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前年に引き続きリアルで開催されたSeiko Summer Jazz Camp 2023

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前年に引き続きリアルで開催されたSeiko Summer Jazz Camp 2023

5日間に渡って行われた今回のジャズキャンプ。その最終日の模様をご紹介します。

日本の若きジャズ・ミュージシャンが活躍するきっかけとなる本格的なジャズ・キャンプを、ここ東京で開催したい――。その想いからセイコーグループ株式会社の特別協賛によって2016年にスタートしたSeiko Summer Jazz Campは、2023年に第8回を迎えました。
コロナ禍での2回のリモートを経て、2022年にリアル開催が復活。2023年は8月14~18日に、前年までの4日間から1日増えた史上最長、5日間のキャンプが実現しました。

Jazz is the Rhythm of the Earth!

2年連続でのリアル開催となったSeiko Summer Jazz Camp 2023は開催日程が1日増え、5日間での開催となりました。日本にいる若きジャズ・ミュージシャンの受講生たちに本場のジャズに深く触れる実体験を提供したい、そのイベント開始当初からの強い思いはまったく変わらずに、掲げたテーマは「Jazz is the Rhythm of the Earth!ジャズは大地のリズムだ!」でした。ジャズの重要な要素である躍動するスイング感、グルーブ感は大地のリズムがルーツ。リズムの基本と歴史を勉強することでジャズのグルーブ感を身につけてほしいという意味が込められています。

オリエンテーリングで講師のジャズ・ミュージシャンたちの演奏が始まると、緊張気味の受講生の目が一気に変わり、会場全体からキャンプが始まるワクワク感が漂い始めました。2023年の講師は、リアルでの参加が2019年以来となるマイケル・ディーズ(トロンボーン)をリーダーに、ディエゴ・リヴェラ(サックス)、ベニー・ベナックⅢ(トランペット)、ロドニー・ウィテカー(ベース)、クインシー・デイヴィス(ドラム)、シェネル・ジョンズ(ヴォーカル)、ヨタム・シルバースタイン(ギター)、大林武司(ピアノ)、守屋純子(特別顧問:ピアノ・編曲)の9名。いずれも世界中で活躍しているジャズ界の偉人たちから本場のジャズを吸収する、贅沢で濃密な〈時〉が始まります。

楽器ごとに演奏技術を学ぶマスター・クラスや8人編成で課題曲を仕上げるスモール・アンサンブル、ビッグ・バンド・アンサンブル、作曲&アレンジ・クラス、マスター・クラスなど、様々なカリキュラムと受講生たちは必死に向き合います。初日のカリキュラムこそ、固さの見られた受講生たちでしたが、胸にあふれる上達への意欲がそれを上回り、緊張を解きほぐしていったようです。2日目には受講生から積極的に先生に話しかけるようになり、演奏面でも急激な成長曲線を描き始める受講生の姿が会場中で見られました。

受講生の晴れの舞台となるGala Concert

最終日の8月18日には尚美ミュージックカレッジ専門学校のバリオホールで、キャンプのハイライトとなるガラ・コンサートが開催されました。今回のキャンプのテーマは、「Jazz is the Rhythm of the Earth! ジャズは大地のリズムだ!」。それぞれの受講者が所属する5つのグループが、キャンプで学んだ成果を発表する舞台として、午後1時から行われました。これはトランペット+トロンボーン+サックス+ピアノ+ギター+ベース+ドラム+ヴォーカルの8人編成によるジャズ・キャンプ・アンサンブル・グループが、2曲ずつ披露するもので、演奏の後に各グループの担当講師がコメントする形で進行しました。

トップ・バッターを飾ったグループ1「エーシー」は、ジャコ・パストリアス・ビッグ・バンドの演奏でも知られるスタンダード・ナンバー「インビテーション」でスタート。ピアノ・トリオの演奏を皮切りに、ファルセットを交えたヴォーカルにホーン・アンサンブルがバックをつけて、ヴォーカル&トランペットのユニゾン・テーマに落着しました。続くブルース・ナンバーの「センター・ピース」では、特別聴講生として参加した9歳のクラリネット奏者、高塚美里さんが加わった4管で演奏。ソロではトロンボーンの中牟田翼さんのプレイが印象的でした。講師のディエゴ・リヴェラは、「何よりも楽しむことを学んだメンバーに感謝。自分たちを表現する機会を持ったことは素晴らしい」と総評を述べました。

