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第3回Seiko Sum第3回Seiko Summer Jazz Campで初の特別賞に輝いた進境著しい新星ドラマー

Interview

第3回Seiko Sum第3回Seiko Summer Jazz Campで初の特別賞に輝いた進境著しい新星ドラマー

2018年参加者 / ドラム 中村海斗

Profile

  • 中村海斗(なかむら・かいと)

    中村海斗(なかむら・かいと)

    中村海斗(なかむら・かいと)

    2001年アメリカ・ニューヨーク市生まれ。1歳で栃木県栃木市に移住し、小学1年生から群馬県太田市で育つ。
    6歳少し前からドラム教室で学び、渡辺貞夫が指導するアフリカン・パーカッション・グループEscola Jafroに小学5年生から所属。小学6年生からライブハウスのセッションに参加し始め、中学生でセッション・ホストを務める。また中高の6年間は部活動のビッグ・バンドでドラムを担当。中学2の時に石若駿(ds)のライブを見て衝撃を受け、プロを目指すことを決意する。
    高校2年生で第3回Seiko Summer Jazz Campに参加し、クインシー・デイビス(ds)から指導を受けて多大な示唆を得る。特別賞(Special Recognition Award)を受賞。2018年10月に尚美ミュージックカレッジ主催の「高校生ソロプレイヤーズコンテスト2018」にて優秀賞を受賞。2020年、高校卒業と同時に東京へ引っ越し、ライブ活動を加速。同年9月、奨学金を得て米バークリー音楽大学に入学。現在2組のリーダー・トリオを率い、数多くの著名ミュージシャンを助演している。

ドラムを始めて自己の音楽世界を作った少年時代

Seiko Summer Jazz Camp(以下SSJC)の卒業生ドラマーの中では出世頭と言っていいだろう。2001年にニューヨークで生まれた中村海斗は、1歳で日本に移住。幼少期を栃木市で過ごし、小学1年生から高校卒業までは群馬で育った。ドラムを始めたのは6歳前からで、そこには両親が深く関係していた。
「父親はドラマーですが、当時アメリカ在住だったので、直接指導を受けたことはありませんでした。自宅近くの宇都宮にヤマハのジュニア・ドラム教室があり、『ドラムを習ったら、お父さんが喜ぶんじゃないかしら』と母親に勧められて、通い始めました。ドラムを始めたことを電話で伝えたら、喜んでくれましたね。
ヤマハに月2~3回通い、4年生からは別の教室にも通い始めて、専門的なことを学びました。5年生の時に渡辺貞夫さんが出身地の宇都宮で子供たちに指導するブラジリアン・パーカッション・グループのEscola Jafroに所属。時々、貞夫さんのコンサートにゲスト出演していて、2022年1月の貞夫さんコンサートにも、Escola Jafroとしての出演を依頼されています。

小中高一貫校の音楽の先生がアメリカ人でジャズのトロンボーン奏者で、バイソン片山(ds)さんを招いた地元公演の機会に小学校1年生頃から直接指導を受けたことがありました。スイング・ドラムを叩いたのはその時が初めてです。小中高の一貫校で、5年生の時に一級上の6年生で編成された放課後の部活動のジャズ・ビッグ・バンドで特別にドラマーとして一年間演奏しました。バイソンさんに受けたレッスンが役立ちましたね」。
また楽器の経験としては、市のジュニアオーケストラで小学校2年生から高校3年生までヴァイオリンとヴィオラを演奏し、小学5年生から高校3年生までは学校の吹奏楽でトランペットを担当しました。クラシックと吹奏楽での別の楽器経験は、自分の音楽表現に大きな影響を与えてくれていると思います。

さらにジャズへ傾倒した中学生時代の経験と出会い

小学校高学年でジャズの入り口に触れた中村少年は、6年生の時に地元のライブハウスで開催されたセッションに初参加。人見知りの性格ゆえに、初日は怖くて全然できなかったという。
「2日目は今日はやる!と決心して参加しました。それがきっかけとなってセッションに通うようになり、年長のミュージシャンと共演する機会が増えました。そんな中、セッション・メンバーから『セッション・ホストをやってみない?』と提案されたのです。曲ごとのバンド・メンバーやセット・リストを決める、重要な仕事です。そんな経験を重ねて、地元以外の埼玉県熊谷や栃木県足利、宇都宮、小山のライブハウスにも通い、活動範囲を広げました。
中学の部活動からドラムを担当。そこで初めて本格的にビッグ・バンドに取り組んだと思います。中学2年の時に石若駿(ds)さんが地元を訪れたので、ライブを間近で観ました。その時に大きな衝撃を受けて、プロを目指そうと思ったのです。その一年後の冬に石若さんが高田馬場カフェ・コットンクラブでセッションをやっていたので、自分も参加。その時にドラムや大学の話を聞き、自分の中でこの道を進もうと思いました。
そのようなことがあったので、石若さんが好きになり、影響を受けて、石若さんのルーツを探りました。そこで発見したのがエルビン・ジョーンズ(ds)で、ジョン・コルトレーン(ts,ss)『至上の愛』や、マッコイ・タイナー(p)『ザ・リアル・マッコイ』をよく聴いていました。どうしたらこんな風に叩けるのだろう?と思い、アルバムを聴いて学びました。トランペットも演奏していたため、その後60年代のマイルス・デイビス(tp)にハマって、トニー・ウィリアムス(ds)も大好きになり、映像を観たり『ネフェルティティ』をずっと聴いていた時期がありましたね」。

