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米国との深い関係を築く講師、大林武司がSeiko Summer Jazz Campの魅力を語る

Interview

米国との深い関係を築く講師、大林武司がSeiko Summer Jazz Campの魅力を語る

ピアノ講師 大林武司

Profile

  • 大林武司(おおばやし・たけし)

    大林武司(おおばやし・たけし)

    大林武司(おおばやし・たけし)

    1987年、広島県生まれ。2007年に米ボストンのバークリー音楽大学に入学。在学中より本格的に演奏活動を開始。コンペティションでの実績も多数あり、2016年度にはフロリダで毎年行なわれる全世界の若手ジャズ・ピアニストの登竜門「Jacksonville Jazz Piano Competition」に日本人で初のグランプリを受賞。同年初のトリオ作『マンハッタン』を発表。ニューヨークを拠点に自己のバンドやユリシス・オーウェンズJr.との共同プロジェクト「ニュー・センチュリー・ジャズ・クインテット」のほか、ホセ・ジェイムズ、黒田卓也、MISIAバンドのレギュラー・ピアニストとして世界的に活躍。第1回Seiko Summer Jazz Camp 2016から講師を務める。

ジャズとの出会いからバークリー音大への道

ピアニストの大林武司は、ニューヨークからの来日組が多いSeiko Summer Jazz Camp(以下SSJC)の講師陣にあって、ピアノ・編曲の守屋純子と並ぶ日本人指導者だ。2015年にアルバム・デビューした若手日米混合ユニット、ニュー・センチュリー・ジャズ・クインテット(NCJQ)のメンバーとして日本での知名度を高めた。メンバー5名が第1回SSJCの講師を務めており、その意味で大林はキャンプの礎を築いた功労者と言える。
「CDやエレクトーンでジャズを耳にすることはありましたが、中学生の時、地元の広島に古谷充(as)さんがいらっしゃって、その時にアコースティック・ジャズの生演奏を初めて聴きました。音の良さとスウィング・フィールにわくわくして、かっこいいな、楽しいなと思ったのがジャズとの最初の出会いです。ただそこからすぐにジャズのレコードをたくさん聴いたというわけではなく、ジャズを愛聴し始めたのは大学に入ってから。ジャズは難しいイメージがあって、自分には演奏できないと思っていました。2007年にバークリー音楽大学へ行く前に、東京音楽大学の作曲家に1年間在籍。その年の夏に山下洋輔さんが国立音楽大学で行った3日間のピアノ・レクチャーに参加して、ベース+ドラムと初めて共演するなど、新しいものを得ることができました。そこから自分でジャズを演奏し始めて、その直後にバークリーの試験を受けたら奨学金をいただけた、というわけです。自分に適正があると判断してくれたのだと思い、ジャズにチャレンジすることにして、2007年から丸4年間在学しました」。

海外のミュージシャンとの共演を通じて学んだこと

バークリー音大時代に指導者と友人に恵まれて、さらにジャズに傾倒。意識してプロを目指したのではなく、彼らといっしょに演奏する間に、気が付いたらプロになっていた。同大卒業後すぐにニューヨークへ拠点を移したのは、アメリカのジャズのメッカでさらに学びたい気持ちがあったからに違いない。その後、数多くの海外のミュージシャンと共演し、30ヵ国以上のクラブやフェスティヴァルに出演した経験の中で、日本人であることを意識する場面もあった。
「西洋音階を使うのは同じですが、国ごとに文化や言語が違うので、その違いが音楽に表れている気がします。日本よりも海外の方が、感情表現が大きい。音楽を表現する上で、日本人の奥ゆかしさも素晴らしいし、外国人のオープンな性格も良さがあります。例えば出身国の異なるミュージシャンのバンドの場合、ツアーで食事を含めて長く同じ時間を過ごすことによって、最初に自分がしっかりと感じられなかったグルーヴや、自分のリズムが彼らと合っているのだろうか?という思いが、ある日突然、耳馴染みが出てくる変化が起こったりします。自分に関しては、海外の複数のミュージシャンから、『ブルージーなところがいい』と言われました。うねりのあるタイム感覚が好きで、それを追求したいですね」。