グループ2「ウエインズ・ドメイン」は、5ヵ月前に89歳で逝去したサックス奏者ウエイン・ショーターにちなんだネーミングで、1曲目はそのショーターが60年代に作曲した「ブラック・ナイル」。テーマを奏でるトランペットに2管アンサンブルが加わるテーマで始まり、3管ユニゾンに至るアレンジが特徴のインストゥルメンタル曲です。先発ソロをとったアルトサックスの鈴木真明地さんが印象的でした。20世紀のアメリカが生んだ最大の作曲家でバンド・リーダーのデューク・エリントンが書いた「ドント・ミーン・ア・シング(スウィングしなけりゃ意味ないね)」では、竹内ハナ・アーディ(ヴォーカル)さんがスキャットでスキルを発揮しました。講評ではロドニー・ウィテカーが「(講師陣の特別顧問である)守屋純子さんといっしょに参加して、多くを学んだ」と話し、守屋は「難しいアレンジだけれど、みんなよくやってくれました」と述べました。

グループ3「キュー・スナップ」は講師、クインシー・デイヴィスのイニシャルをとったネーミング。「ザ・ソング・イズ・ユー」は、テナーサックスを含む管楽器3名とドラムのイントロで始まったスタンダード・ナンバーで、堂本祥子(ヴォーカル)さんがパンチ力のある歌唱を披露しました。ビバップの創始者、チャーリー・パーカーが作曲した「シェリル」では、3管&スキャットをテーマに、ソロ・リレーを繋いでエンディングに至る構成が、“ユニゾン”を主眼に置いたアレンジであることが明らかになりました。演奏後にデイヴィスは、「みんな才能がある。教えるのが楽しかった」と講評しました。

グループ4「ネルシー」は講師のシェネル・ジョンズと大林武司の名前の一部を合成したネーミング。今回のキャンプは女性よりも男性の受講者が多い中で、このオクテットは唯一の男女4名ずつの編成です。モダン・ジャズの名サックス奏者、ベニー・ゴルソンが独自のハーモニーを生かして作曲した「ウイスパー・ノット」では、ベースの鈴木厚太朗さんが安定感のあるソロを聴かせてくれました。トニー・ベネット&レディ・ガガのデュエットでもお馴染みの「チーク・トゥ・チーク」では、ヴォーカルとドラムの小節交換を盛り込んで、ハッピーな名曲をカヴァーしました。シェネルがメンバーを讃えると、大林は「ジャズの素晴らしさを再認識できた。この5日間の感覚をこれからも持ち続けてほしい」とコメントしました。

グループ5「サムシング・クール」は1950年代に人気を博したジューン・クリスティ(ヴォーカル)の名盤に由来。「イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー」はベース・ソロを皮切りに、ヴォーカルとのデュオに進んで3管が加わる、異色のアレンジです。蓼川祐紀さんのベース・ソロに光るものがありました。50年代にモダン・ジャズの巨人、ソニー・ロリンズが作曲した「ペント・アップ・ハウス」では、バリトンサックスの松林杏悟さんが実力を示しました。このグループの長野美穂(ドラム)さんとグループ4「ネルシー」の長野真奈(ドラム)さんは双子の姉妹ということで、おそらくキャンプでは初めてのケースだったと思われます。演奏後、ベニー・ベナックは「音楽に情熱のある生徒に教えるのは、私の喜び」、ヨタム・シルヴァースタインは「3日間の成長ぶりがすごい」と語りました。

