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Seiko Summer Jazz Camp ALL STARS @ Billboard Live YOKOHAMA

Report

Seiko Summer Jazz Camp ALL STARS @ Billboard Live YOKOHAMA

2023年8月23日@Billboard Live YOKOHAMA


Seiko Summer Jazz Campの講師たちが結成したオールスターズが横浜の新名所に出演

8月14日から18日までの5日間開催されたSeiko Summer Jazz Camp。今年も短期間で目覚ましい成長を遂げた40名の受講者を指導した、第一線で活躍中のトップ・ミュージシャンである講師陣が、キャンプ終了後にSeiko Summer Jazz Camp ALL STARSとして4都市を巡演するスペシャルライブに登場。これはキャンプに参加できない若者や地方在住者から、「せめて先生たちのコンサートが観たい」との声が寄せられていたことを踏まえた新しいプロジェクトだ。8月19日@ヤマハ銀座スタジオ、20日@札幌芸術の森アートホール大練習室、21日@Billboard Live OSAKAの3公演を経て、23日にBillboard Live YOKOHAMAで最終公演を迎えた。そのステージの模様をレポートする。

マイケル・ディーズのMCでプログラムが進行

7名のオールスターズがステージに登場すると、講師リーダーのマイケル・ディーズ(トロンボーン)がMCを務めて、メンバーを紹介。最後に「ダウンビート No.1トロンボーン」と自己紹介したのは、アメリカの老舗ジャズ誌「ダウンビート」8月号で発表されたばかりの「批評家投票」で首位に輝いたホットなニュースを引用したもので、歴史と権威のある専門誌で高い評価を得たことが、Seiko Summer Jazz Campのグレードアップを意味していることは明らかだろう。

オープニング・ナンバーの「フォアサイト」は、作曲者でSeiko Summer Jazz Campのピアノ講師を務める大林武司が9月リリースのトリオ新作に収録したタイトル曲。ピアノ独奏を皮切りに、ドラム・ソロを挟んだフロントの管楽器3名によるテーマでスタートした。先発ソロの大林がリズミカルなタッチで楽想を展開すると、2番手のディーズは速いパッセージを織り交ぜながら、高音域も自在に扱って実力者ぶりを印象付ける。続くディエゴ・リヴェラ(テナーサックス)はそのたたずまいが、90歳を超えた今も現役の巨人ベニー・ゴルソンを想起させた。ヨタム・シルバースタイン(ギター)のギター・ソロもリレーして、エンド・テーマに落着。

2曲目の「セイヴ・ユア・ラヴ・フォー・ミー」は60年代にナンシー・ウィルソンが歌ったアルバムで知られるスタンダード・バラードで、Seiko Summer Jazz Campのトランペット講師、ベニー・ベナックIIIが自慢のヴォーカルを披露。当夜はSeiko Summer Jazz Campのヴォーカル講師のヴォーカリスト、シェネル・ジョンズが大阪公演の後帰国したための対応と思われるかもしれないが、実はベナックIIIは今年、ヴォーカル作『Third Time’s The Charm』をリリースしている二刀流であり、むしろシェネルの不在がオールスター・メンバーのキャラクターを浮き彫りにする効果を生んだ格好だ。ブルージーなギター・ソロを受けて、エモーショナルな歌唱が続き、3管がバッキングをつけるバンドの相互作用で楽しませてくれた。

©︎ Ami Hirabayashi (amigraphy‬)
©︎ Ami Hirabayashi (amigraphy‬)

講師たちがそれぞれの見せ場を作るプログラム

3管が袖に下がって始まったボサノヴァの始祖アントニオ・カルロス・ジョビン作曲の「トリステ」は、ジョビンとフランク・シナトラの共演作やサラ・ヴォーンに代表される英語歌唱で知られるナンバー。ヨタムをフィーチャーしたのは最新作『Universos』が、南米色も取り入れた作風だったので納得の選曲なのだが、ポルトガル語で歌い始めたことには驚いた。選曲を委ねられたヨタムが敢えて自身のヴォーカルを前面に出すことを企図したのならば、SeikoSJC ALL STARSが予定調和の顔見世的な興行を望まなかったと想像できて痛快。大林がブラジル音楽を研究した跡を聴かせ、ロドニー・ウィテカー(ベース)がソロをとったシーンは、この選曲だからこその副産物となった。

4曲目の「グランドセイコー/ベイビー・グランド」はディーズの独壇場と言っていいナンバー。無伴奏トロンボーン・ソロのイントロで技巧を示すと、トランペットに続く2番手のソロでは、テンポをミディアム・スイングに変えて楽曲のバリエーションをつけた。前述したディーズの自己紹介をキャッチした観客ならば、この曲でのプレイがその証明になったと納得できたに違いない。

