツアーを経てぼくとのコンビネーションがある程度でき上がった状態の中村さんを、プロ野球チームの助っ人外国人枠のような形で参加して頂く事により、アメリカ仕込みのドラミングを卒業生に体感してもらいたかった」。

●当夜が初ステージとなったジャズキャンパーズと共演した感想

「初共演でしたがすごく息を合わせやすく、有機的なインタープレーが多々起こっていたのですごく楽しくやり甲斐のあるステージになりました。また共演できたらいいなと思っています!」

■Set List

①テイク・ファイブ ②見上げてごらん夜の星を ③イン・ケイス・ユー・ミスト・イット ④アイブ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン ⑤スターダスト

■Personnel

大林武司(p)とジャズキャンパーズ:[枝次竜明(tp)、治田七海(tb)、曽我部泰紀(ts)、米澤毅風(b)、中村雄二郎(ds)]

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