受講者のモチベーションを上げるお手伝いをする感覚

アメリカ、パナマ、中国、ドーハ、カタールのマスタークラスを経験し、ヨーロッパではフェスティヴァルと付随した形で指導してきた大林にとって、SSJCのように4日間、集中的に行う形は初めてだった。
「ぼくがユリシス・オーウェンズJr.と結成したNCJQのデビュー作を2015年にリリースしたSpice of Lifeの佐々プロデューサーに、声をかけていただきました。留学を決意したのはバークリーが札幌で開催したジャズ・キャンプだったので、その時の記憶を元に、どのようなカリキュラムを組めば受講者が喜んでくれるか、を考えました。何をどのように教えるかについては、講師を務めるNCJQのメンバー、特にユリシスと話し合いながら決めました。彼は教育者としての経験も豊富ですし、ぼくは受講者と同じ日本人の立場でアドバイスができました。大学からジャズを始めたので、まだ何もできなかった時のことを覚えています。それぞれの受講者の目線に合わせて、上達するために本当に必要な第一歩は何かを一緒に考える。自分の失敗談やできなかった時のことを受講者と共有して、こつこつとやっていけば必ず上達する、というモチベーションを上げるお手伝いをする感覚です」。

周囲の音楽を聴き、共演者を尊敬することの大切さ

SSJCの受講者がわずか4日間のキャンプで急速に成長する姿を、大林は見てきた。初日で受講体験に感銘を受けた受講者が、2、3日目で準備を進め、最終日のコンサートで集中。その後のジャム・セッションでジャズに対する喜びや情熱が演奏を通じて強く出てくるのが、SSJCの特色だと考える。受講者との関係は、指導者としても悩ましい部分もあるようだ。
「受講生は性格が様々。情熱が前に出るタイプなら、そのまま後押しすればいい。まだ情熱が隠れていたり、技術的には素晴らしいけれど自分と周囲を信じ切れていないような受講生を、どのように指導するか、火をつけるか、については考えますね。ぼくを含めて講師は受講生に対してありのままに言います。何かがおかしければ、すぐにおかしい、と。普段、他の人に言われて理解しないことでも、世界で活躍している講師から直接聞ける言葉は、後々にも響きます。それは他ではなかなか得られないもの。講師全員に共通する思いは、技術云々ではなく、まず周囲の音楽を聴き、共演者をきちんと尊敬すること。そういったところからの指導を心掛けています」。

無料で参加できるのは、他のキャンプにないSSJCの大きな魅力

2020年のSSJCはWeb Jazz Campとして4日間のカリキュラムが開催された。大林が考えた指導内容は、ピアノの音を鳴らす仕組みとは何か、どうすれば自分に負担がなく、いい音を出せるか、から始めて、基礎的な音楽理論の知識をどのように演奏で生かしていくか。その過程を見せることに重点を置いた。今回のリモートのビデオは、受講生の資格がなくても視聴可能だったので、今後の参加を含めてSSJCを幅広く知ってもらうための良い機会になった、と語る。
「書類審査を通過した受講生が、無料で参加できるのは、他のキャンプにないSSJCの大きな魅力。最優秀賞の受講者が留学できる制度も、大きなモチベーションになると思います。素晴らしい施設が用意され、学んだことを最終日のコンサートでしっかりと実践できる。その後に打ち上げがあるキャンプは珍しいですね(笑)。4日間の間に受講者どうしが交流する機会はありますが、さらに今後ずっと共演できる仲間との出会いがある場所として、打ち上げもSSJCの魅力です」。
「講師陣の演奏は東京での開催だけでしたが、他の場所でも演奏できればSSJCの知名度が上がるし、インターネットやビデオでは得られない情報をコンサートで体験できます。ジャズのカッコ良さを伝える上で大きな反響を呼ぶだろうし、広がっていくと思います。それから応募者のテープに対して講師が何かコメントができる方法があればプラスになると思います。落選してもまた次回の応募へのモチベーションに繋がるかもしれませんね」。

無料で参加できるのは、他のキャンプにないSSJCの大きな魅力

コロナ禍で2020年3月に帰国した大林は現在、ピアノ教室を経営する実家の広島を拠点にして、ライヴやレコーディングで活動中。さらに海外で研鑽を積むために、状況が好転すれば、すぐにでもNYに戻りたいと考えている。
最後にSSJCへの参加を検討している方々に向けて、メッセージをお願いした。
「自分が海外に行かなくても、本場アメリカの音を体感できる機会。講師陣と直接4日間過ごすと、明るくポジティブなエネルギーにすごく勇気をもらえます。高い音楽的素養も大切ですが、1回、2回落ちても応募してくれる方もいて、そのような情熱には期待します。キャンプを受けるために、どのように自分と向き合って、上達すればいいのかを考えられるかどうかは、長い目で見れば大切なこと。習熟度を問わず、何度でもトライしてほしいですね」。

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