受講生がこの日のためのビッグ・バンドで演奏

アンサンブル・グループから編成を拡大した5×トランペット+5×トロンボーン+5×サックスのビッグ・バンドが、ステージにスタンバイすると、講師リーダーのマイケル・ディーズの指揮でプログラムがスタートしました。
1曲目は故ロイ・ハーグローヴ(トランペット)がビッグ・バンド・リーダーとしての才能を世界に知らしめた2009年のアルバム『エマージェンス』からの「ミスター・ガーヴェイ、ミズ・ガーヴェイ」です。3人の管楽器奏者がソロをリレーする構成で、先ほどのスモールアンサンブルでフィーチャーされた松林杏悟さんと、加藤玄二郎(トロンボーン)さん、荒木真里奈(トランペット)さんが好演。
続く「ショート・ケーキ」は、モダン・ジャズ・トロンボーンの巨人、J.J.ジョンソン作の楽曲ということで、中牟田翼さんがテーマとソロでフィーチャーされて、速いパッセージを交えたプレイで期待に応えてくれました。鈴木厚太朗さんと見島祐奈(トロンボーン)さん、宮崎哲(ピアノ)さんも光りました。
3曲目が始まる前に、ディーズがテーマ・メロディの口真似を始めて、観客との即興的なやり取りも含めて会場を盛り上げます。そしてスタートした「ワン・オブ・アナザー・カインド」は、パワフルなテクニシャンとしてジャズ史にその名を刻むフレディ・ハバード(トランペット)の作曲で、ここでは山口将大(トランペット)さんがフィーチャーされました。また高見一慧 (テナーサックス)さん、海老原颯(ドラム)さんも好演。演奏が終わると、ディーズは「ジャズ史上、最も難しい曲にチャレンジした。このビッグ・バンドは毎年素晴らしくなっている」と、メンバーを称賛しました。
スタンダード・ナンバーの「ザ・モア・アイ・シー・ユー」では、三浦香奈(トロンボーン)さんがスローなテーマを演奏。この曲をレパートリーとしたモダン・ビッグ・バンドの横綱格であるカウント・ベイシー楽団のマナーに則ったアレンジで締めくくりました。
このセットの最終曲は名作曲家ジョージ・ガーシュインが書いた「アイ・ガット・リズム」です。この曲を自身のオーケストラのレパートリーにしている守屋が指揮をとって、3管のソロ・リレーとコール&レスポンスを盛り込んだアレンジによって現代的なサウンドに仕上げてくれました。
5曲の演奏が終わったところで、ディーズが総評を述べました。「講師として、この素晴らしいキャンプを過ごしたのは久々のこと。学生たちは美しい態度と姿勢の成果を見せてくれました。彼らは今後ジャズのリーダーになっていく存在です。Seiko Summer Jazz Campで彼らと私がこのような関係を作ってきたことを、誇りに思っています。また講師陣のことも誇りです。今日が今年の最終日ですが、来年のための良いアイデアをすでに持っています」。
ここまで話したところで、「今回は新しい賞を制定しました」と紹介して、講師陣の最優秀賞を発表。そしてロドニー・ウィテカーの名前が呼び上げられました。1968年生まれのウィテカーは、他の多くの講師たちよりも年長でミュージシャンとしてのキャリアも長いベテランの著名人。リアル開催が再開した昨年からスタッフに加わったことによって、講師の間に良い影響を与えたことが、この新設された賞の授賞に繋がりました。

優れた才能を認められた受講者に贈られる表彰式

昨年に新設されたヤマハ賞は2019年からの協賛社である株式会社ヤマハミュージックジャパンが、管楽器奏者3名に贈るもの。続いて各楽器の担当講師から各賞の発表と、副賞の授与が行われました。優秀賞「Most Improved Student Award」は、山口将大(トランペット)さんと松林杏悟さんが受賞。「今年のトランペットはSeiko SJC史上、最高」(ベニー・ベナック)。「彼のビデオを観て、美しいサウンドと情熱を感じた」(ディエゴ・リヴェラ)。優秀賞「Best Arrange & Composition Award」に輝いたのは、16作品から5作品に絞られて、最終選出されたグループ「ウエインズ・ドメイン」の市川空(ピアノ)さん。「新しい、素晴らしいアイデアが詰まっている」(守屋)。「Spirits of Jazz賞」を受賞した鈴木真明地(アルトサックス)さんは、2017年の優秀賞受賞者である鈴木風雅(トランペット)さんの実弟です。「ジャズとは自分を自由に表現するもの」(ディエゴ・リヴェラ)。特別賞「Special Recognition Award “Future of Jazz”」はグループ「エーシー」の海老原颯さんが受賞。「Seiko SJCは特別なファミリー。特別なものがある」(クインシー・デイヴィス)。そして最後に発表された最優秀賞「Most Outstanding Student Award」は、グループ「エーシー」の平田晃一(ギター)さんが獲得しました。「私は世界中で教えていますが、この若さでこれだけの能力を持つ受講者に会うのは珍しい。日本のジャズ・ギター界の未来は明るい」(ヨタム・シルヴァースタイン)。
ステージで副賞を授与したセイコーグループ株式会社代表取締役会長 兼 グループCEO 兼 グループCCO 服部真二氏が、「今日の素晴らしい演奏に感動しました。プロになったキャンプの卒業生は60名。私が果たせなかった夢――人生をジャズに賭ける――を皆さんに託したいと思います」と総評を述べました。

授賞式に続いて、講師陣による約20分間のライヴが行われ、「I didn’t Know What Time It Was」と「シダーズ・ブルース」を演奏。3時間を超えるステージはエンディングを迎えました。

Seiko SJC 2023の受賞者6名は以下の通りです。

最優秀賞「Most Outstanding Student Award」
ギター 平田 晃一さん

「ギターを習った経験が少なく、年長者との共演が多かったので、今回は有意義で楽しかった。音楽的にオープンで、リスナーを幸せにできるミュージシャンを目指したいです」

特別賞「Special Recognition Award “Future of Jazz”」
ドラム 海老原 颯さん

「1日中音楽のことを考え続けた濃厚な5日間でした。自分がより深く音楽と向き合えたのが良かった。今後はトラディショナル・ジャズからポップスまで幅広く挑戦したいです」