ここで講師・特別顧問の守屋純子(ピアノ)が大林と交代し、自作曲「フラワーズ」を演奏。まずピアノが口火を切ると、テナーサックス~+トランペット~+トロンボーンでメランコリックな3管テーマを完成させて、ピアノ~ギター~テナーサックスとソロをリレ-。特に3番手のソロを担ったリヴェラの歌心溢れるプレイが印象的だった。守屋はこの曲を2006年発表のセクステット作『プレイグラウンド』に収録しており、少し編成を変えたSeikoSJC ALL STARSでは楽曲に新たな生命を吹き込む企図があったと思われる。

「この2週間、日本で素晴らしい時間を過ごしました」と、Seiko Summer Jazz Camp 2023での日々とその後のツアーを振り返ったディーズは、ウィテカーへの賛辞も述べた。30年以上に渡って第一線で活躍し、ミシガン大学やジュリアード音楽院、デトロイト交響楽団等での教職を歴任してきたベテランは、8月18日に開催されたガラ・コンサートのステージ上で、新設の講師陣の最優秀賞を受賞しており、指導者の間でも尊敬を集めていることが明らかになった。ベナックIIIとリヴェラが袖に下がって始まった「ジャスト・スクイーズ・ミー」は、デューク・エリントンのナンバーで、ヴォーカリストにも好まれるスタンダード曲。ここではベースがテーマを奏で、そのまま先発ソロへと進行。トロンボーンがソロを引き継ぐと、ドラムとの小節交換へと展開し、細かいタンギングやディジー・ガレスピーの「ソルト・ピーナッツ」を引用したアドリブ構成によって、ディーズが再びテクニックを披露した。

©︎ Ami Hirabayashi (amigraphy‬)

2023年キャンプの受講生が飛び入り参加する嬉しいハプニング

7曲目の「フィナンシアー」は今回のSeiko SJCで「Spirits of Jazz賞」を受賞した鈴木真明地(アルトサックス)さん作曲のナンバーで、ディーズは「素晴らしく個性的」と絶賛。ラテン風味の3管テーマで始まる楽曲は、モダン・ジャズのマナーに則った作風で、メンバー5人のソロ・リレーを経てエンド・テーマに至った。
ここでベナックIIIが客席にいるキャンプ参加のトランペット奏者2名に向かって、ステージに上がるように呼び掛ける。トランペット、テナーサックス、ベース(ディーズ)のトリオで始まったのは、ビバップの名曲「ヤードバード組曲」だ。守屋による先発ソロに進む頃には、ジャム・セッションのような雰囲気が醸し出された。ベナックIIIが「ぼくの楽器を使って」と促すと、18日のガラ・コンサートでリヴェラが指導したグループ「エーシー」所属だった斎藤凛太郎さん(トランペット)がソロをとり、自身のトランペット&スキャットを挟んで、同じトランペット奏者の藤野拓人さん(ドラムスのクインシー・デイヴィス指導のグループ「キュー・スナップ」所属)のソロにリレー。予定になかったと思われる飛び入りのステージで、会場は大いに盛り上がった。大林は「Seiko Summer Jazz Campからはすでに約250名の受講者が生まれていて、(自身がピアニストを務める)MISIAバンドにもキャンプの卒業生が入っている」と、キャンプで学んだ者の活躍ぶりと素晴らしさを紹介した。

ここまでで本編が終了し、メンバーが退出。すでに規定の時間が超過していたが、アンコールに応えて再登場。するとベナックIIIとディーズがヴォーカルで掛け合いを演じ始める。再びエリントン・ナンバーから「ドゥ・ナッシング・ティル・ユー・ヒア・フロム・ミー」だ。テナー~ギター~ピアノのソロ・リレーを経て、スキャット合戦に発展。バピッシュなムードを醸し出す中、ベナックIIIは芸達者ぶりを、ディーズは7曲目のベース演奏を含めたマルチプレイヤーぶりを印象付けた。ウィテカーに対するディーズの、敬意あるステージ・マナーも特筆したい。90分近くに及んだパフォーマンスは、今年2023年のSeiko Summer Jazz Campの成果を象徴するシーンを現出したのだった。

■Set List
・Foresight
・Save Your Love For Me
・Triste
・Baby Grand
・Flowers
・Just Squeeze Me
・Financier
・Yardbird Suite
・Do Nothing Till You Hear From Me

■Personnel
ベニー・ベナック III(Tp, Vo)、マイケル・ディーズ(Tb)、ディエゴ・リヴェラ(Ts)、大林武司、守屋純子(Pf)、ヨタム・シルバースタイン(G)、ロドニー・ウィテカー(B)、クインシー・デイヴィス(Dr)

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