大きな転機となったSSJCでの受講

中村は高校2年生の2018年にSSJCに参加。前年に参加した友人から実りが多かったと聞き、また母親が知り合いから勧められたことも、参加を後押しした。中村はSSJCの前後に札幌のキャンプに参加経験がある。SSJCにアプライするための応募素材には、高田馬場イントロでのセッション映像「One Finger Snap」を使用しており、これが幸いしたのは本人にとっても意外だったようだ。
「SSJCでは学校以外の場所で自分に近い年齢の人たちと知り合えたことがあまりなかったので、それが収穫でした。布施音人(p)さんとはそこで知り合って、今は自分のバンドで共演をお願いしています。そういう繋がりができたことが嬉しかったですね。ニューヨークで活躍中の先生方に指導を受ける経験はなかなかないので、自分にとっては貴重な時間でした。ドラム講師はクインシー・デイビスさん。当時自分は基礎がまったくできていなくて、そういう部分をクインシーさんが指摘してくれました。その時は指摘されたことを十分に理解していなくて、後で振り返って自分はちゃんと演奏できていなかったと分かったこともありました。レッスン中のクインシーさんの演奏を観て、『何故ドラムの音が全部しっかりと鳴るのか?』と思い、それがきっかけでドラム音の細かい粒立ちを意識して演奏するようになったのです。キャンプを受けた時はわからなかったことが、最近ははっきりと理解できて、演奏でも改善されました。これはキャンプを受けたからこそ、自分で分かったこと。キャンプを受ける前に地元のレッスンでは先生から、『もう教えることはない』と言われたほどジャズができていたつもりだったけれど、実はそうではなかった。それが分かったことも大きな収穫でしたね。
特別賞を受賞したのは、受講者の中では自分が最年少の部類だったので、将来への期待を込めたものだったのかなと思います。期待を意識したので、さらに精進しようという気持ちになりました」。

高校卒業から現在に至る順風満帆なキャリア

2018年10月に尚美ミュージックカレッジ主催の「高校生ソロプレイヤーズコンテスト2018」で優秀賞を受賞。高校3年の2019年夏、アメリカ・バークリー音楽大学の5週間のプログラム:Aspire: Five-Week Music Performance Intensive参加のために、全額奨学金を得て留学し、テリ・リン・キャリントン(ds)から直接指導を受けて、大きな示唆を得る。2020年3月に高校を卒業と同時に、家族で東京へ移住。
Seiko Heart Beat Magazine の協力でSSJC卒業生セクステットによる「A列車で行こう」のリモート演奏に参加。奨学金を得て同年9月、バークリー音大に入学。ただコロナ禍のため、実際にアメリカでの生活は実現しておらず、現在は休学中だ。
その分、ライブ活動は充実していて、高校卒業からまだ1年半ほどのキャリアながら、松島啓之(tp)、鈴木勲(bs)、林栄一、池田篤(as)、高橋知己(ts)、大口純一郎(p)、板橋文夫(p)、米木康志(b)、近藤和彦(as ss)、片倉真由子(p)、浜田均(vib)ら、邦人トップ・ミュージシャンと、また若手新鋭のミュージシャン、石田衛(p)、西口明宏(ts) 、若井優也(p)、須川崇志(b)、中村恵介(tp)、魚返明未(p)、田中菜緒子(p)、永武幹子(p)ら、と共演を重ねている。

「2020年以前の東京へ引っ越す前に、群馬から高田馬場イントロに通ってセッションに参加する中で、そこで知り合ったミュージシャンに認められたのが大きいと思います。イントロで生まれた人間関係が役立っていますね。若手ミュージシャンをサポートしてくれる都内のライブハウスの存在も有難いと思っています。今、二つのリーダー・バンドで活動していて、どちらもピアノ・トリオです。2020年に一度コロナ禍が落ち着いたタイミングで布施音人さんと須川崇志(b)さんにお願いして始動。フリー・ジャズの要素や即興的な要素を重視していこうと思っているバンドです。自分のオリジナル曲がたくさん溜まっていたので、それらを演奏するライブの場があってもいいかなと思ったのもきっかけでした。作曲に関してはスマートフォンの鍵盤アプリを使っていて、楽曲の原型となる素材を布施さんに渡して、作品として完璧に仕上げていただいていて、いつも驚いています。もう一つはSSJCの卒業生でもある壷阪健登(p)さん、古木佳祐(b)さんとのトリオで、コンテンポラリー・ジャズ志向です。
今後の目標は二つのトリオを発展させて、レコーディングやツアーを実現させること。尊敬するミュージシャンたちに呼んでいただいて共演することも、引き続き重要だと考えています。今、ジャズ以外の音楽にも興味があり、打ち込みやボーカロイドのソフトを使い始めていて、自分なりの新しい音楽を作っていければ、と思っています」。

経験者だからこそ実感するSSJC参加者への助言

2018年のSSJCがプロ・ミュージシャンとしての進路に繋がる転機になった中村。一流ミュージシャンからのレッスンを通じて多くを学んだばかりでなく、自分を見つめ直す大きな契機にもなった。その時はせっかく得た機会を十分に生かすことができなかったと思う中村は、将来のSSJC参加者に以下のメッセージを寄せてくれた。

「アメリカで活躍しているミュージシャンが講師として参加しているキャンプです。しかも無料でレッスンを受けられる機会など、なかなかありません。自分が受けた時はまだ人見知りだったので、あまり自分から先生に質問ができなかった。今思うと、あの時に聞いておけばよかった、と思うことが後から色々と出てきたので、躊躇せずに聞いた方がいい。質問をされれば先生たちも喜んで教えてくれるだろうし。なかなかそのようなチャンスはないですよ。そして何より、SSJCに参加したことを楽しんで欲しいですね」。

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