Spirits of Jazz賞
サックス 鈴木 真明地さん

「兄と姉が参加していたので、自分がSeiko SJCに参加することは憧れでした。すでにプロ活動をされている方々と出会えて、これからの自分の可能性が見えてきたのが収穫です」

優秀賞「Best Arrange & Composition Award」
ピアノ 市川 空さん

「音大を卒業して2年が経ち、改めて学ぶ機会を得たことで自分の欠点や足りない部分に気づけたのが収穫。作曲面でもっとスキルを磨いて、創作活動に力を入れていきたいです」

優秀賞「Most Improved Student Award」
トランペット 山口 将大さん
サックス  松林 杏悟さん

山口さん
「ニューヨークのトップ・ミュージシャンから学び、同世代の受講者と演奏する環境に刺激を受けました。音を聴いただけで自分であるとわかってもらえる個性を目指したいです」

松林さん
「まだジャズの経験は浅いのですが、この5日間を通して本当に勉強になったので、これからジャズを復習して、フュージョンとファンクを目標にしながら今後に繋げたいです」

ヤマハ賞
サックス   高見 一慧さん
トランペット 藤野 拓人さん
トロンボーン 中牟田 翼さん

最終日のすべてのスケジュールが終了したところで、講師リーダーのマイケル・ディーズに話を聞きました。

●昨年(2022年)はキャンプで指導されませんでしたが、一昨年のキャンプと比べて、今年の学生たちをどのように思っていますか?

私にとって、今年はこれまでのキャンプの中で最高のものでした。ここ数年、キャンプは成長を続け、ますます良くなってきました。教職員が生徒たちにとても上手に指導してくれるし、年長の生徒が若い生徒に教えることも良い効果を生んでいると思います。そのようなわけで誰もが成長して、一緒に音楽がもっと好きになっています。だからこそ、ジャズは家族のようなものなのです。家族は、お互いに交流したり共演すればするほど、関係が強くなりますから。

●今年の学生は過去のキャンプに比べて、平均的なレベルが上がっているということですか?

あらゆる意味で、また多くの点でそれは認められます。受講の姿勢、レッスンに取り組む熱意、教職員への敬意、他の人の演奏に対する傾聴、受講者どうしの友情、そして彼らの技術的スキルがすべての楽器セクションで向上しています。リード・トランペット奏者の音はとても素晴らしかったです。ジャズ・オーケストラの最も高い音域を担いました。そして、最も低い音域のバリトンサックス奏者も優秀賞「The Most Improved Student Award」
を受賞しました。みんなが一緒に成長し、学んでいくのを見るのは素晴らしいことです。

●学生が世界で活躍するためには何が必要だと思いますか?

最も重要なのは、親切で良い人間になることです。自分自身に優しく、他の人にも親切にすると、周りの人全員がより良い気分で共同体として協力できるようになります。ジャズは自分の周りのコミュニティの反映です。つまり、コミュニティが強くなれば、ジャズも強いのです。ですから、人間性を磨いて、どうすれば人々に貢献できるかを考えてください。 それは上級プレイヤーにとって重要なことです。上級者は若いプレイヤーに、どのような手助けができるか、どうすれば聴かせる演奏を見せられるかを尋ねるべきです。練習方法の助言ができるはずです。上級者はプロのプレイヤーを見て、どうすれば上達できるのかを尋ねる必要があります。どうすれば向上できますか? コミュニティにどうやって恩返しできるのでしょうか?といった質問です。私たち全員が協力して取り組むことが非常に重要です。 初心者、中級者、上級者、プロのプレイヤーが、私たちが望む音楽コミュニティの構築に貢献します。

●来年キャンプへの参加を考えている若い人たちにコメントをお願いします。

私は米国全土と世界のいくつかの国で開催されたキャンプで指導してきました。その経験を踏まえて言えば、このキャンプは特別です。なぜなら、リーダーシップ、協力的なセイコー、そして教職員全員が学生たちのことを非常に気にかけているからです。 私たちは彼らを気づかい、彼らが成長して成功し、生涯続く関係を築くのを見守りたいと思っています。 それは、世界のどのキャンプとも異なる、このキャンプの非常に特別でユニークな部分です。 日本の学生たちはこのような機会に恵まれてとても幸運だと思いますよ。ジャズが大好きな人、あるいは単にジャズが好きな人や、ジャズに興味がある人でも、ぜひこのキャンプに参加してほしいと思っています。

講師たちは全国4都市のツアー「Seiko Summer Jazz Camp ALLSTARS」へ!

ガラコンサートで最高潮に達した受講生たちのエネルギーをしっかりと受け止め、講師たちは東京、札幌、大阪、横浜と全国4都市のツアー「Seiko Summer Jazz Camp All Stars」に出発しました。追ってライブレポートもご紹介していきます。

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